第6話 続々
2日目の朝
怯えたオークと約束した場所に、野生の魔物を倒しながら進む。目的はーー
カデルが変顔をしながら芋虫の眉間に剣を突き刺す。やはり側から見たら滑稽だな、側から見なくても滑稽か。カデルは強くなるためなら悪魔に魂を売りそうな奴だ、なんでもする。
「”経験値取得率上昇”を取得しろ。」
変顔で五体目を倒すと共にレベルが上がったカデルは俺の指導通り、”経験値取得率上昇”を取得した。今朝までにパーティーメンバーに追加していたので、互いに経験値の共有が可能となった。これで狩りのペースも経験値の獲得も2倍である。
「生きていればいいのだが、、」
近くに4つの魔力の反応がある。全くコイツはいつも襲われているな。しかも今回は多数のゴブリンたちだ。あのシャイガールなオークは戦力にならないから俺とカデルで2対3か、数的不利だが俺とカデルなら負けることはないだろう。いざとなればあのオークを置いて逃げよう。
「カデル、お前は右の耳が欠けたゴブリンをやれ。襲われているオークには手を出すな。」
返事がないから見てみると、獲物を視界に捉えたことの喜びで話を聞いていない。それどころか、雄叫びを上げながら今にも飛びかかろうとしていた。
「それでは奇襲の意味がないではないか」
呆れるシルバーを他所にカデルと耳が欠けたゴブリンの戦いは始まった。
「俺もやるか」
予想以上に呆気なかったな。やはり”経験値取得率上昇”によるレベルアップの恩恵は驚異的だ。仲間を集めてパーティーを増やすことで倍以上の速さで強くなることができる。
「大丈夫か」
俺が声をかけると膝から崩れ落ちた。酷く怯えた疲れ切った目をしている。無理もないか。生まれたてのオークの少女が一晩一人で暗い森に放って置かれたのだ。だが、この世は弱肉強食で弱い者は強い者に従うしか生き残る術はない。そのことをこの一夜で存分に味わっただろう。
今再び問おう。
「俺に付いてくるか、死ぬか選べ。」
オークは怯えながらも立膝で服従の意を示した。その姿は、生命の構図全てを悟らせるほど多くの物事を語っていた。俺はお前と対等な関係を築きたいのだが。
「俺の名前はシルバー、コイツがカデル。そしてお前は今日からトゥーラだ。トゥーラいいか、俺たちは仲間だ。俺の手下ではない。俺の指示が嫌だったら意見を言ってきていいし、同じ釜の飯を食う仲間だ。対等な関係なんだ。」
「うん、シルバー君、それにカデル君、よろしくね。」
涙で顔を濡らしながら、精一杯大きな声で挨拶をした。本当にやさしい子なのだろう。内気というより、人のことを常に考えて行動するという印象を抱いた。良い仲間になってくれそうだ。
「その仲間に私も混ぜてください。」
声のする方へ振り返ると、そこには下半身が影と繋がったゴブリンがいた。俺たちはその奇妙な有様にすぐさま臨戦態勢に入った。
「誰だ貴様は」
「そんな怖い顔をしないでください。私はただ貴方様にお仕えしたいだけなのです。私は影から貴方様をずっとお伺いしておりました。ですが、それは貴方様を倒すためではございません。ただその強さに感嘆していたのです。私には敵を打倒するような力はございません。強い方にお仕えするしか生き延びるためには方法がないのです。ですから、この試験が始まってから多くの者を影から、観察しておりました。貴方様はお仕えするのにふさわしいお方です。どうか私めを配下の末席に加えて下さらないでしょうか。必ずや、役に立ってご覧にみせましょう。」
怪しい、非常に怪しい。
「どうぞ、私のステータスをご覧ください。私の全ては貴方様のものです。」
「鑑定:ステータスオープン」
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ステータス
名前 :鬼人族・小鬼
レベル:8
HP :22/22
MP :52/60
筋力 :20
耐久 :20
俊敏 :22
知力 :45
装備 :なし
ユニークスキル:契約魔法
慧眼
スキル:火魔法(F)
隠密(E)
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怪しいが嘘は言ってなさそうだし、筋は通っている。だが、一つ確認しておかなければならない。
「なぜ俺なんだ。もっと強いやつがいただろう。」
そうだ。この試練には試験開始前に見たあのオークがいる。
「流石でございます。試験が始まる前から周囲の確認を怠らない抜け目のない行動でございますな。」
「御託はいい。早く質問に答えろ。」
「簡単なことでございます。貴方様の方がより王の資質を持っていたからでございます。私の慧眼というユニークスキルは資質などを見抜くことに長けたスキルなのです。」
「なるほど、この慧眼というスキルのおかげか。それに不思議なスキルを持っている。戦う力がないというのは本当のようだ。」
レベル8でユニークスキルを2つも取得している。なるほどコイツは使えるな。だが、服従は俺の信条じゃない。
「おお、ありがたき幸せ。それでは私めを配下に加えてくださいますか。」
「お前は確かに使える。だが、配下にはできない。」
「なぜですか。必ず貴方様の役に立ってみせます。」
「話は最後まで聞け。俺が必要としているのは対等な仲間だ。決して俺の手足となって働く配下ではない。そして、お前も背中を預けて共に戦場を駆け回る仲間になれ。」
眩いほどの光を放つ未来の王に、仰々しいゴブリンは尊敬の意を示すため、首を垂らす。
「ははあ。」
「今日からお前も俺たちの仲間だ。よろしくな、ハーミット。」
「ああ、ありがたき幸せ。」
配下ではなく対等な仲間になったんだから、もちろん拍手だよなと思い、差し出した手はまたもや空を切り、首を垂れるゴブリンと不自然に手を差し出したゴブリンが煌々と照らされていた。
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