第2話 神殿での日々
聖女様はこの国を守護する神に選ばれた唯一の存在で、神のお告げを聞くことができる崇高な方。
その証として夜空のような青色の瞳を持ち、どんな病や怪我でも治すことのできる癒しの御手の持つ選ばれた乙女だ。神の代弁者として、国民からも崇められている尊いお方でもあるのだが・・
そんな聖女様が、どうして私のことをこんなにも嫌っているのか・・
いくら考えてみても、まったくわからなかった。
神官長には穏やかに、立場が下の者に対しても、よほどのことがない限りはごく普通に接している。
それがなぜか私に対してのみ、悪霊に憑りつかれたように豹変するのだ。
急にイライラしたかと思うと怒鳴り散らし、
本当に遠くから見かける程度で、高貴な方なのでまともに話したことすらない。どうしてそんなに冷たくあたるのか訳が分からないのだ。
泣きたくもなったが、今まで必死で我慢してきた。
親しかった同僚たちも聖女様に習い冷たくなり、意地悪になってしまった。神殿の中で絶対の権限を行使できる聖女様に逆らえばどうなるか、簡単には想像がつく。私を庇ったが最後・・同じ目に遭うか、神殿を追い出されてしまう。
仕方のないことかもしれない・・みんな生きるのに必死だから――
けど、そんな私にも心が明るくなるささやかな楽しみがあった。
主祭壇にある、神様の像を見て祈りを捧げる瞬間だ――その時だけは嫌なことも苦しいことも忘れられ、心が穏やかに明るい気持ちになれるのだ。
この神殿に祀られているこの国の主神――フィヌイ様の像。
私にとって場違いなところで働いていることはわかってはいる。卑しい身分のくせに、なぜここにいるのかと陰口を叩かれていることも知っている。
でもこの神殿にしかない、神様の像をどうしても近くで見てみたかった。その近くで働いてみたかったのだ。
そんなある日のこと、廊下で拭き掃除をしているときだった。
いつも閉まっている祭壇の扉が、少しだけ開いていたのだ。ちょっとだけ神様の像を見たくなり手を止めて、少しだけ中を覗いてみる。
素敵・・神様の為にも今日も頑張らないといけないと思い、気持ちを引き締め後ろを向いたその直後だった。
パリィン・・ガジャン・・
「え・・?」
後ろを向くと、祭壇の上にあった神様の像が床に落ち、真っ二つに割れていたのだ。
突然のことで私が呆然と立ちつくしていると・・
「なんてことを・・・。いくら私が気に入らないからといって、この国の守り神であるフィヌイ様の像を壊すなんて・・!なんて底意地の悪い娘なの!」
きっと睨みつけ、廊下からゆっくりと姿を現した美しい女性――それは聖女様その人だった。
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