8日目②

 「じゃあ、今日はどうする?せっかくの土曜日だし、どこかに出かける?」


 必要なものを買いに行ったことはあるけど、やっぱり平日のお昼とかだと周囲の目とかも気になって気軽に外出できてなかったんだよな。窮屈な思いをさせてなきゃいいけど…。


 「お出かけ!?ユイ、みんなと一緒に行く!」

 「…そんなことより、うちはお兄のことを聞きたい」

 「…なるほど。朱里ちゃんはどう?」


 …2人の意見が完全に分かれてるんだけど!?こういうときってどうすればいいの!?話し合いとか、じゃんけんとか?…とりあえず今回は朱里ちゃんに任せよう。


 「…私ですか?…私はまだ勉強もしなくちゃなのであまり遊んでるわけには…」


 朱里ちゃんはそんなことを言ってきた。勉強は昨日も頑張ってたんだし、ちょっとくらいは休憩した方がいいとは思うけど…。でも、勉強がやりたいことならやらせてあげたい気持ちもあるし…。


 「む〜。分かった、ユイがお兄ちゃんと遊びに行くからお姉ちゃんたちは待っててくれればいいよ」

 「なっ!?それじゃあうちがお兄と話せないじゃん!」

 「そうだよ!結衣だけそんなのズルい!!」

 「…ねっ?ユイ、思うんだ。ユイたちは好きなように生きていいんだって。お兄ちゃんが選択肢を与えてくれてるんだから、素直に甘えたいなって。…だって、チャンスを逃したら何もできないから」


 …結衣ちゃんがいい感じにまとめてくれた。きっと結衣ちゃんだから言えることで、同じ境遇の日向ちゃん朱里ちゃんだからこそ伝わる言葉なんだろうな。


 「…結衣。うん、そういうことならうちも行きたい。…お願いしてもいい?」

 「もちろん!…朱里ちゃんはどうする?」

 「…私は、私は。…うん、私は勉強させてもらいます。せっかく帆立さんが用意してくださった機会を逃したくないので。…あっ、お出かけが嫌ってわけじゃないんですよ!?ただ、ちょっとだけ勉強についていけるのか不安で」

 「…そっか、分かった」


 朱里ちゃんは悩んでいたけど、結局勉強をすることに決めたみたいだった。ならそれを邪魔しちゃダメだよな。本人がやりたいって決めたんだから。


 「…なら、明日みんなで行こうよ!今日はユイも頑張ってお勉強するから、明日朱里お姉ちゃんも一緒に行こっ!」

 「…結衣。…それじゃダメだよ。私に遠慮なんてしないで3人で行ってきてよ」

 「遠慮なんかじゃないよ!やっぱりユイは4人で行きたいの!…お兄ちゃんもそれでいい?」

 「もちろん俺は構わないよ。朱里ちゃんと日向ちゃんもそれでいい?」

 「…はい、分かりました」

 「うちも結衣がいいならそれで」


 …俺は朱里ちゃんに留守番しててもらおうとしたのに、結衣ちゃんはみんなで行くことを諦めてなかった。朱里ちゃんのためとか言って自分を正当化させようとしてただけなんじゃないのか?


 …やっぱり結衣ちゃんはすごいな。俺も見習わないといけないって思うのに、まだ遠慮が先に来ちゃうのかな?俺は3人が本心から言ってるのか遠慮して言ってるのか判断ができないから強引に行くのも怖いんだよな…。


 「よし!じゃあ今日はまた勉強して、休憩時間に話し合いって感じでいい?ついでに明日行く場所も相談したいし」


 俺がそう言うと3人とも頷いてくれた。


 そこから行った勉強は順調だった。…いや、順調すぎた。結局みんなの集中力がすごくて午前中は4時間くらいずっと勉強してた。俺も邪魔したくなかったからそのままにしてたけど、このままじゃ話し合いする時間がなくなっちゃう!


 「…午後はちょっと明日のことについて話し合わないか?日向ちゃんも何か相談したいことがあるみたいだけど、個別に俺だけの方がいい?それとも朱里ちゃんと結衣ちゃんも一緒の方がいい?」

 「あっ、うちの話はそんなに大したことじゃないので。ただ、家族になるのにお兄のこと何も知らないから、何が好きで嫌いなのかとかって聞きたいなって思って…」


 お昼ご飯のときに俺が切り出すと日向ちゃんはそう言ってくれた。…これって俺との距離を縮めようとしてくれてるってことだよな?それならすごく嬉しい。…けど、俺にはそういうのはないんだよな。


 「…う〜ん、俺には特別好きなこととか嫌いなことってないんだよな」

 「…そうなの?」

 「ああ。テレビを見たりしないし、スマホはどっちかっていうと仕事用のイメージが近い。体動かすことも嫌いじゃないけど、好きとまでは言えない」

 「…じゃあ、この前の咲さんとはどんな話をしてるんですか?」

 「咲?普通に目が合えば挨拶するくらいだけど?」

 「…お兄ちゃん。流石に酷いと思うよ?」

 「…えっ?何が酷いの?」


 俺が趣味と呼べそうなものを探していると朱里ちゃんに咲のことを聞かれた。でも、咲とはほんとに挨拶くらいしかしないんだよな。だからこの前はわざわざノートを持ってきてくれたことに驚いた。


 俺が正直に答えると結衣ちゃんは俺が酷いことをしてるって。他の2人も同じなのか3人とも信じられないものを見るような目で見つめてくる。


 「お兄!明日、咲さんのお家に突撃しよう!!」

 「いやいや!俺は咲の家を知らないし、そもそも突然行っても迷惑になるでしょ!?」

 「何言ってるの!うちならきっとあんなことがあったら引きこもるよ!…咲さんもきっと悲しんでるはずだから、なるべく早くに話してあげてほしいの」

 「…分かった。月曜日になったら必ず話すよ」

 「…うん。もし休んでたら今度はお兄が咲さんの方に行ってあげてね。うちらは3人で待ってるから、ちゃんと話し合うこと!」

 「…了解。そこまで言うなら俺も全力で咲と向き合ってみるよ。…正直何がいけないのかよく分からないけど」


 …咲のことについては分からないことだらけだけど、日向ちゃんが真剣に忠告してくれてるのは分かる。きっと3人には何か気づいたことがあったんだろう。それなら俺は3人の言葉に従うだけだ。…それに、ノートのお礼もちゃんとしたいと思ってたしな。


 それから俺の過去の話とか、午前中に引き続き勉強とかをしていたら夜になった。それと明日はウィンドウショッピングをすることに決まった。…まぁ、目的もなくブラブラして気になったお店に入る行き当たりばったりなプランとも言うけど。


 寝る時は日向ちゃんがやってきた。


 「…あの、お兄。こんなに近いの?」

 「えっ?そりゃ同じ布団に入ってたらそうなんじゃない?というか、今日は2回目でしょ?」

 「うっ、それはそうなんだけど。…ほら、この前はまだ心の余裕とかが無くて気づかなかったし、朝もうちが起きたときにはお兄はいなかったし…」

 「…確かにそうだな。それじゃあやっぱり3人での方がいいんじゃないか?俺は1人で寝るし」


 日向ちゃんが残りの2人を説得するのに協力してくれるならこれ以上の味方はいない。多数決的にも2対2で話し合いに持ち込めるだろうし。


 「…ううん、うちだけ仲間外れは嫌。それにお兄が嫌いってわけじゃないから。ただちょっと慣れてないってだけで」

 「…慣れてない?」

 「うん。お姉と結衣以外の人の温もりとか?男の人とこんなに近い距離になることとかもだし」


 …そんな風に言われたら拒むことなんてできないよな。姉妹以外の人も頼れるようになっていった方がいいに決まってる。


 「…そっか。これからはどんどん頼ってくれていいからね」

 「…うん、ありがと。なら、早速いいかな?…ちょっとだけ2人に嫉妬、なのかな?をしてるの」

 「嫉妬?」

 「うん。…今日の予定、結衣は素直に行きたいって言えてたでしょ?それにお姉は勉強したいから残るって。…でもうちはどっちつかずだったから。結衣みたいに思ったまま行動することも、お姉みたいに自分の意思を貫き通すこともできなかったから。…うちだけが全く成長できてないなって」


 …そんなことない、なんて軽い言葉は使えないな。朱里ちゃんのときと同じで俺には彼女たちと向き合った時間が足りなすぎる。それに朱里ちゃんのときは周りに対しての悩みだったから話し合いで解決したけど、日向ちゃんの方は自分についての悩みだからな…。


 「…そっか。じゃあ、俺の誕生日がいつだか知ってる?」

 「えっ?…えっと、6月18日?」

 「うん正解。…ねっ?この前まで知らなかったことが分かるようになってるでしょ?これも成長だよ」


 ちなみに3人の誕生日は3月25日だって。今日の話し合いで聞いたし、盛大にお祝いしてあげなきゃな。


 「そんなの、今日聞いたんだから知ってて当然だよ」

 「…確かにそうかもな。でも、最初のころだったら知りたいなんて思ってくれなかったでしょ?日向ちゃんが聞きたいって言ってくれたおかげで俺も話したんだから。ちゃんと3人とも成長できてるよ」

 「…そう、なのかな?」

 「そうだよ」

 「うん、ありがとお兄」


 そこで会話が途切れた。…少しは日向ちゃんの役に立ってればいいけど。そんな風に思っているとすぅすぅと規則正しい寝息が聞こえてきた。


 …一番の成長はこうやって俺も頼ってくれるようになったことだよな。母親が同じだって共通点があるとはいえ、姉妹以外に弱音を吐いてくれるようになったらいいな。

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