第8話 決戦①

 俺はみんなにアカウントの説明を行った後、シルバーに戻り午後の狩りを始めようとしていた。


 「一つ提案がございます。私のスキル”契約”は、有機物無機物関係なしにあらゆるものと契約ができます。周囲を探索できるものと契約することで今より効率の良い狩りが可能となります。いかがでしょう。」


 「なんでもいいのか。そこにいるカラスでもいいか。」


 「全く問題ございません。そいつは魔力を持たない動物ですので、契約もしやすいでしょう。」


 俺が許可を出すと、カラスの足元に文字が浮き出て光り始めた。


 「汝、我が主と契約を求めん。汝には我の魔力を注ぎ汝を魔物とせん。」


 カラスがアホそうに首を傾げた後、こちらを振り返り大きな声で鳴いた。


 「契約成功でございます。我の魔力を対価としましたが、貴方様の命に従いますのでご心配なく。」


 「そうか、ありがとう。お前にも名前をつけないとな。お前の名前は今日からラスだ。」


 黒い翼に青黒い文字で〜Rath〜と刻まれた。そして、呼応するようにもう一度大きく鳴き、空高く飛んでいった。


 なるほど契約の内容が段々理解できてきた。ラスは俺の第三の目となり、辺りの様子を教えてくれる。視線も共有できるようになった。



 新たな手段で狩りに向かおうとする俺たちを呼び止めるように、森の中に大きな地鳴りが響き渡り、森の鳥たちが一斉に飛び去った。


 「なにかあったのかしら。試験が始まった時から遠くから地鳴りが聞こえることはあったけれど、こんなに大きい音は初めてだわ。」


 皆が臨戦態勢に入る中、トゥーラがそう呟き、カデルが怯えるトゥーラを庇うように前に出た。


 「第三の目」

 ラスとの契約で得た新しい力を解放する。


 「ラス、音が鳴った方に向かってくれ。」


 「シルバー、俺たちも向かうか。強いやつの気配がする。」


 そう言いつつも強い気配に圧倒されるトゥーラに気を使うように目をやっているカデルを横目に、俺が答える。


 「いや、ラスが地鳴りの震源地に向かって確認してから、今の俺たちで倒せそうであれば向こう。全員準備をしていてくれ。」


 昨日今日の狩りで俺たちのレベルは大分上がったが、野生の魔物や有象無象のゴブリンやオークではレベルは上がりにくくなっている。これは俺の憶測だが、ゴブリンやオーク、スライムなどの低級の種族はレベル20毎に進化するような気がする。試験が始まる前、試験官らしき大男、兵士、スカーフェイスのオークを見た感じ、大男は40以上で2回進化していて、それ以外はレベル20以上で1度オークからハイオーク、ゴブリンからホブゴブリンへと進化していた。


 俺らのレベルは20目前スカーフェイスとその連れを倒せば進化できるだろう。ここらで大量の経験値を獲得しておきたい。


 「ラスが到着した。状況を伝える。」


 脱兎の勢いで震源地に到着したラス、第三の目でオークの数と戦っている相手を確認する。人間の上半身に蛇の下半身の巨大な女性が戦っている。おそらく魔物名はナーガだろう。ファンタジーの定番魔物だ。


 「スカーフェイスとその連れが巨大蛇型の魔物と戦っている。数で勝るスカーフェイス側が優勢だ。だが、蛇型の魔物は相当強い、劣勢ではあるが1対1であれば、スカーフェイスも勝てるか怪しい。今を逃せばスカーフェイスを倒せる機会は巡ってこないだろう。ここで叩く。カデル、トゥーラを守ってやれ。」


 「よろしくお願いします。」


 「ああ。」


 俺は震えるトゥーラを一瞥してスカーフェイスのいる方角へ視線を戻す。


 オークの姫を守る野蛮な兵士って感じで様になっている。カデルは頭こそそれほど良くないが、というかあほだが、人情深く義理堅い。初めて会った時は御しきれるか。不安だったが、2日間で信頼に変わった。


 「行くぞ。」


 やっとまともに戦える。幼児の体に不釣り合いな狂気的な笑みが溢れる。


 第三の目で戦況を確認しながら戦場に向かう。

 スカーフェイスのハイオークを中心に、残り二体でナーガを囲む。オークたちは棍棒を振り回す。対するナーガは鋭利な爪で対抗する。スカーフェイスの攻撃だけは避け続け、必死に耐えている。


 完全にオークたちが悪物にしか見えないがスカーフェイスを倒しても、押されているとはいえ三体のオークを相手取るナーガに襲われたら、勝ち目はないかもしれない。だが、スカーフェイスを倒し助けても、ナーガが信用できないのであればハーミットの契約で服従させればいい。


 地鳴りが近づいてきた。この音に釣られてやってきた奴がいないか、周囲を確認してみんなに作戦を伝える。


 「オークたちを倒しナーガを助ける。カデルとハーミットは右のオークを、俺は左のオークを倒す。トゥーラは後ろから援護を頼む。ハーミット、ナーガが信用できそうもない場合、契約で服従させろ。」


 「かしこまりました。貴方様に勝利を。」


 「わかりました、頑張ります。」


 「任せろ。」


 スカーフェイスのちょうど真後ろを陣取ったため、苦しそうな表情のナーガが見える。ラスを通した第三の目で見た時は、まだ不慣れであったため大まかなシルエットだけしか見えておらず、金色の鱗を持ったナーガだとは気づかなかった。金色の鱗に桃色の髪、太陽に照らされた姿は神々しく輝いて見えた。

 

 数的不利な戦いで善戦したが、子分オークのダメージが蓄積し、オーク側が段々優勢になってきた。そして、スカーフェイスの攻撃をまともに喰らい瀕死の状態に陥った。


 オークたちが弱ったナーガに迫りとどめを刺そうと油断した次の瞬間


 「風魔法・ウィンドカッター」


 「火魔法・ファイアーボール」


 「無属性魔法・魔力玉」


 俺たちは両サイドのオークにそれぞれ、自分の持てる魔法を繰り出した。

 

 オークたちの背中に直撃しこちらを振り返った。


 「なんだ貴様ら、はっはっは。何かと思えば、小さき下等種ゴブリンではないか。その体で我らオークになにができると言うのだ。んぅ〜、一匹だけ可愛らしいオークがいるな。そのオークを寄越せば命だけは助けてやってもいい。」


 俺が相手にしようとしていた左のオークがトゥーラを舐めるように見る。


 「止めろ、ゴンズイ。東海林家に泥を塗るか。」

 左のオークが右のオークを咎める。


 「メイズイ、お前もあれで遊びたいだろ~。」


 「お前たち目前の戦いに集中しろ。すまない、弟たちが失礼した。」

  スカーフェイスはいかにも武人って感じの性格で少々意外だ。

 

 「トゥーラは大事な仲間だ。お前にはやれない。それにこれは鬼人族の試験。レ・ゼプシオ、強き者に従う。お前と俺どちらが上かしかと確かめよう。」


 「威勢の良いゴブリンだ。数が集まらなければ何もできない小童どもめ。死んでから後悔しても遅いぞ。」

 注意されても引き下がらないゴンズイという名前のオーク。


 「お前らだってそこのナーガに寄ってたかっていじめてたじゃないか。人に言う前にまずは見本を見せて欲しいものだ。」

 守るべきトゥーラに邪な目を向けられて気が立ったのか、珍しくカデルが応戦する。


 とはいえ、ハイオークと2体のオークと戦うのは武が悪い。どうにかして、オークの数を減らさなければ。


 「言葉はいらない。拳で語り合おう。」

 スカーフェイスの言葉を最後に戦闘が開始された。 


 「ゴンズイ、そこのナーガを倒しておけ。」


 まずい、ナーガが早々に倒されると、俺がスカーフェイスと対峙することになる。今の俺ではスカーフェイスと対峙しても長くはもたない。せめて後一体でもオークを倒せれば勝機は見えてくるのだが。


 「焦っているな」


 見かけによらず正確に確実に大剣を振ってくる。リーチも長く力も強い相手にただ逃げるばかりで、間合いに入れずにいた。


 「どうした、逃げてばかりか。口ほどにもないな。」

 徒手空拳のスタイルをゴブリンで貫いている俺は、間合いに入れずスカーフェイスに圧倒されていた。


 ゴンズイがナーガに近づいてとどめを刺そうとしていた。

 「死ね」


 「手負いだからと気を抜くな」

 メイズイが声を荒げる。

 

 

 ゴンズイの金棒がナーガに当たるかと思った次の瞬間、横たわっていたナーガが急に眼を見開き、ンズイの動きが静止した。


 「奥の手は最後まで隠しておかないとね。」


 まるで蛇に睨まれたカエルのように固まったオークを金色の尻尾で締め上げる。


 「トゥーラ、回復を。」


 「はい」


 オークを挟んだ距離からトゥーラがナーガに回復魔法を施そうとする。


 「させるわけないだろ。」


 先ほどまで俺の前にいたスカーフェイスがトゥーラの頭上に大剣を振り下ろす。


 「させるわけないだろ。その言葉そっくりそのまま返させてもらう。」


 「カデル君」


 スカーフェイスの強烈な一撃をルーベルが土に膝をつきながら受け止める。


 しかし、ハーミットがメイズイと一対一になった。回復魔法が中止され拘束が緩んだ尻尾から抜け出すオーク。すでに硬化した体は戻っていた。一度はゴンズイの動きを止めたナーガであったが、すでに身体は限界であった。


 徐々に戦況が悪化していく中、スカーフェイスの手から抜けたシルバーが起死回生の一手を打つ。


 「無属性魔法・魔力刃」

 

 ナーガに狙いを定めたゴンズイの視線は俺の魔法によって、宙を描き地面に静かな音を立てて落下した。魔力玉でダメージを負わせ脆くなった部位に魔力の刃をぶつけた。

 

 《レベルアップしました。続けて、条件を満たしたため進化を開始いたします。》

ステータス画面が強制的に起動し、進化の始まりを告げた。


 幼児の体は高校生くらいの体に大きく成長した。緑色だった肌は涅色になり、全て見通すような白い瞳が鋭い眼光を有している。。体は綺麗な逆三角形で筋骨隆々。髪もかなり伸びた。

 

 ステータスオープン

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 ステータス


名前 :シルバー 中鬼 玄皁種《げんそうしゅ》

レベル:20

HP :100/100

MP :90/90

筋力 :94

耐久 :72

俊敏 :115

知力 :80


装備 :なし


ユニークスキル:ーーー

    スキル:無属性魔法(C)

        武術(C)

  共有スキル:経験値取得率アップ(A)

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 スカーフェイスはカデルに受け止められた大斧を定位置に戻し、俺の方に振り返る。


 「よくもゴンズイを。生意気な弟だったが、兄弟思いのいい奴だった。」


 「準備はできたぞ、スカーフェイス。」

 

 「進化したか、世にも珍しい変異種への進化か。それに黒色の変異種は特別だ。ゴブリンの時ですらあれほど強かったんだ、当然だろう。相手にとって不足無しだ。」


 「俺の初陣だ、がっかりさせてくれるなよ。」


 最高戦力同士のカードが成立した。

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