第14話 イージーモード

 俺の人生イージーモード。対して勉強しなくても、いい大学に入り、一流企業に就職。昇進も同期より早く叶いそうだ。


 ピロリン。


 喫煙室で、LIMEの連絡が入る。煙草を咥えてみると、早速彼女からの連絡だ。


"今週末、親との食事会OKでたよ!”


 彼女のお気に入りのキャラで「やった」のスタンプもついていた。俺も同じキャラで「ありがとう」のスタンプを送る。


 彼女は会社の社長令嬢だ。俺もすでに社長に気に入られている。結婚も問題なく行われるだろう。


 人生が辛いだのなんだの言ってる奴も多いが、そんなの選択次第だ。イージーだと思えば、人生なんてイージーなままだ。結局、不幸な奴なんて、不幸を選択しているだけだと、俺は思う。


 さて、食事会も決まったことだし、今日くらいは実家に顔を出した方がいいだろう。一応彼女の報告はしているが、いい加減顔を出してくれと両親がうるさい。一人暮らしをしているが、実家は会社帰りに行けるほど、そう遠くないのだ。



「お兄ちゃん、久しぶりー!」


 実家に帰ると、妹が俺に飛びついてきた。6つ下の妹とは、血の繋がりはない。親の再婚で妹になったのだ。


「お帰りなさい。貴方が来るって聞いて、お父さんも今日は早くに帰ってきたのよ。」


 そう言って、玄関まで母親が迎えに来てくれた。


「久しぶりだね、俊君。」


 そう言って、お義父さんまで玄関に来てくれる。


「今日の夕飯は、おかあさん久しぶりに大奮発しちゃった。」


「豪華だぞ。俊君が毎日来てくれたら、俺は外食しなくなりそうだ。」


「ほとんど、外食しないくせにー。」


「まあ、お母さんは料理だけは一流だからな。」


「ちょっと俊、聞き捨てならないわね。」


「え、最近は掃除機かける時、角までちゃんとしてるの?」


 失礼しちゃうわ、と言って母はキッチンへと向かう。おいしそうな匂いがしている。幸福な匂いってのはこういうものをいうんだと、俺は思う。



「お、ポテトサラダもある。」


「俊君はこれが大好物だもんね。」


「私も大好き!」


 知ってるよ。俺は飲みに行ってポテトサラダを頼むことはしない。


「俊と美咲ちゃんは本当に食事の好みが似てるわね。」


「お兄ちゃんが私の真似してるんだよ。」


「そういえば、俊、昔は偏食がすごかったもんね。今じゃなんでも食べられるようになって。美咲ちゃんのお陰かしら。」


「そうだよ、お兄ちゃん感謝してよね。」


「そうだな。美咲の食いしん坊に感謝しないとな。」


 君がなんでも食べるから、俺は兄として、頑張った。


「何それひどーい!」


 家族が笑う。テーブルの上で。


 テーブルの下で、美咲は俺の足をつんつんと触ってくる。


 「俊君。」


 そう、熱を持って俺を見つめてきたのはいつだったろうか。もう忘れたくて遠い。お兄ちゃんと呼ぶように、お願いしたのはその頃からだ。


「お兄ちゃん、煙草は吸わなくていいの?」


「美咲。」


「え、嘘、俊、煙草吸うの?」


「黙ってるんだよねぇ。」


「何だ、別に隠す必要はないんだよ。もう俊君も成人して、ちゃんと仕事してるんだし。」


「吸いません。美咲、余計なことを言わないの。」


「あれ?二人の秘密かな。」


「俺は、煙草を吸わないよ。」


「嘘つきー。後でコートのチェックしちゃお。」


「美咲。」


 美咲は足をそろりと絡めてくる。煙草を吸ってる姿なんて、家族に見せたくない。そんな俺は見せたくない。俺の人生はイージーモードだ。俺の手は、社長の娘の手を取る。けれど、絡められた足を俺は、ほどけずにいる。


 それでも俺はイージーを選ぶ。

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