63 薬師の奴隷

 無事に合流できた渡したカゴ一杯に食べ物を買ったネヴェア達と準備部屋に帰り新人のエルジーとベラから治療をしながら話を聞く。

 治療を始めてみたがエルジーの傷は一時的に火傷の痕が消えていくのだが徐々にまた傷が戻っていった。



「あの奴隷商呪いがあるかも知れないどころかめちゃくちゃ残ってるじゃねぇか。

 聖職者が何も言わなかったってのも口止めしただけだろ絶対。」


「その通りです、私の呪いは解呪魔法で解呪してもすぐに戻ってしまってあの商人が呼んだ聖職者では呪いが戻る前に傷を塞ぐことしか出来なかったのです。

 復活する呪いの力を塞がないと私の呪いをどうにかすることは出来ないかも知れません。」


「その呪いはいつ呪われたんだ?」


「はい、ふた月ほど前から私の契約した精霊が苦しみだし私の中から出て来なくなった後私にも症状が出るようになりました。」



 ニヶ月前というとダンジョンが出来た時期だが2つの世界が繋がった影響で自然環境に関係ありそうな精霊が苦しむのはまだ理解出来るが契約者に呪いとして症状が出るのは分からないな。

 精霊の契約者が弱体化しているなんて話は聞いたことがないしそんな事を言ったら世界中のエルフが大変なことになっていそうだ。

 理由は想像がつかないが解呪魔法でどうにもならないのなら俺に思いつくのはダンジョンの39階にいるカースドマミーが落とした対呪の布だけだ。

 外部から呪いの力が来るのならあれで全身を覆ってしまえば何とかなるだろう。

 念話でゴブリン達に狩り場の変更を伝えて買ってきた食事を食べた後に全員で39階に向かう。

 人数が多いから新人2人がいても余裕で守れるだろう、エルジーを歩かせるのは忍びないので荷車にクッションを入れて座らせて引っ張れば移動も問題無い。


 2人に覚えているスキルを聞いた所ベラはスキルを持っていなかったがエルジーは薬術、ウインドボール、精霊魔法の3つを覚えているらしい。

 ただ二人共戦闘経験は無く馬車で移動中に近くで護衛が戦っているのを見たことがあるだけでレベルも2と4らしい。

 薬術を覚えさせる予定のホムンクルスは考えていたが二人のレベルを上げるかは考えて無かったな。

 器用さを上げるためにエルジーのレベルは上げておきたいがベラのレベルはどうするか考えておかないといけないな。


 2時間かけて40階への階段までたどり着いた俺達は一度準備部屋に戻り用事のないメンバーで引き続き対呪の布を集めに行ってもらう。


 ベッドに取ってきた布を穴ができないように重ねて置きその上にエルジーに寝てもらってさらに上に布をかけていく。

 顔に被せても呼吸は出来るようなので多少巻き付けるように多めに被せておく。

 ツタンカーメンの棺の様になったエルジーへスカラにヒールをかけてもらい治療を始める。

 一緒に布の中に入れたカメラから無線で送られて来る火傷痕の映像を監視しているがヒールの効果が切れても戻る事なくどんどん治療されていく。

 カメラの画像から見えていた一番ひどい腕の火傷が消え去って無くなった手の治療が始まる頃、棺の様な格好になった頃から見え始めていた黒い靄が大きくなってきたのでライトボールを撃ち込んでみてもらう。

 闇には光という認識があったので取り敢えずスカラに撃ってもらったが良く考えたらこの世界は闇属性に光属性の攻撃は減衰するんだった。

 一時的に散らす事はできたが再び集まってきた黒い靄に向けて今度は両脇からサユキとインキュにダークハンマーをぶつけてもらう。

 エルジーに当たらないように撃たれた2つの黒い大玉は靄を挟み込むと凄い勢いで吸い上げた。



「ぷっはー!やっと出れたぁ!!」



 靄が無くなったエルジーの体から突然薄緑色をした半透明の羽の生えた女の子が飛び出すと大声で叫んだ。



「あれ、エルジー変な格好して何やってんの?

 新しい遊びなら混ぜて欲しいけどあんまり楽しそうじゃないね。」


「シルフ!?シルフなのですか?見えませんが出てこられたんですね、よかったです!」


「シルフって事は風の精霊か?精霊は初めて見たけど可愛いものだな。

 俺はエルジーの主人になった翔人、よろしくな。」


「あら、見る目があるわね。でも主人?一体何があったのかしら。」


「その前に自分が呪われていた事は覚えてるのか?」


「呪い?あーあれの事か、そうだひどいのよ!突然精霊魔法の契約内容が一方的に強化されて抵抗したら外に出れなくなったの!」


「契約内容の強化?」


「そうなの!突然契約に絶対服従の項目が追加されたのよ!

 自由を尊ぶ風の精霊がそんな内容で契約するわけ無いじゃないのねぇ?」


「あの、シルフの顔がみたいのですが布を取っていただいてもいいでしょうか?」


「ああ、久しぶりの再会だしな。怪我の治療の仕方も分かったし先にシルフと話すといい。」



 頭部を覆っていた布を外すと顔の半分を覆っていた火傷の痕も消え去りエルフを思い浮かべた時に考える様な美しい顔が現れた。

 フェリやダリアの顔を見慣れていなければ惚れていたかも知れない。


 精霊魔法の契約に絶対服従を追加するなんてどう考えてもダンジョン関連の問題だと思う。

 シルフが契約を続けるかは話し合いの結果次第だが顔を出したままでも黒い靄が増えることもないし対呪の布で服を作って着ていれば問題無さそうだ。

 全身タイツと体型を見せないためのケープとスカート、調薬で交換が必要な可能性のある手袋を複数作っておけば大丈夫だろうか。

 余った分でベラの服を何着かとエプロンも作っておくか。店に毎日帰れる訳じゃないもんな。



「よし、服を作ったぞ動いていいからエルジーとベラはこれを着てくれ。

 カードを持って装着とか装備とか言えば着れるから。」


「は、はい!わかりました!」


「装着ですか?やってみます。」



 39階から戻ってからほったらかしでベット脇で縮こまっていたベラとエルジーにカードを渡して着替えてもらう。

 お高そうな店だっただけあって奴隷にも貫頭衣ではなく普通の古着を着せていたのだがやはり対呪の布は見た目からして生地が上等だ。

 ベラは布も薄手で体型が出るのが気になったのかまだ必要も無いのにエプロンも付けて緊張した面持ちで佇んでいた。

 普通のワンピースにエプロンなのでメイド服みたいだしミニ丈のメイド服も後で作っておくか。



「あ、悪い下着を作るのを忘れてた。」



 全身タイツを想像したせいかさらに薄くなった生地のせいでエルジーはうっすらと見えてしまっていたので急いで作って二人に渡す。



「私まだ何もしていないのにこんなにいい服貰ってもいいんですか?」


「仕事をしてもらうのは一月くらい先になるかも知れないからそれまでエルジーの手伝いとダンジョンについて行ってレベル上げをしてもらうことになる。

 戦うことはないと思うけど一応防具は渡すからがんばってくれ。」


「あ、はい。さっきのみたいな感じなら大丈夫だと思います。」


「あの、シルフと契約を続けたいのですけどさっきの布を頂けないでしょうか、代金は頑張って仕事をしますので何とかなりませんか?」


「ああ、今着てる服があの布を使った物だからそれを着ていれば大丈夫だよ。

 この部屋にいればしばらくすれば汚れも綺麗になるから水浴びや洗濯の必要も無いし装備解除といえばすぐに脱げるからまた黒い靄が増えたり不調があるようなら言ってくれ。」


「ありがとうございます!これでシルフと別れずにすみます。この御恩は頑張って返しますので。」



 嬉しそうにシルフと喜び合っているエルジーを見ているとこちらも嬉しくなってくるが呪いがダンジョンのせいかも知れないのは本当に驚いた、ワールドルールに抵触したというアナウンスも無いし地球にも戻れたので気にする必要は無さそうなので助かったが。

 今は出来ることもないので薬屋を立ち上げるために準備する方を優先して行動しても構わないだろう。

 あとは薬術を持つホムンクルスの用意と飛行できるモンスターをテイムして早めに辺境に帰るとしよう。

 冒険者ギルドと奴隷商のせいで王都に住む気も無くなってしまったしな。

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