地獄変・八寒
その地獄変は、地獄を描きながら、極楽を想起させる絵図だった。
仏教において
悟りの
指先には青い
不釣り合いで、不似合いで。想像と
仏は無いのに仏花が咲く。
仏で無いのに仏花に
そんな絵図を描いた、
絵、造型、書き物、縫い物。
初めてその絵を見たのは、彼が死ぬ前日、世間にその絵が
絵は直ぐに話題になった。元々ある程度知名度のあった作家であったが、それでも、絵、それ自体がとてつもなく強烈であったのだ。
滅多に語られる事も無ければ、
それを描いたのは、その当時より一年前に、妻子を殺された挙句、雪の中に捨てられた作家その人。
世が喰い付かぬ筈も無く、瞬く間に存在は広まっていき、翌日には物見客が、絵の前にて
その時にはもう、自分の所に、彼の
死因は伏せる。だが、あまり良い死に方をしていなかった事は事実だ。
見つかったのが、死んで直ぐであった事が幸いだった。これで数日誰にも見つけて貰えぬままだったなら、更に悲惨な死体であった事は間違いない。
もう一度、あの絵が見たくなった。
センセーショナルな作家の生涯に感化されたのかもしれない。
けれど明確だったのは、もう一度、あの地獄を見つめなければならないという、使命感めいた願望だった。
その為に自分は、無理やり良秀の記事を書く権利をもぎ取った。
そうすれば、あの地獄を誰より、覗き見れると思ったからだ。
知り合い伝に頼み込み、あの地獄を写真に収めてあの地獄変の関係者の元を巡り歩いた。
経歴、思考、人とナリ、切っ掛けと変化。
巡ったとして、それで分かった事などそう多くは無かったけれど。
けれどその間、ずっと地獄は顔を変えていた。
ある人には寂寥を、ある人には後悔を、ある人には執着を、そしてある人には憧憬を見せたあの地獄。
今一度、現物を見に、やって来た。
相変わらず、美しく、悍ましい。
吐いた息が、白い気がした。
この地獄は今、自分に、どんな顔を見せている。
アンタには、この地獄が、どう見えていた。
地獄変・八寒 柳 空 @area13
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