第5話 月光

 終わりだ終わりだ。全部終わりだ。


 ブランコに乗って煙草など吸ってみた。初めての煙草は絶対に咳き込むと思ったら、全然問題なく吸えた。仕方ないからブランコに乗ってみたら、煙が巻き付いてようやく泣けた。公園など、もちろん禁煙だが、真夏の夜に泣きながら煙草を吸ってブランコをこぐおばさんになど、誰が声をかけようか。


 38歳だった。今だにパートで、実家暮らし。


「あんたは本当にダメな子だね。」


「いい加減まともな職に就け。」


 家での居場所なんてない。まともに働けるような、頭を持った子を産まなかった親が悪い。そうだ。私のせいなんかじゃない。


 じゃあ、何の涙だ。私は今何に泣いているのか。


 漕ぐのは止めた。


「I am GOD'S CHILD  この腐敗した世界に堕とされた~♪」


 誰かの歌声に息を飲んだ。運命だと思った。運命は、タンクトップから刺青が入った腕を出す、酔っぱらいの金髪の男だった。


 煙草の火なんて消さずに。駆け寄った。


「私とセックスしてください!」


「はあ?」


「お願いします。私と、セックスしてください。ホテル代も全部私が出します!なんだったらここでも、どこでもいい!」


「んだ、このおばさん。」


 押し飛ばされた。構わなかった。何度もお願して、頭を下げて土下座して、ホテルへいった。


 行為はどこまでも乱暴だった。痛くて痛くて。私は今でも相手の顔をよく覚えていなかった。


 それから、何回か関係を持った。私は妊娠した。男はいなくなった。


「堕ろせ!このバカ野郎が!」


 父は殴った。


「こんな子に産んだ覚えはない!」


 母もやっぱり私を叩いた。


 それでも私は産む決意をした。意外にも親は私を追い出さなかった。そのことに、優しさを感じるのは間違っているのだろうか。


 「I am GOD'S CHILD この腐敗した世界に堕とされた~♪」


 腫れた頬と、膨らんだお腹を撫でて、私は歌う。何度も。初めて、この曲を聞いた時、私の運命の曲だと思った。何度も何度も聞いた。もう昔になったこの曲を誰かが歌ったのだから。


「大丈夫、私も、貴方も、こんなことの為に生まれたんじゃない。」


 見上げる月はいつだって無機質だ。


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鬼塚ちひろさんの「月光」

本当の曲を出していいのか色々調べたんですが、少々ならお許しいただけるんだと判断して、どうしても書きたくて載せました。

ご存じない方はよろしければぜひ曲を聞いてみてください。名曲です。

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