親族へのインタビュー

 僕の叔父は、家では『猿』と呼ばれていた。

 実際呼んでいたのは祖父母だけだったけれど、父にも母にも、そして僕にも、それが誰を指すかは分かっていた。

 父はあまり、祖父母が好きでは無い様でした。

 どうやら叔父が、家を出て行ってしまった事が悲しくて、原因らしい祖父母の事が、ずっと許せずに居る様でした。

 叔父のお葬式は父がやりました。祖父母は嫌がっていたし、他の親族は父が「信用ならん」と突っぱねていましたので。

 一人だけ、叔父の出資者パトロンだった人とだけは、よくよく話していたみたいでしたが、それでも結局、父がお葬式を行いました。

 叔父とは偶に会う程度でしたが、それでも可愛がられていたとは思います。父の意向で、叔父の家によく遊びに行っていましたので。ただ叔父本人は仕事場にこもっていることが多かったので、専ら僕は、従兄弟いとこの梅ちゃん。そうです。叔父の娘さんと遊んでばかりでした。

 そうして時々仕事場から出て来ると、僕らに手製の玩具がんぐや、僕らの絵をくれるんです。

 はい、今も家に飾ってあります。一部ですが。

 はい、残りは梅ちゃんを焼いた時に、一緒に。寂しくないように、と。

 アレからです。叔父が可笑しくなったのは。

 僕は梅ちゃんのお葬式の後は、叔父のお葬式でしか叔父には会いませんでしたが、父が時々様子を見に行っていた様子でした。

 その度父は、また痩せた、また痩せた、と嘆いていました。実際、僕が見た叔父の最後の顔には、肉らしい肉が無かったです。

 人は一年経たずに、あぁも痩せてしまうのですね。

 僕は、叔父によく似ていると言われます。見た目もそうですが、考え方や、やる事が似ていると。

 だもので、よく祖父母には、叔父の様になるなと言われましたし、父には逆に、あんな風な生き方もあると言われてました。

 ただ、あぁは死んでくれるなと、お葬式の後一度だけ、言われました。

 でも僕は、本当は、本当は叔父の様に死んでしまいたかった。梅ちゃんが埋もれていた雪の中で、僕も。

 大丈夫です。そんな事したら、父や母を悲しませてしまいますから。梅ちゃんも、叔父も死んでしまって、あれだけ辛くて苦しかったんです。そんな思い、父と母にこれ以上、させる訳にはいきませんから。

 ただどうしても、あの絵を思い出す度に思ってしまうだけなンです。

 きっと僕は、あの地獄がそのくらい、羨ましいのでしょう。

 はい、そうです。羨ましいんです。

 いえ、そうではなく。花が咲いているからではなくて。氷の地獄だからでもなくて。

 あの絵は、そう、まるで生きているみたいに見えるでしょう。今、苦しんでいる声が聞こえてきそうで、花が咲く音が聞こえてきそうで。それがずっと、叔父が描きたかったものが描けた証に見えて。

 叔父が死んで、確かに辛くて苦しかったけど、叔父はもしかしたら逆だったんじゃないかと思ったのです。あの絵を、最初に見た時に。

 叔父が死んだのは、二人にあの絵が描けたよって、報告に行く為だけだったんじゃないかと、思ったのです。

 だからですかね、羨ましい。何時か僕も、あんな絵を描いてみたいです。

 あそこに至る道こそきっと、地獄を巡る様なものかもしれませんけれど。

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