9日目①
次の日、俺たちは商店街に来ていた。家の近くにあるから便利なんだけど、ショッピングセンターとかでもよかったのに。
「…ほんとにここでよかったの?この前みたいな場所の方がいいんじゃない?」
「ユイ、お兄ちゃんと一緒ならどこでも楽しいよ?」
俺の言葉に答えてくれたのは隣で手を繋いでいる結衣ちゃん。お出かけが楽しいのか元気よく腕を振っている。
「…あ、はい。それに毎回あんなトラックを使うのはちょっと…」
「…あぁ、もう!うちもお兄と手繋ぎたかった!」
「…道であんまり並ぶと迷惑になっちゃうからまた後でね?それに、トラックが嫌ならタクシーとかでもいいけど…」
「…うちもそれくらい分かってるよ。じゃんけんで負けちゃったからしょうがないことだって」
「私も。トラックが嫌ってわけじゃないんだけど、もっと帆立さんに近づきたいっていうか…。なし!やっぱり何でもない!!」
日向ちゃんも朱里ちゃんも俺に懐いてくれ始めたのは嬉しいけど、そのせいで我慢させちゃってるのはな。でも4人で横並びになると邪魔になっちゃうしな。
「お兄ちゃん!ユイ、あれ食べたい!」
「あれって、コロッケ?とりあえず買いに行く?」
「うん!ユイ、お兄ちゃんと半分こしたい!」
「俺はいいけど、どうせなら3人で分ければいいんじゃない?」
「…お兄ちゃんってやっぱり鈍感だよね?ユイはお兄ちゃんと一緒に食べて美味しいねって共有したいの!」
「そういうことなら分かった。それじゃあ俺と結衣ちゃんで分けて、日向ちゃんと朱里ちゃんは一つずつ?それとも2人で半分こする?」
「…うちはいいや」
「日向がそう言うなら私も遠慮します」
結衣ちゃんだけにコロッケを買うわけにもいかないから日向ちゃんと朱里ちゃんに聞いたらそんな返事が返ってきた。…でも、日向ちゃんだって食べたくないってわけじゃなさそうだし、遠慮してるのかな?
「遠慮しないでいいんだよ?食べたいものを食べたいって言ってくれた方がありがたいし」
「そ、そうじゃなくて。…その、…た、から」
「?えっと、ごめん。聞き取れなかった」
「だから!!太ったの!!」
日向ちゃんは大声でそんな風に叫んだ。…そんなに気にしなくていいと思う、なんて言っちゃいけないことは分かるけど、俺はなんて返事するのが正解なんだ?
「そりゃ、うちだって今まで食べられなかった美味しいものをお腹いっぱい食べてる自覚はあるよ!でも、まだ1週間くらいなのにもう100グラムも重くなっちゃったの!…このままだと一ヶ月で0.5キロくらい、一年にもなると5キロ以上太っちゃうの!!」
「お、落ち着いて日向ちゃん。気持ちは分かるから」
「お兄に分かるわけない!お兄がうちらのために用意してくれたご飯を残したくないの!!でも、全部食べちゃうと太るの!!…うち、うち、もうどうすればいいのか分からないよ」
「…日向ちゃん」
…昨日の夜も一対一で話したのに、俺は日向ちゃんがそんな悩みを持ってることを見抜けなかった。…やっぱり俺はまだまだ3人のことを理解できてないのかな。
「…ねぇ日向?ここ、外だよ?私たちも恥ずかしくなっちゃうから一旦静かにしてくれる?」
「〜ッ!?!?」
「日向ちゃん!?」
朱里ちゃんの言葉で日向ちゃんは顔を真っ赤にして逃げ出してしまった。
「ごめん、ちょっと追いかけてくる!2人はここで待ってて!」
「はい!日向のこと、お願いします」
「ユイもいい子で待ってる!」
俺は2人の返事を聞きながら日向ちゃんが走っていった方を追いかけた。
幸いにも日向ちゃんはすぐに見つかった。俯いて立ち尽くしてるけど、俺はどんな言葉をかければいいのか悩んでいた。日向ちゃんが心配で慌てて追いかけてきたけど、1人で考えたいときとかもあるのかな?
…結局俺は何も声をかけないことにした。ただ日向ちゃんの側にいるだけ。話したいことがあれば彼女の方から声をかけてくれるだろうし、何もないならそれはそれで落ち着くまで待ってるだけだ。
俺に日向ちゃんの気持ちが分かるわけない。確かにその通りだから。俺はそんなこと気にしたことないし、そもそも日向ちゃんたち3人はもっと健康的に過ごしてほしいと思ってるから。今までまともなご飯を食べてなかったんだから、少しくらい肉付きがよくなった方がいいんじゃないかとさえ思う。…だから日向ちゃんの理想とは真逆になっちゃうのかな?
「…ごめんねお兄。うち、また酷いこと言っちゃった」
そんな風に思ってたら日向ちゃんが声をかけてくれた。…けど、どうして謝ってるんだろう?俺は酷いことなんて言われてないのに。
「酷いこと?そんなの言われた覚えないけど…」
「…うちの気持ちが分かるわけないって」
「ああ、そのこと?別に本当だと思うよ。俺は日向ちゃんの気持ちが分からないから。…むしろ、もっと食べて健康的になってほしいと思う」
「…そんな気を遣ってくれなくても大丈夫だよ。うちはお姉みたいに気がきくわけじゃないし、結衣みたいに明るいわけでもない。…だから、うちがもし太ったら見捨てられちゃうから」
…ああ、そういうことなんだ。俺は昨日の相談を勝手に解決したものだと思っていた。けど、そんな簡単に悩みがなくなるわけがなかったんだ。
「…それこそ、酷いことだと思うよ?それを本気で言ってるならお説教しないと」
「ふぇっ!?な、なんで」
「いい?もしかしたら日向ちゃんは自分に自信がないのかもしれない。…でも、そんな風に言うってことは周りも信じてないって意味だよね?俺や他人を信じろ、なんて言わないけど、せめて姉妹は信じてほしい。もし日向ちゃんがどうにかなっちゃったとしても一緒にいてくれるんだって」
「あ…。で、でもやっぱりお兄に嫌われたらみんな離れていっちゃうよ。お姉も結衣もうちよりお兄の方が好きだから…」
「…なら、心配しないでも大丈夫。俺も日向ちゃんのことが好きだから。嫌いになるなんて絶対にない!」
「…えっ?……ふぁっ!?!?」
「?日向ちゃん?どうかしたの?」
「ち、違う!今のはそんな意味じゃない!落ち着けうち、大丈夫、大丈夫。…そ、そうだよ。お兄はうちを心配してくれただけ、変な意味に捉えたらそれこそ迷惑だ」
「日向ちゃん、大丈夫?」
「〜ッ!?だ、大丈夫だから!さっ、2人も心配してるだろうし、もう戻ろ!」
俺がそう言うと日向ちゃんはなぜか顔を真っ赤にしてしまった。そして早くみんなの元に戻ろうと1人で先に行ってしまった。…ほんとに大丈夫なのかな?体調が悪いとかじゃなきゃいいけど。…よし、しばらく日向ちゃんを気にかけておこう。
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