54 陽光の花

 1週間後、途中ウォータースネークやフロッグの素材を売りに街に立ち寄りはしたが順調に行程は進み西のライラ湖の南端に辿り着いた。

 こちら側の森はゴブリンが減りフォレストウルフが多くなるらしい、匂いで寄って来るのか襲われる数も増え東の森に比べて進む距離が稼げなかった。

 湖に近付くと今度はウォーターミンクやワニやトンボが襲ってきて遠目にはウォータークラブの姿が確認できた。

 ワニとトンボは依頼書に書かれていた名前からアーグアアリゲーターとウォーターチャージだと思う、ウォーターチャージの方は名前から姿が予想できないので予想だが突進してきてシャワーの様に水を浴びせてくるから多分合っているだろう。

 一度その水を受けたが革の服の上からでも痛みを感じるくらいの水圧があったので嫌がらせではなくきちんとした攻撃らしい。

 アーグアアリゲーターは2mくらいの小型のワニでジャンプ力はすごいが地上にいる時は水壁を出してから飛びかかってくるのである意味分かりやすい、水中にいる時に見つける事が出来ないと被害が出そうだ。


 こちら側の湖は泥沼が無い代わりに岩が多く湖岸まで近づくことが出来る。

 引きずり込まれたら危ないので近付きはしないが景色もよくモンスターがいなければ観光地にでもなりそうな風景だった。

 湖の西側の少し離れた場所にあるらしいが今は昼間だし蜜の匂いを探してもらえば見つかるだろうか?



「フォレコ、トラッド花の蜜みたいな甘い匂いがする場所を探してみてくれ。」


「ニ゛ャ」

「チウ」



 森の植生も違うのか意外と日が射す場所が多く東の陰鬱いんうつとした森とは違って気持ちがいい。

 襲っては来ないがその分生き物も多い様だ、木の実のなっている木も多いし美味しい種類もあるのかな?



「なあネヴェア、色々と木の実が生ってるけど美味しい物はないのか?」


「殆どが酸っぱすぎたり渋かったりして食えたものじゃないけど当然美味い物もあるよ。

 まあこの間食ったタルトとかに入ってたくらい甘いものはそんなに無いけどね、有名なトレントの実とか精霊樹の実とかくらいかね。

 あとは酸味は強いがリンゴやグミ、ブドウ、アケビなんかが人気があるねあんたが持ってくる果実には勝てないけど。」


「精霊樹の実かドライアドに頼んだらもらえないかな?」


「精霊樹は精霊の世界にしかないとか言われてるからもしかしたら交渉できるかもしれないね。」


「ならまた魔石でも餌にして聞いてみるかな。」



 トレントの討伐は確かゴールドランクの依頼で見かけた気がする、それほど美味しいならいつか依頼を受けてみたいな。


 湖の西側に入り湖から離れだすとウルフが減りフォレストキャットやシャドーキャットといった奇襲系のモンスターが増えてきた。

 あまり長時間戦っていないので問題なかったがファイヤーモンキーが近付いてきた時もあったりと魔物の種類も豊富なようだ。


 猪や鹿と戦ったりしながらぐるりと湖を回っていくと少し北側へ行った所にぽつんと小さな広場に沢山の種類の花が咲いた花畑があった。

 月光の花に似たオレンジの花も咲いているが広さ的にも数は月光の花の時の半分ほどだろうか?

 さて、一応ドライアドに話をしてから採取したほうが良いよな。



「ドライアドはいるか蜜を採取させて欲しいんだが!」



広場の外側にある一番太い木からドライアドが生えてきた。



「東のドライアドから話は聞いてるわ、魔力の化け物を連れた奴らって貴方達の事ね。」


「化け物かは分からないが多分俺達だな、陽光の花の蜜を採取させてもらいたいんだけど問題ないかな?」


「問題ないわ、もう他の人間にも知られてしまっているけどこの場所を広めないと約束してくれるならね。」


「分かった約束しよう、もっともすでに場所もほとんど知られているようだけど。」


「でしょうね、ここに来る人間も増えているもの。この広場の花も前は全部陽光の花だったけど今は半分ほどになってしまったわ。」



 沢山の種類の花が咲き乱れた綺麗な花畑かと思ったらどうやら枯れた場所に他の花が咲いたちょっと悲しい花畑だったらしい。



「それじゃあクルスとダリアは採取を初めてくれ。

 ところで精霊樹の実ってのが美味しいって聞いたんだけど手に入ったりしないか?」


「え、貴方あれを食べるつもりなの?復活の秘薬の材料なのよ貴重なものなのよ?

 それをただ食べたいってバカじゃないの?」


「貴重な物だったのかじゃあ手には入らないかな、美味しい木の実を探してただけだからそこまで欲しい訳じゃないんだ。」


「精霊樹の実は管理者の許しがないと無理でしょうね、そもそも精霊樹まで辿り着けないでしょうけど。

 美味しいだけでいいなら精霊の実っていうものがあるけど。」


「名前はさほど変わってないけどそっちなら手に入るのか?」


「精霊の実は精霊が作り出す物だからね、もちろん対価はいただくけど。」


「対価は何を用意したら良い?こちらが用意できそうなのは属性魔石くらいしか思いつかないけど。」


「東のが言っていた物なら対価として十分だわ、むしろ明日も陽光の花から採取してもいいわよ。」


「属性は土、水、光で良いんだよな?」



 この1週間魔力を込めておいた魔石を取り出しドライアドに手渡すと手のひらの上で転がして確かめる。



「東のに聞いてたのより魔力量が多いけどいいの?あんたこれだけで暮らしていけるんじゃない?」


「魔力量に関しては気にしなくていいよ、暮らしていけてもそれだけじゃさすがに暇すぎるからやりたくないなぁ。」


「人間は生き急ぎ過ぎなのよ、生きていけるのに何の問題があるのかしら?」


「そこは暇過ぎると危機感を覚えるように作った神様に文句を言ってくれ。

 それで精霊の実ってどういう物なんだ?」


「精霊の実は精霊が自分の魔力を集めて作り出す魔石みたいなものよ。

 精霊が持つ属性の塊だから使い道も魔石と変わらないわ。」


「他に使い道もないなら遠慮なく食べてしまえるな。」


「今回は私が作るから土属性の精霊の実ね、貴方の魔石も使ってたっぷりと魔力を注いであげるから楽しみにしておきなさい。」



 そう言うとドライアドは目を瞑って眉間にシワを寄せると髪の間からかんざしの様に生えている枝の先に出来た茶色の実が徐々に大きくなっていく。

 その実がメロンの様に大きくなるとドライアドが目を開ける。



「ふぅ、この実を持っていくと良いわ。

 陽光の花も明日には元気にしておくから昼には蜜が採れるんじゃないかしら。」


「ありがとう、採取も終わったみたいだし早速食べてみるよ。それじゃあまた明日。」



 採集を終えてこちらに向かってきたクルスとダリアを連れて準備部屋に入り木の実を人数分に切り分ける。



「さあ精霊の実という珍しい物が手に入ったから食べてみよう。

 サユキはフェリを起き上がらせてくれるか。」


「はいはい、ちょっと待ってね。」



 フェリを起き上がらせると自分を背もたれとして入り込む、サユキの胸を枕にして頭を固定した事を確認して小さく切り分けた木の実をフォークで刺してフェリの口元に持っていく。



「さあフェリ、口を開けてくれ。あーん」


「あ、あーん。」



 食べさせられる事が未だに恥ずかしいのか体に触れるサユキの手が何かをしているのか頬を赤く染めたフェリの口の中に精霊の実を運ぶと咀嚼したフェリが大きく目を見開く。



「あまっ!すっごく甘いです!甘い!」



 残念ながらフェリには食レポの才能は無いようなので続けてサユキの口に食べさせてから自分の分を食べる。



「あっま!何これ甘過ぎでしょ!」


「何だコレ砂糖より甘いんじゃないか!?」



 口の中に砂糖水を注ぎ込まれたかのような強烈な甘味に辟易し水を汲んで二人にも飲ませる。



「これは搾ってから水か炭酸水で薄めて飲もうか、このまま飲むのは健康に悪そうだ。」


「そうですね、美味しいとは思いますがちょっと凄すぎます。」


「美味しいとは聞いてたけどこんな感じだったなんてね。」


「さて、次はネヴェアの番だな。」


「ちょっと待っとくれ今そのままじゃ食べれないって言ってたんじゃないのかい!?」


「その通りだが体験しないのも可愛そうだからね。

クルス、ネヴェアを拘束しろ。」


「はい…」


「ちょっと待ってって!」



 抵抗しようとするネヴェアを後ろから羽交い締めにして命令で無理やり口を開けさせる。

 わざとゆっくり口の中に入れて口を閉じて咀嚼させる。



「ゲホッなんだいこれ!甘いのにも限度ってものがあるだろうが!!」



 キレてるネヴェアに水を差し出してフォレコ達に食べてみるか聞いたが首を横に振ったので10倍に薄めて飲めるようにしてから皿に入れた。

 唯一スカラだけは興味を示して原液を舐めていたが平気そうにしていた。

 一応美味しそうな匂いと甘味以外の旨味も感じられるので薄めさえすれば美味しく飲める。

 


「それで相談なんだけど上級ポーションは後作るだけなんだけど後3日待てば中級ヒールが覚えられるんだ。

 二人の回復をすぐに行うか待つかって相談なんだけどどう思う?」


「あたしは中級ヒールを覚えてポーションは売っちまうのが良いと思うけどね。」


「私はポーションを使って中級ヒールではなく他の物を覚えたほうが良いと思うわ。

 ポーションは割と簡単に手に入るみたいだし。」


「仕事も出来ていないわたくしが言うのも何ですが急がないのであればヒールで回復してポーションは緊急時用にしておくのが良いかと思いますわ。」


「ヒールを覚えないのは無しかなぁ折角ここまで貯めたし無駄になるものじゃないしね。

 それに中級の魔法って名前からして大味だから使い所が難しそうだし。」



 魔素交換で分かる中級魔法の名前はカノン、トルネード、ボムの3種でカノンはまだハンマーの上位だと思うから使えるかも知れないが、トルネードとボムは味方にも当たるので閉所であるダンジョン内じゃ使いにくいし外では環境破壊が心配で使いにくい。

 カノンの威力が知りたいけど覚えさせるなら硬い土属性に効く属性が良いな。



「そうですね、カノンでも城門を破壊するための魔法ですし頻繁に使えるかというと微妙ですね…」


「そんなもの普通の魔物に使ったらミンチになるだけだね。」



 強力な魔法は必要だけどそれならトラッド達に2属性目のランスを覚えさせるのが無駄が無さそうだ。

 今は強力なモンスターが出ると誰かが属性相性であまり戦えなくなってるからな。



「使う本人達が言ってるのに甘えさせてもらってヒールでゆっくり回復しようか、上級ポーションは出来る数によるけど何個か売って活動資金にしよう。」


「それが良いと思いますわ、奴隷に使うには高すぎますもの。」


「そうだね、流石にあたしに白金貨の価値はないよ。」


「そんなことはないさうちに来た以上すぐに白金貨じゃ買えないほどの価値になるよ。」



 ネヴェアは欠損と顔の傷で値段が下がっていただけで本来は金貨4枚を越えるシルバーランクとしてはお高目の奴隷だ、顔はカッコイイ系だが間違いなく美人なので依頼1つで金貨を稼ぐゴールドランクになれば白金貨の値段が付くことだろう。

 そしてダンジョンを使えばゴールドランクの魔物くらい倒せるようになるだろう、問題はネヴェアがゴブリン達に付いて行かないと経験値が入らないことだ使っていないホムンクルスの胚も1個あるし使うことを考えておこうかな。

 明日は昼までそれまでじっくり考えさせてもらおう。

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