第7話 進化

 2日目はトゥーラとハーミットがパーティーに加わり、4人でレベル上げを行った。


 4人での初めての狩りを終え、2日目の夜深く、俺たちは焚き火を囲みながら今後について話し合っていた。


 「とりあえず、明日はレベル上げをしつつ4人の戦闘スタイルの方向性を決めたいと思う。おおまかにだが、カデルは前衛、トゥーラとハーミットは後衛を任せたい。特にトゥーラは援護を、ハーミットは攻撃を頼みたい。何か質問、意見があれば言ってくれ。」


 「よろしいですか、シルバー君。正直、私は戦闘がまだ怖いです。戦闘中は皆さんに迷惑をかけてしまうと思います。なので、ハーミットさんのような攻撃を専門とした後衛ではなく、回復魔法や支援魔法で皆さんをサポートしたいです。それに役割も分担できますし。」


 トゥーラが意見を口にしたのは初めてだな。この子たちはまだ生まれたばかり、いくら魔物で成長が早いとはいえ精神的にはまだ幼い。問題なさそうだし、トゥーラの意見を尊重しよう。


 「ああ、それで頼む。期待してるぞ、トゥーラ。」


 「はい!」


 「カデルとハーミットは何かあるか。」


 「僭越ながら意見を述べさせていただきます。私としては、貴方様を支えられるようなスキル構成にしたいと考えています。戦闘面ではなく、他の面で活躍できるようなスキルを取得したいと考えています。私のスキルは先天的なもので貴重なスキルが多いです。これから貴方様はどんどん戦力を増やしていくと思いますが、私のようなスキルを持った者が現れることはそうないでしょう。ですから、今あるスキルを伸ばせるスキルが欲しいのです。」


 「そうだな。ハーミットのスキルはどれも珍しく、戦闘以外でも使える有用なスキルが多い。いざとなれば、影に潜んで生きながらえられるしな。護身用の魔法スキルだけ習得しといてくれ。」


 「承知しました。」


 「ハムレット?だよな、お前は剣とか使わないのか」


 「ハーミットだ。私は後衛とニゲル様のサポートを任せられたのだ。いいか、後衛は基本的に遠距離から敵を攻撃する。敵に近づかなければ攻撃できない剣などは護身用でしか持たない。だから、私は魔法か弓などの遠距離攻撃のできる攻撃手段を用いるんだ。」


 すごい間違え方したな、カデル。俺と同じ転生者かと思ったぞ。


 ハーミットは少し傲慢な子だと思っていたが違うらしい。子供くらいの理解力しかないカデルにも優しく教えてくれている。性格に難ありの3人を引き入れてしまったと思っていたが、案外上手くやっていけるかもしれない。


 「そうか、剣はたまに使うんだな。今度戦おう。」


 「はあ。」

 ハーミットがカデルの理解力の低さに呆れてため息を漏らす。


 前言撤回。上手くやっていくのは難しいかもしれない。


 「カデルは何かあるか」


 「俺はとにかく強くなりたい。そのためならなんだってやる。とりあえず武器を持って相手を倒せばいいんだな、シルバー。」


 あまり会話が噛み合っていない気もするが、多分これでいいってことだろう。この子は頭の弱い子だからな。


 カデルを見てると前世のいとこを思い出すな。俺が高校生くらいの時に小学生で目をキラキラさせながら、俺の後をついてきてたな。元気にしているだろうか。


 「あの、、、」


 おどおど手を上げるトゥーラに、話していいぞと許可を出すように頷く。


 「この試験っていつ終わるのでしょうか。」


 「正確にはわからない。だが、考えられる終了時期は二通り。一つ目は時間だ。3日で終わるかもしれないし、それ以上やるかもやらされるかもしれない。二つ目は、ある程度人数がいかくなるまでだ。鬼人族は強い者に従う。試験の中である程度数を絞り、強いやつを選別しているのかもしれない。」


 これはあくまで予測の範疇を超えないが、大体あっているだろう。


 「前者が正解だった場合、あえて終わりの時間を伝えないことにより、精神の成長と殺し合いの停滞を防いでいるのでしょう。ただ、私の憶測では後者が正しいと思います。あの大男の試験官は何度も殺し合えと口にしていました。また、ゴブリンとオークは繁殖力が高く、今のままでは食糧不足で到底全員を賄えません。なので、シルバー様が言った通り、この試験で選別をしているのでしょう。」


 俺の言葉をハーミットが結んだ。


 「そうですか。」


 冷静な男だ。生まれてからあまり時間が経っていないのに、これほど冷静に事態を分析できるとは。前世の俺だって浪人するまで、状況分析とか全然できなかった。純粋に感心してしまう。

 

 グガァー、グガァー。


 声の主を見てみると、カデルがいびきをかきながら寝ていた。


 「呑気なものですね。」


 「ここまでいくと才能だな。よし、俺が先に見張りをする。お前たちは寝ろ。」


 「貴方様は寝ないのですか。」


 「後でこいつを引っ叩いて見張りを代わってもらうから心配するな。」


 と言っても、スライムになれば睡眠は必要ないから代わる必要はないのだが。


 「左様ですか。見張りならば私にもできますのでカデルに言伝をお願いします。それでは。」


 「トゥーラも疲れているだろう。寝て良いぞ。」


 涙を啜る音だけが響き夜は更けていく。


 3日目の朝


 午前中は昨日決めた方針をもとに狩りをした。そして、昼ごはんを食べながらレベルアップで溜まったスキルポイントを割り振っている。


 このアカウントでのビルドは既に大体決まっている。俺にはスライムアカウントのスキル図鑑があるから、メインのスキルを決めて相性の良いスキルをいくつか取っていくつもりだ。メインのスキルは条件がまだ達成できていないからまだ取得できない。


 このアカウントはゴリゴリの武闘派でいくつもりだ。鬼といえば、鬼に金棒というように棍棒とかそういう系の武器を使うのだろうが、あまり好ましくない。もっとスタイリッシュな感じがいい。たとえば、巨人族と素手で殴り合えるような。それはスタイリッシュなのだろうか、甚だ疑問だが徒手空拳というのは漢のロマンだ。せっかく異世界に来て最初に本気でビルドするアカウントだ。ロマンを追い求めよう。


 スキル図鑑を見た感じだとこの世界でパワーといえば、巨人族。そんな奴らと殴り合えるようなアカウントにしたい。それでこそ鬼人だろう。


 と、まあそんなこんなで俺の構成はこんな感じになった。

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 ステータス


名前 :シルバー 小鬼

レベル:19

HP :56/56

MP :40/50

筋力 :40

耐久 :40

俊敏 :60

知力 :45


装備 :なし


ユニークスキル:ーーー

    スキル:無属性魔法(Ⅾ)

        体術(Ⅾ)

  共有スキル:経験値取得率アップ(A)

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 他の3人もスキルポイントを振り終えた結果こんな感じになった。

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 ステータス

名前 :カデル 小鬼

レベル:17

HP :40/48

MP :4/45

筋力 :36

耐久 :36

俊敏 :52

知力 :32


装備 :長剣


ユニークスキル:

スキル:剣術(Ⅾ)

    風魔法(F)

    経験値取得率アップ(E)

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 ステータス

名前 :トゥーラ 小鬼

レベル:15

HP :66/66

MP :58/70

筋力 :25

耐久 :30

俊敏 :40

知力 :55


装備 :なし


ユニークスキル:ーーー

    スキル:回復魔法(D)

        支援魔法(F)

        経験値取得率アップ(E)

______________________________________________________________________________________________________________________________________________________

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 ステータス

名前 :ハーミット 小鬼

レベル:15

HP :32/35

MP :70/80

筋力 :28

耐久 :28

俊敏 :30

知力 :55


装備 :なし


ユニークスキル:契約

        慧眼

    スキル:火魔法(D)

        経験値取得率上昇(D)

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 昨日話し合った通りのビルドになった。


 この試験最大の障壁となるスカーフェイスのオークにもし鉢合わせたら、今の俺たちは誰も失わずに勝てるだろうか。だから、もし出会ったとき少しでも勝機を見いだせるように、みんなには話しておかなければならない。


 「皆に話しておかなければならないことがある。俺は、、、」

 俺はスライムアカウントに移行した。いつもの青いかわいいスライムの姿になろうとしていた。

 

 「な、なんだ、、、」

 突然体が光り出した。球体の発光体となる俺を不思議そうに見つめる、カデルとトゥーラそして、興味津々に目を輝かせるハーミット。


 俺は自分の体が光る現象を瞬時に理解できた。なんとなく予想はできていた。大男の試験官、人並外れた強さを持つスカーフェイスのオーク。俺たち魔物はレベルなどの条件を満たすことにより、より強い生命体へと形を変える。


 そう、この現象は進化だ。

 俺の体の輝きがおさまったとき、うちから溢れるエネルギーを実感した。


 《条件を満たしました。これにより”アカウント作成”の第三の権能が覚醒します。》

 

スキル説明 

 『アカウント作成』・・・【権能】アカウント作成、アカウント共有、顕現、???

 アカウント作成:新たな生命を作り、それに応じたステータスを取得することができるスキル。アカウントとは、サンプルを摂取することで、因子を抽出し新たなステータスを獲得を取得できる。


 『アカウント共有』:別のアカウントの持つユニークスキル、スキルとスキルポイントを共有できる。共有できるユニークスキル、スキルはアカウント1つにつき1つ。ユニークスキルを1つ共有した場合、スキルは共有できない。逆に、スキルを1つ共有した場合、ユニークスキルは共有できない。


 『顕現』New:別のアカウントの持つ身体的特徴を使用中のアカウントに顕現できる。


 試しにスライムアカウントを”顕現”させてみた。応用が利く能力で、俺の戦闘力が上がるほど使いこなせるようになっていき、使い方次第であらゆる戦闘スタイルを実現できる無限の可能性を感じた。それほど有用なスキルであった。”アカウント作成”様様である。しかし、MPの兼ね合いなどで必殺技として使うことになった。今後使う機会があればその時に説明しよう。


 その後、みんなにアカウントについて説明をした。アカウントという概念は現代を生きた俺だからこそ理解できるような難しい概念であるため、カデルとトゥーラは理解できなかったと思う。だが、さすがのハーミットで完璧に理解していた。生後数か月で末恐ろしい男だ。


 「時に貴方様、スライムの姿の時はなんとお呼びすれば良いでしょうか。」


 完全に忘れていた。シルバーで名前を統一するか、アカウントそれぞれに名前を持つか。それぞれあった方が面白そうだし、何かと便利そうなので新しく名乗ろう。


 「スライム姿の俺はカラフルだ。」


 俺はゴブリンであると同時にスライムでもある。だが、ここは鬼人族の住む地。俺はここで鬼人族として生活していこうと決心した。レ・ゼプシオ《強さこそすべて》、俺はここのルールに従い頂点まで上り詰めてみせる。


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ステータス

名前 :カラフル ダークスライム

レベル:23

HP :70/70

MP :75/75

筋力 :50

耐久 :48

俊敏 :73

知力 :70


装備 :なし


ユニークスキル:スキル図鑑

        アカウント作成

    スキル:風魔法(C)

        経験値取得率アップ(A)

        鑑定眼(D)

  共有スキル:無属性魔法(D)


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