9日目②

 〜三人称〜

 舜と日向ちゃんが走り去った後、朱里ちゃんは結衣ちゃんを咎めていた。


 「…ねぇ結衣?流石にちょっと甘えすぎじゃない?」

 「?どうしたの朱里お姉ちゃん。結衣が羨ましくなったとか?」

 「ちがっ!?…くはない、のかな。…でも、私は今を失いたくないから、もっとちゃんとすること!親しき仲にも礼儀あり!」


 そんな言葉を聞いた結衣ちゃんは一瞬驚いた表情をした後、朱里ちゃんに抱きついた。


 「ちょ、結衣!?」

 「えへへ〜、お姉ちゃん可愛い!」

 「なっ!?急にほっぺすりすりしないで!」

 「…ようやく、朱里お姉ちゃんもわがまま言ってくれたね」


 急に真面目な声色になった結衣ちゃんに朱里ちゃんははっとしたように目を見開いた。


 「…そっか。私が結衣にわがまま言うのは初めてだっけ?ずっと一緒にいたいってわがままはきっとみんな同じなのかな?」

 「うん!…でも、ユイはお兄ちゃんも入れていいと思う。…朱里お姉ちゃんは嫌?」

 「えっ、何で!?嫌なんかじゃないよ!!」


 結衣ちゃんの問いかけに慌てて大声で答えた朱里ちゃん。そんな普段とは違う様子に何かを感じたのか結衣ちゃんは驚いたような表情になった。


 「…えっと、朱里お姉ちゃん?ま、まさかとは思うけど、お兄ちゃんのこと好きなの?」

 「すっ!?…そ、そんなわけない!だいたい私が結衣と日向以外の人を信じられるわけないでしょ!」

 「…やっぱり、まだ信じられない?朱里お姉ちゃんが未だに帆立さんって呼んでるってことはそういうことだよね」

 「それだけは違う!私は帆立さんを信じてる」

 「…大丈夫だよ。朱里お姉ちゃんが信じられなくても、ユイたちはずっと側にいるから。ユイたちは3人でどんなことでも分け合っていけるから」

 「!!…ごめんね、結衣。私、嘘ついた。私、私ね?帆立さんのことが好き。私を、私たちをちゃんと見てくれる、撫でながら褒めてくれるとこも間違ったら叱ってくれるとこも真剣に相談にのってくれるところも全部が好き!」

 「…やっぱり。でも、それはすごく大変なことだと思うよ?咲さんもいるし、何よりユイたちとお兄ちゃんは血が繋がってるの」

 「…うん、分かってる。全部結衣の言う通りだし、きっと私は愚かな選択をしようとしてるって。…でも、例え思いが届かなくても、子供が作れないとしても、それでも私は帆立さんを諦められないの!!」

 「朱里お姉ちゃん…。よし!それなら帆立さんじゃなくて舜さんって名前で呼んでみたら?ユイたちももうすぐ帆立になれるだろうしね!ユイも舜お兄ちゃんって呼ぶようにするから!」

 「…帆立さんじゃなくて名前で?…帆立、朱里?…〜〜ッ!?」


 結衣ちゃんから言われたことを考えて顔を真っ赤にする朱里ちゃん。その姿を微笑ましそうに結衣ちゃんが見ていた。普段は真面目でしっかりしてるのに、表情を目まぐるしく変える朱里ちゃんの姿は新鮮に感じたみたいだった。


 〜舜〜

 また急に走り出した日向ちゃんを追いかけて元の場所まで戻ってくると、何故か朱里ちゃんが顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。


 「朱里ちゃん!?ど、どうかした?体調悪くなっちゃったとか?もう帰る?」

 「ふぇっ!?ほ、帆立さん!?えとえと、だ、大丈夫です!」

 「…ダメだよ、朱里ちゃん。体調が悪いときは無理したりしないで素直に言うこと」


 俺は誤魔化そうとしてるのか目を合わせようとしない朱里ちゃんにそう注意した。遠慮とかは時には美徳かもしれないけど、こういうのはダメだ。無理して色々やっても余計に悪くなるだけだし、流石に許可することはできない。


 俺がしゃがみ込んで目を見ながらそう言うと頬がより赤くなったような気がするし、やっぱり無理させちゃってたのかな?俺たちは家族なんだから、体調が良くないときは頼ってほしいけど、やっぱり難しいのかな?妹たちが絡んだときは素直になってくれ始めたし、自分のことでも素直になってもらうのが今後の課題かな?


 「ほ、ほんとに大丈夫でふ!…っ、です!」

 「…分かった。なら、今日はもうそろそろ帰ろっか。また今度お出かけすればいいし、思えば3人ともこうやってお店を見て回ったことってなかったよね?俺がもっと気が利けばよかったけど、今日はコロッケだけ買っておしまいにしよ?」


 慣れてないことをして疲れてるはずなのに、俺は全く気を利かせてあげられなかった。3人を幸せにしたいと思ってるのに俺が情けないとダメだよな。次はもっと気を配って体調が悪くなる前に休憩したり切り上げたりしないとな。


 「うん!ユイ、舜お兄ちゃんと一緒のお家に帰る!」

 「…結衣ちゃん。うん、帰ろう。俺たちの家に」


 結衣ちゃんから初めて舜って名前で呼んでもらえた。距離が近づいたみたいで嬉しかったし、何より一緒の家に帰ろうって家族になれたみたいで嬉しかった。


 それから俺たちは家に戻ってきて勉強をした。朱里ちゃんももう良くなったみたいだし、明日から学校に通うこともあって気合いが入っていた。


 ちなみに帰りは朱里ちゃんと隣だった。心配だったこともあって異論は認めなかったけど、結局日向ちゃんだけ隣になれなかった。本当なら3等分くらいにする予定だったけど、急に変更とかがあったからズレちゃった。日向ちゃんが望むなら次は優先的に隣にいれるようにしたい。


 「…今日はごめんなさい。せっかくのお出かけだったのに」

 「気にしないでいいよ。逆にこっちの方こそごめんね。もっと気にかけた方が良かったのに」

 「いえ!私がちょっとぼーっとしちゃってたせいで…」

 「…なら、お互いに悪かったってことにしない?今日の反省を次のお出かけに活かそうよ」

 「…次。…また私たちとお出かけしてくれるんですか?」

 「もちろんだよ!また行こうね」

 「はい!」


 夜になって俺は部屋に来た朱里ちゃんと話していた。顔が赤かったのも合流してから少しの間だけで、家に着くころにはいつも通りに戻っていた。念のため熱も測ってもらったけど平熱だった。


 「…じゃあ、そろそろ寝ようか?明日からは学校もあるんだし、早めに休まないとね?楽しみで寝られなくて遅刻とかってならないためにも」

 「は、はい!お休みなさい、しゅ、しゅ…帆立さん」

 「うん、お休み朱里ちゃん」

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