42 初依頼

 翌日、朝起きて準備部屋で今日一緒に行動するメンバーに話しかけるとサユキにゴブリンの村で助けた女性を紹介された。

 意識を取り戻したのは知っていたがサユキとインキュバスに従う様に命令して放置していた。

 顔色もよく触れば折れそうだった骨が浮いていた体も肉が着いて意思のある瞳をしている。

 問題は立っている今も頬を紅潮させて太ももを擦り合わせている事か。



「さぁ御主人様に挨拶しな。」


「はい、ダーナと言います。助けていただいてありがとうございます。」


「ジャニスです。助けていただいてありがとうございます。」


「ショウトだよろしくな、二人は冒険者としての知識や技術はあるか?」


「私が出来るのは料理と裁縫くらいで読み書きも出来ません。」


「私も同じです。辺境の村で嫁として子供を産むために買われる予定でしたから。」


「それだと冒険者として俺に使われるよりももう一度商会に売られたほうがいい感じか?」


「そうですね帰りを待つ家も必要なさそうですし夜のお相手も必要無さそうですから。

 名残惜しくはありますが今から荒事を覚えろと言われるよりはもう一度辺境に売られる方が…」


「私も荒事は苦手でゴブリンと戦えるようになれるとは思えません。

 名残り惜しいですが売って頂ける方が…」



 彼女達が辺境に売られたがるのには勿論理由があって辺境の村で子供を産み数年経てば奴隷から平民に戻れるのだ。

 対して冒険者の奴隷はいつ死ぬか分からない上に奴隷から解放されることも無く、下手すれば肉壁にされる危険な売却先だからだ。

 好みの顔では無いし体も細すぎて抱く気になれない、意見が一致したので商会に売らせてもらおう。

 淫魔達に向ける熱い視線も気にしなくていいだろう。



「ならレオゲンの街にある商会の場所は分かるか?」


「私達を売った商会の場所なら分かります。」


「なら午後に森から街まで歩いてもらう。半刻もかからないから安心していい。」



 ゴブリンの村にあった物資の中から彼女達の服と靴は一式拝借してあるが街道を歩くのは問題無いとしても流石に森歩きは無理だろう。

 門から見えない街道脇の森で準備部屋から出て街道を歩いてもらう予定だ、靴底の薄い皮靴とはいえ1時間の歩行くらい大丈夫だろう。


 門が何時に開くか分からないが混み合うのも嫌なので準備部屋で暇をつぶし少し遅めの時間に街を出る。

 出る時は冒険者カードを見せれば何も聞かれずにあっさり通れた。

 一番近い森の中に入って周囲を確認してからゲートからフォレコ、トラッド、スカラ、サユキを出してホーンラビットを探してもらい。クルスとダリアには薬草を探してもらいながら森の奥へと進む。

 途中3匹のホーンラビットを倒して、倒した後そのままの物、血抜きをして内蔵を取った物、内臓を取った後に皮を剥いだ物に分けて準備部屋に入れておく。

 これは何処までを消えてしまう死体と素材と認識してくれるのかの実験だ。

 多分何もしていない死体も残るはずだが。


 薬草は意外と見つけるのが簡単だ、妙に魔力が集まっている場所があるのでそこに行けば大抵生えている。

 一箇所につき10本くらい生えているのでそれを根本から切って袋に入れれば採取完了らしい。

 今の所ホーンラビットとゴブリンしか見かけないが常設依頼にはスモールボアもあったもう少し奥に行ってみるか。


 森に入って約2時間ようやく少し森の雰囲気が変わってきた。

 太陽光が減り湿気が増えてあちこちに小さなキノコが見える。

 どれが食用の物かは分からないが松茸の様に高く売れるものは無いのだろうか?

 そういえば簡易鑑定のメガネ、あれがあれば食用か見分けがつくかも知れない。

 更に進むとキノコを食べているスモールボアを見つけた。

 フォレコの飛爪であっさり首を落とされ、血抜きを待ちながら頭から牙を取る。

 ついでに消えなかったホーンラビットの死体も処理してしまおう。

 1時間以上たっても消えなかったので死体は素材としてちゃんと認識されている様だ。

 内臓を捨てる穴を掘るためのスコップが欲しいな、これも忘れずに買ってこよう。


 血の匂いに誘われたのか狼の群れに囲まれてしまった。

 グラスドッグではなくちゃんとウルフだ、常設依頼にあったフォレストウルフと言うやつだろう。

 6匹のウルフは半円状に俺達を囲むと一斉に飛びかかってくる。

 とはいえ数はこちらの方が多いので一人一匹倒して終わりだ。

 影に隠れたシドーやカバンにくっついているスカラをどう認識したかは分からないが俺を入れなくても6対6では相手が悪かったな。

 さて、解体する物が増えてしまったし今日はこのくらいで帰るか。

 戻って冒険者ギルドと奴隷商会によれば丁度夕方になるくらいだろう。

 アイアンでこの時間だとシルバーの依頼を受ける様になったら数日の泊りがけになりそうだな。


 来た道から少しズレて街道に出る方向に向かって戻る。

 狼の血の匂いのせいかフォレコ達に今日の狩りは終わりと伝えたせいか帰り道にホーンラビットに会うことはなく、何事も無く街道に出れた。

 それでもゴブリンは現れたんだがこの辺にも村があるんだろうか?


 森の中でフォレコ達と交代でダーナ達を準備部屋から出して街道を進み街に辿り着く。



「なんだ、随分と人数が増えてるな。」


「ええ、昨日は現金が無くて外で待っていてもらったんです。

 あ、テイムの印3個もお願いします。」


「あいよ、魔物は1体しか見当たらないがいや、まさかサキュバス!?」


「シドー出て来てくれ、こいつとカバンの虫、サキュバスの3体分ですね。」


「本当にテイムしてるのか?パーティメンバーも女性ばかりで一体どうやって…」


「え、いや普通にテイムしただけですけど…」


「普通に!?ということはサキュバスを満足させたという事か顔に似合わず凄まじいな。

 ああ、すまない印3個とそこの奴隷2分で銀貨3枚と銅貨20枚だ。」



 近くの衛兵からも余程凄い物を…などと聞こえてくるが良くわからないので金を払って門を通る。

 道の端によって先に用意しておいたリボンに印をつける。

 スカラは角に、シドーは首に、サユキは服は製作魔法製で付けられないので首にリボンを巻いて印を付けた。



「先に奴隷商に行きたい案内出来るか?」


「はい、お任せ下さい。」



 大通りをそれて壁沿いに進むと据えた匂いと首輪と鎖を付けられた人間が並べられている区画についた。

 外に並べられていたのは殆どが男だったが看板商品なのか好みではなかったが檻に入れられた美女も少し見れた。

 全体的に薄汚れていて看板商品ならもっと綺麗にしておけば高く売れるだろうにと思わずにはいられない。

 奴隷が並ぶ道を進み周りより一回り大きい建物に入る。



「いらっしゃいませ、今日は売却でしょうか購入でしょうか?」


「売却だ、後ろの奴隷二人を売りたい。後は元冒険者の女の相場を聞きたい。」


「ありがとうございます。部屋に案内しますのでこちらへどうぞ。」



 店に入ると待機していた店員の一人が話しかけてくる、話は部屋で聞くようで2階へと案内された。



「奴隷の売却とのことですがそちらの2人でしたね。」


「ああ、料理と裁縫くらいしか出来ないが淫魔の技術を仕込んである。値付けの前に試してもいいぞ。」


「い、淫魔の技術ですか。確かにそこにいるのはサキュバスですな、肌も綺麗で中々の器量良しですしさらに技術もとなれば色を付けさせていただきます。」



 ゴブリンから助けた時はボロボロだった2人もスカラのヒールを何度も受けてシミやそばかすも消え大量のスライムグミによるバランスの良い食事でガサガサの肌も治っている。

 さらに眉や髪をサユキに整えられて同じ人物とは思えない仕上がりになった。


 それでは失礼してと言って立ち上がる奴隷商に奉仕するようにダーナに命じる。

 ダーナによる口と手技によって数分ともたずに精を吐き出しズボンを戻して再び椅子に座る。



「いやはやお恥ずかしい、確かにこれならば売り文句になりますね。私が欲しいくらいです。

 歳も20を超えてそうですし本来なら銀貨1枚の買い取りになるのですが器量や技術を考えまして2人で銀貨10枚でいかがですか?」


「いやいや、売るときは一人銀貨10枚でも売れるだろう2人で15枚でどうだ。」


「流石にそれは高すぎます2人で12枚が限界ですね。」


「なら仕方ないそれで売ろう。」



 見様見真似で価格交渉をやってみたが適当な値上げに乗ってくれたようだ本来の相場なんて知らないからここで降りよう。



「ありがとうございます。用意させますのでその間ご質問の方に答えましょう。」



 一度部屋の外へ声をかけて金を持ってくるように指示を出してこちらに向き直る。



「元冒険者の女で出来ればシルバー以上だめならブロンズだな。顔に怪我があっても元美人なら気にしないし腕が1本無い程度の怪我なら問題ない。」


「女性でシルバー以上となるとそうそう出回りませんので今うちにはいませんが取り寄せは可能です。

 怪我をして依頼に失敗して奴隷落ちする者が多いので怪我を許容していただけるのでしたら早めに用意できるでしょう。

 相場はそうですね、冒険者でなくても美女となると金貨1枚近くになりますが手足を失うような怪我をしていると半額、顔に傷があればさらに半額が相場でしょうか。

 そこにシルバー以上という条件ですと銀貨20~30枚前後になるかと。

 怪我なしなら金貨1~5枚ですね。」



 ちなみに貨幣についてだが50枚で次の貨幣に上がるので金貨1枚は銀貨50枚もしくは銅貨250枚だ。

 今俺が持っているのは銀貨15枚ほどなのでダーナ達を売った12枚を合わせてもまだ買えない。



「30枚ならなんとかなりそうだが金貨はまだ無理だな。

 冒険者なので足の怪我は困るが両手が無くてもいいから探してもらえると助かる。」


「承知いたしました。一週間もかかりませんので5日後に来ていただければ確認していただける思います。

 近くにいない場合は1月ほどかかる可能性がありますのでその場合、念話をさせていただくのでお名前を教えていただけますか?」


「ショウトだ。」


「ショート様、それでは念話を試させていただきます。」


(ショート様聞こえていますか?)


「ああ、聞こえたよ。」


「ありがとうございます、手付金として銀貨5枚を頂きたいのですがよろしいですか?」


「これでいいか?」


「はい、ではこの割符を無くさないようにお願いします。」



 木の板に契約を書き模様と印鑑を押した後に模様が半分になるように割ると木片を渡してくる。

 丁度金を持ってきた商会員が来たのでダーナ達の譲渡にうつる。



「それでは首輪の宝石に魔力を流しながら譲渡を宣言して下さい。」


「譲渡」



 順番に魔力を流しながら譲渡と言うと商人が首輪の宝石に触れて魔力を流して所有権を受け取る。

 ちなみに破棄を宣言すると奴隷が首輪を外すことが出来るようになり奴隷から開放されてしまうらしい。



「良い取引が出来ました、次もよろしくお願いいたします。」


「こちらこそよろしくな。」



 取引が終わり入り口まで案内されて頭を下げられて送り出される。

 周りの奴隷たちの値段を眺めながらダーナ達の販売価格の参考にさせてもらった看板商品を通り過ぎ来た道を戻る。

 よりいいものを買うためにも資金がもっと必要だ、後5日冒険者ギルドで資金を増やさなければ。

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