第2話 うねうね道

 車に乗り込むとすぐに

「迎えに来てくれたんだね、ありがとう」といった。

「おつかれでしょう、すずさま。葉蘭さまがお心待ちですよ。ちょうど今、お生徒はんが居てはりますがそろそろお帰りの時間ですし。」たいおんは、バックミラーですずの顔を見つつも、左右に流れ歩く観光客に気をつけてハンドルを握る。

 何か素敵なものはないのかしら、北鎌倉っぽい景色を見つけたいなと、上を見たり右に左にとキョロキョロしながら浮き足だっている人の足でも踏んだら大変だからだ。


 明月院の横を通る細い道をいく。要所要所に地元民があらかじめ対向車に譲るポイントがある。わかり合っている者たちがすれ違うには問題はないがたまに訪れてくる他の地域の車や、ナビを頼りに紛れ込んでくる観光客が抜けることが出来ず立ち往生してしまう程の細い箇所がある。

 そんな時は気のいいハイカーや通りがかりの住民がオーライオーライと誘導してくれたり時には、きをつけてよ、と注意の声をかけてくれるのだ。

 今も、カーブの先に赤いくるまが見えると同時にさいおんは待機所に車を寄せた。


「相変わらず、腕がいいわね、さいおん」

窓の外の萌える緑を眺めていたすずは感心してつぶやいた。

「なれですよ、心眼もあるかな笑。」

「心眼?」

「冗談です、すみません。カーブミラーを先手先手で先読みするといいですよ。」

さいおんの冗談はイマイチであったが、カーブミラーを先読みするっていいことを聞いた。すずはアルバイトをして貯めたお金で車の免許を取ろうかと計画しているからだ。


 うねうねと緩やかな上り坂が続く。昭和に開発された住宅地がある。しかし今はもう令和でレトロ感が漂う地域になっていた。

 そのまま行けば超が付く急勾配があり、今泉台というやはり昭和に大開発された住宅地がある。その手前の勾配の途中を右に大きく曲がりしばらくいくと五条家がある。今泉台ができる前は五条家が(旧今泉家)、山ノ内の一番奥の屋敷で「御山さま」「いずみさま」などと親しまれていた。


 人の背を優に越える洋風な門は、自然石を組み合わせた石柱と青銅で造られており、圧倒的な存在感だ。

 初めてこのあたりを通りかかる人は、なにかの記念館か美術館だと勘違いをして、門が開いていないか開館日の書いたプレートはないだろうかとウロウロ探したりする姿も珍しくない。見かねたご近所さんが、あの・・・ここは個人の方のお家ですのよと声をかけることもある。すると、へえ今どきこんな個人宅があるんだと感嘆の声をあげる人が大半だ。ほんとうにそうですよねぇ、と門の前で世間話が始まる。

 おしゃべりすきで有名は町内会の田中の奥さまが、実はここのお嬢さまがそれはそれは美しくて、特に長女と次女さまの美しさったらそこらの女優さんなんて話にならない程美形ですのよ、まるで自分の娘を自慢するかのように噂話をする。

あら、一度会ってみたいですわと話がはずみ始めると田中のご主人が家から出てきて、何しているんだと家に入るよう促する。

 そんな様子を事務室のモニター画面から眺め「平和だ・・・。」とさいおんは呟く。そんなことをフッと思い出し、苦笑いをするとすずが

「どうしたの?」と聞く。

「いえ、少し思い出し笑いをしてしまいました。実はですね、先日おとなりの田中の奥様がですね・・・」

この顛末を大笑いしながら話していると、実はハイテクな自動ドアの大門が開き、五条家は荘厳なその姿を見せた。


 


 

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北鎌fantasia 真夜 @sana4254

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