49 オークの村
翌朝、起きて朝食を食べてから準備部屋に来るとリリがカードを差し出してきた。
「お?シャドーキャットのカードが出たのかよくやった!」
褒めてリリの頭を撫でるが何故か首を横に振ってくる。
カードの絵柄をよく見ると青く塗りつぶした丸が描かれていた。
「なるほどスライムか、グミを取りにちょこちょこ行ってたけどこいつが先に出ちまうか。
育ててもろくに戦えないしどうしようかな。」
もちろん魔法を覚えさせれば戦うことも出来るのだが元のステータスが低いので他のモンスターに覚えさせたほうが役に立つ。
中級ヒールを覚えるために魔素を貯めたい今こいつを育てるのはリソースが勿体無いな。
「ああ、そうだ。フェリシティは会話は出来るようになったかな?」
「どうかしら、スカラが一晩中がんばってたから治ってるかも知れないけど。」
「あ、あ…あー大丈夫です、声は出ますわ。」
「おはようフェリシティ。顔の青あざも無くなったね、体で痛む所は無いか?」
「ええ、まだお腹の中に違和感がありますがその虫さんのおかげで大分楽になりましたわ。」
「それはよかった。今からこのカードを腹の上に置くからかわいい名前を言ってから召喚と言ってくれ。」
「え、えっとボニータ?召喚。きゃあ!」
突然腹の上に現れた青い塊に驚き悲鳴を上げるフェリシティ。
「悪い、腹はまだ具合が悪いんだったか。と言っても他の場所も無いから仕方なかったんだが。
こいつの名前はボニータ、繋がりがあるから分かると思うがこのスライムはフェリシティの命令に従う召喚獣だ。
ボニータにこのバケツの中に入って俺の命令に従うように命じてくれないか?」
「分かりました、ボニータこのバケツに入ってこの方の命令に従って下さい。」
のそのそとバケツに入ったのを確認するとバケツを持ち上げる。
「あっと忘れてた。フェリシティもネヴェアも俺がパーティ申請と言ったら申請許可と言ってくれ。」
ネヴェアに手を差し出してもらい2人に触れた状態で申請を出す。
「パーティ申請」
「「申請許可?」」
「お、出来たな。今のはあそこのゲートを通るための申請だが危険だから勝手に行かないように。」
必要無いかも知れないが出来るならやっておいたほうが何かあった時に有利だろう。
「それじゃフェリシティとネヴェアはここで待っててくれ世話役にサユキとスカラをつけるから。」
「承知したよ。」
「分かりました、後わたくしの名前はフェリでいいですわ。もう偉そうな長い名前を名乗る立場ではありませんし。」
「そうか?なら俺も名乗って無かったかも知れないがショウトでいい。」
「ではショート様と呼ばせていただきますわ。」
「あたしは旦那って呼ばせてもらうよ。」
「別に呼び捨てでもいいんだけどな、まあいいや行ってくる。」
スカラとサユキ以外のメンツとバケツに入れたスライムのボニータを持ってゲートを通り森の中を南東へ進む。
「ボニータこの生えている薬草を吸収してみてくれ。」
見つけた薬草の群生地で薬草の前にボニータを出してみるが薬草は一向に溶けない。
諦めて摘み取った薬草と一緒にバケツに戻したがやはり吸収は出来ないらしい。
物語のように薬草を食わせて効能を濃縮出来たらよかったのにな、変わった事といったら薬草の群生地の魔力溜まりが少し薄くなったくらいか。
スライムは魔素を吸収して生きているそうなので周囲の魔素を吸収してしまったのだろう、これで薬草がすべて枯れてしまうのかまた魔素が溜まるのか分からないがそれよりも大量の魔力を溜め込んだ魔石をスライムに与えたら強くなるのかが気になる。
後で光の魔石でも渡してみるようかな。
森を進んでいくとオークが2、3匹で歩いてる事が増えてきた。
腹と睾丸が切り取られたオークを運び込むたびにフェリシティの顔色が悪くなっている気がするが十匹程度で音を上げられては困る、後で50匹は運び込む予定なのだ。
そろそろネヴェア達が野営した場所辺りまで来たはずなのでフォレコ達にネヴェアや焚き火の匂いが無いか探してもらう。
割とすぐに現場に案内されたが雨も降っていないので血の匂いがまだ漂っていた。
周囲を見回すが鞄も荒らされていて遺体も残っていなかったが一応ネヴェアを呼んで見てもらう。
「鞄の中身も確認したが金も持ち去られてるな。残ってるのは着替えと食えない素材くらいか。」
「そうだね、鍋類まで持っていってるってことは鍛冶が出来るくらい村が成長してるんだろう。
上位種がいるだろうから気を付けとくれよ。」
「上位種か、そんなに強さが変わるのか?」
「いや、それを見越してのシルバーのパーティへの依頼だったんだけどね。
精々魔法が使えるやつとか斧術を持ったやつがいるくらいでそこまで変わらないよ。」
「なら問題ないなハンマーが使えるやつが数匹いた所で対して変わらん。
さて、先に進むからネヴェアは準備部屋に戻ってくれ。」
「あいよ、成果が無くて悪かったね。」
そう言うとゲートを通って戻って行ったのでもう一度方角を確認してからオークの村へ向かう。
部屋に積まれたオークが20匹を超えた頃ようやく村が俺にも見えた。
村を囲む壁は無いがゴブリンの家より丈夫そうな丸太を重ねて作った家々が壁を作るように並んで建てられている。
「倒し方は任せる、逃がしてもいいから出来るだけ多く倒してくれ。
家の中には人間が捉えられている可能性もあるから出来れば壊すのは後で頼みたいがやばかったら吹き飛ばしてもいい。」
「「「「ギャギャ!」」」」
気合を入れる叫び声を上げるとゴブリン達が突撃していく。
クルス達は俺の護衛に残り、フォレコとトラッドは遊撃で少し離れた所を歩いている。
村の中にまで入って家の中をゴーレムに確認してもらい安全な家の中を漁って金目の物を探す。
外側の家はほぼ寝るためだけの家の様で毛皮が敷かれているか水が入った入れ物があるだけで金になりそうなものは無い様だ。
ゴブリン達は外側を掃除しているようなので俺達は中央に向かう、中央の家から出てきた金属の胸当てを付けたやつらがどうやら上位種らしい。
その中に1匹杖を持った明らかに魔法を使いますというやつが出てきた。
「フォレコかシドーあの杖持ったやつが狙えるようだったら頼みたいんだけど大丈夫か?」
「ニ゛ャー」
命令になって無理をしないように気を付けて頼んでみたがフォレコが行ってくれるらしい。
すでに一匹はトラッドに貫かれて一匹はインキュのダークハンマーで倒れたが残った連中がクルスとダリアに向かって一斉に突進してくる。
先頭の1匹に隠れていたシドーがウォーターランスを撃ち込むと総崩れとなり倒れていない奴らにダリアとインキュが槍を差し込む。
守ってくれる前衛のいなくなってしまったオークの魔法使いはフォレコにあっさり首を切り飛ばされた。
倒れていたオーク達が慌てて立ち上がるがトラッドとシドーに頭を撃ち抜かれてクルスに頭をかち割られた。
「よし、フォレコはシドーと組んで生き残りを倒せ。
他は家の中を調べるから俺を守ってくれ。」
上位種達に止めを刺し終わると再びゴーレムに家に入ってもらい何事も無ければクルスが入って確認してもらう。
安全が確認できてから俺が中に入るがどうやら俺達が来たことに気がついたからかオーク達の遊びで捕らえられていた人達は皆殺されてしまったらしい。
金目の物と金属を準備部屋に運び、遺体をまとめて家ごとスカラのファイヤーランスで燃やしてもらう。
オーク達の死体もゴーレムに集めてもらい血抜きをして内臓は他の家に入れてこれも燃やしてしまう。
残った家もゴーレムと魔法で解体して再び住み着き難くしておく。
周囲を警戒しているゴブリン達が定期的に追加を持って来るがここまで来るまでに倒した20体ほどを合わせて合計50を超えるオークが準備部屋の隅に積まれた。
数的にはロックウルフと変わらないが丸みがあるし顔色のさらに悪くなった人間もいるので部屋の拡張をしておこう。
思ったより少なかったが村の外にいる奴や逃げた分もいるだろうからこんなものか、ゴブリン達が血まみれで来た時は驚いたが全員で怪我もなく無事に依頼を完了した。
後は街道まで出て街に帰るだけだ、数体のオークを追加で倒し森で一晩過ごしてから次の日街道を北上しよう。
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