68 初飛行

 翌朝ダンジョンに行く準備を整えて準備部屋に集まる。



「44階に出るワイバーンはテイムしたいから2戦目以降で拘束は無理でも弱らせてチャンスを作ってくれ。

 使ってくる魔法はウインドカッターで長い首による噛み付きと尻尾の攻撃が強いみたいだ。

 飛ぶには助走が必要で同じ場所に飛び続けるのは苦手らしい。」



 説明を終えてダンジョンに入りワイバーンを探して歩く。

 2匹の群れに出くわしたが倒し方を調べるためウインドカノンは使わずに戦うことにした。

 翼をたたみ二足歩行で現れたワイバーンに魔法を撃ち込み近接組が走り寄る。

 5mを越える体躯にランスが刺さり怯んだ隙に近づくがウインドカッターを躱した所に尻尾で追撃されて再び距離を離された。

 他の階の大型のモンスターと違い動きが素早く隙が小さくて中々大きい攻撃が入らない。

 それでも防御力はそこまで高く無いようで肩に魔法を受けて翼が動かせなくなるとバランスを崩して転ぶようになった。

 転んだワイバーンの首にゴーレムがしがみつきゴブリン達が切り落とす、頭を狙ったトラッドの魔法すら躱して互角に立ち会っていたがどうやら羽や足を狙われると庇おうとして体勢を崩すようだ。

 俺がテイムするために近づくなら肩と足を傷つけてからがいいかな。


 次に出会った群れを1匹まで減らしてもらい弱らせてゴーレムに抑えさせる。

 急いで手で触れようと思い不用意に走って近づいたせいで警戒させたのだろうか突然動き出して尻尾の一撃を受けてしまった。

 咄嗟に盾をかまえて腰を落とすと上手く受けることに成功し吹き飛ばされること無く耐えきった。

 こちらに向かってくる高速の尻尾もよく見えたし盾もどう構えるか何となく分かったのは上がった器用さのおかげだろうか?

 無理に動いたせいかぐったりとしているワイバーンに触れてテイムを使う。



「お前の名前はアーラだ、テイム。」



 繋がりができたのを確認して急いでスカラに治療を始めてもらい歩ける程度に回復したら一度準備部屋に戻ってワイバーンを休ませる。

 5mを越える巨体が入ってきたため35畳の大部屋が一気に狭くなってしまった。

 もう1体欲しかったけど部屋を拡張しようにも魔素が全然足りないために広げることが出来ない、これは効率のいい階層にパーティを分けて行ってもらい稼いでもらうしか無いな。

 30階以降だとパラライズパピヨン、淫魔、バンシー、カースドマミーが比較的安全で少数パーティでもなんとかなる階層か。


 メンバーを振り分け3つの階層で狩りをしてもらうように伝えると俺はもう少し王都から離れるために少数で街道を進むことにした。

 そういえば飛び立つ位置は気にしてたけど着陸はどうしたら良いんだろう?突然街の近くに降りてくるわけにもいかないよな。

 のきねぇさん達に相談しても知らないだろうしレオゲンの街で名前を知っているのは奴隷商と冒険者ギルドのサブマスターだけだが念話を確実に持っているのは奴隷商だ。

 しかし商人が突然言われても困るだろうしサブマスターのヘイディさんに一方通行で伝えるだけでもしておいた方がいいだろうか。

 冒険者ギルドなら念話を持っているスタッフもいるだろうし伝えるだけ伝えておこうかな。



『突然失礼します森猫の影のショウトといいます、実はワイバーンのテイムに成功しまして5日ほど後にレオゲンの街にワイバーンで降り立つ事になるのですが連絡先が他に思いつかないのでヘイディさんに伝えさせて頂きます。』


『王都へ旅立ったのに何故ワイバーンをテイムしているのか理解できないが了解したよ、私から衛兵に連絡しておこう。

 次回からは出発する街の衛兵に頼んで到着先の衛兵に連絡を入れてもらうと良い。

 そしておめでとうこれで一流の冒険者の仲間入りだな。』


『ありがとうございます、次からはそうさせて頂きますそれでは失礼致しました。」


『優秀な冒険者が帰ってくるならこれくらいどうという事もないさ、首を長くして待っているよ。』



 無事に不安を取り除けたけど普通に衛兵に話を通せばよかったのか…そうだよな国なら連絡網とか普通に敷いてるよな。

 レオゲンに戻ったら衛兵の名前も聞いて依頼の移動でも使えるようにしておきたいな。


 ある程度街から離れた所で準備部屋に戻ってワイバーンの様子を確認すると傷は癒え元気に食事をしていた。

 そういえば食料の量も大量に必要になるのか、山になっていたスライムグミを食い尽くす勢いで食べているワイバーンを見て危機感を覚える。

 自分で狩りに行く事も教えるがスライムグミはこういう時のためにも集めておいたほうが良いよな。



「ベラ鞄を渡すから暇な時に1階でスライムグミを集めてくれるか、そこにある武器を使って1、2時間でいいからさ。」


「はい、むしろ仕事がなかったんで助かります、がんばって元通りの山にしてみせますよ!」


「危険は無いけど無理せず休み休みでいいからな。」



 ネットがあるとはいえ準備部屋にずっといるのも暇だよな、レベルは上がってきてるし10階以下の階で戦闘するのも許可してもいいかな。


 ワイバーンのアーラは大きすぎて全体での連携に参加するには邪魔になるので一人で戦える階を探したいのだけどテイムモンスターなのでサボらずに何処まで戦ってくれるのか分からない。

 レベルが上がれば41階のウォーターサラマンダーが食料も出るからいいと思うけどまずは数の少ない25階のウインドコンドルとファイヤリザードがいいかな。

 食料の出る階を教えるために馬のでる8階や牛の出る10階などに行ってみたが種族的な強さが違いすぎて一噛みで倒せてしまったので飛び飛びで階層を案内しても余裕で倒せていた。

 さすがにアースタイガーの動きには苦労していたがウインドコンドルは魔法で撃ち落としファイヤリザードは尻尾で薙ぎ払って倒していたので相性が良さそうだった。

 レベルが上ったらもっと上の階を試すことにしてしばらくは25階でレベル上げをしてもらおう。


 傷も問題無さそうだし鞍と手綱を作って早速空の旅を体験してみよう。

 余っているナイトメアホースの皮を使って製作魔法で作って装着させる。

 ゲートの外に人影が見えない事を確認してからアーラを外に出して何かがあった時のためにダリアと二人で騎乗し飛んでもらう。

 少し地上を走ってから羽ばたいて飛び上がるとどんどん速度が上がり地上から離れていく。

 上昇中は羽ばたくごとに上下して乗り心地は最悪だったが滑空を始めてからは落ち着いて空の旅を楽しめるようになった。

 全身を革の服で覆っている為寒さは大丈夫だけど顔に当たる風が強くて目を開けるのにちょっと苦労する。

 ゴーグルを用意しないと駄目そうだけどガラスと革があれば作れるかな?さすがにプラスチック製を持ってくる気は無いんだけど。

 あとは竜騎士のイメージがあったから槍を持ったダリアを連れてきたけどもしかしたらエルジーとシルフを連れてきた方が良かっただろうか?

 顔に当たる風も何とかできたかも知れないし飛行速度も上げられるかも知れない。

 空を飛んでみたい希望者を順番に乗せたらシルフに頼んでみよう。

 2時間ほど飛んで日が傾き始めたので街道に人気が無いことを確認してから着陸してもらいゲートで準備部屋に帰る。

 渦を巻くようにクルクルと周りながら高度を下げる動きに多少目を回し、慣れない空の旅に疲れを感じながらも地球では絶対に体験出来なかった空からの景色に興奮が冷めやらない。

 アーラに感謝を伝え鞍を外してやると一声鳴き声を上げて部屋の隅で丸くなってしまった。

 明日からの本格的な移動のために急いでガラス板を買ってくる事にしてその前にエルジーを大きさの比較対象として配置してアーラの写真を取る。

 空からの写真も撮れればもっと自慢出来たのにカメラは持ち込めないのが残念だ。

 地球で乗るのは抵触する法律があるかは分からないけど戦闘機やヘリに追い掛けられそうで怖いから出来ない。

 エルフとワイバーンをのきねぇさん達に自慢するだけにしておこう。

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