第9話 決戦②


 「シルバー様が頑張っておられるのに、私どもが足を引っ張ってはなりません。カデル行きますよ。」


 「ハーミット、お前は手を出すな。オークなんて俺一人で十分だ。」


 「何を言いますか。あなたの我儘より確実な勝利の方が優先されます。あなたがオークを取り逃し、シルバー様にご迷惑をおかけしたら死で償っても拭い切れないでしょう。」


  ルーベルはシルバーの勇姿に鼓舞され、闘志に火がついていた。


 「お前はシルバーに王の資質を感じ、王に仕立て上げたい。王には右腕が必要だろう。右腕がこの程度ではシルバーも浮かばれない。死地なき戦いで強くはなれない。」


 「シルバー様のためならば生かし方あるまい。健闘を祈ります。」


 ハーミットはシルバーに確認をとりたかったが、狂気的な笑みでスカーフェイスと相対する主人の姿に話しかけることはできなかった。


 視線も言葉もなかったが、カデルの背中が決死の覚悟を物語っていた。


 「どこからでもかかってくるがいい。」


 オークの持つ長槍とゴブリンの間合いの短い剣が交差し甲高い声を上げるーーーー


 オーク対ゴブリン。多くの場合、筋力と体力の高いオークにすぐに軍配があがるが、死を覚悟して研ぎ澄まされた剣の才が長時間の戦闘を可能としていた。


 「その小さな体躯でやりおる。」

 メイズイはカデルの剣術に感嘆していた。進化していないゴブリンはレベルが低い。そのため、剣術のスキルを持っていたとしても高ランクにはできない。だが、スキルとはただの底上げに過ぎない。剣術のような技術系のスキルは、スキルがなくても使える。カデルのように地力が優れている者はスキルランクが低くても素晴らしい実力を発揮する。


 カデルは知っていたーー

 ゴブリンを倒して手に入れた安物の剣では、オークの攻撃に長く耐えられはしないことを。


 二鬼の剣戟がどんどん速さを増していく。


 「なぜ倒れない。そこまでして1人で勝負を挑み無様な姿になりながらもなぜ戦う。」

 

 カデルは知っていたーー

 自身の体力はもう長くはもたないということを。オークの言葉に耳を貸せないほど疲弊していた。それでも格上との戦闘に心を昂らせ、心だけで剣を振っている。


 「貴様の声はそこのバカに届いていないだろう。」

  カデルが褒められたと感じたのか、ハーミットがオークに対して嬉しさをグッとこらえながら返答する。


 カデルはただ自身の感覚にだけ集中し、戦闘に没入していく。カデルにはオークがただ口をパクパクしているように見える。

 

 カデルは知っていたーー

 死の間際に立ち自身の技術が向上していることを。カデルは三歩と一振りでオークを倒せるほどまでに、シルバーに出会いオークと戦って成長していた。そして、どんな状況でもぶれない心の冷静さをカデルは手にしていた。


 最後の一振り、大剣を振り上げた瞬間オークは察した。目の前の小さき鬼の有り様に焦りとどめを急いだ自分の、最後を。


 カデルは知っていたーー

 勝つ手段は一つしかないことを。オークが焦って大振りをしてきた、そこを突くこと以外勝ち目はなかった。


  バサッーーー


 三歩と一振り、やはり十分だった自分の成長に笑みを浮かべそのまま倒れた。

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