幼馴染みの気持ち①
私は倉敷 咲。どこにでもいる普通の女子高生。…自分で自分のことを普通って思う人なんてほとんどいないって?そう言われても、私は絶対に普通なんだ。だって普通じゃない人が小学校からずっと一緒にいるんだもん。
帆立 舜。それが彼の名前。最初の印象はよく分からない人。小学生なのに他の人と明らかに違かった。上手く言葉にできないけど、雰囲気だったり、瞳の奥だったり。純粋に小1で転校してきたのも普通じゃないかな?私は、いや、同じクラスの人はみんな彼が怖かった。
そんな浮いた存在が虐めの対象になるのは必然だった。もちろん私はそんなことしなかったけど、止めることもできなかった。なのに彼は毎回どんなことをされてもケロッとしていた。私はそんな彼に話しかけた。
「…ねぇ、どうして舜はそんな風にしてるの?」
「?そんな風って何が?」
もしかしたら無視されるかもしれない。それでも仕方ないと思ってたのに彼は何でもないように返してくれた。
「…酷いことされてるのに、何もしないこと」
「…こんな程度は全然酷くないと思うけどな。…じゃあ、倉敷さんの一番辛かったことってなに?」
「えっ?え〜っと、大切なぬいぐるみが破けちゃったこと?」
「じゃあ、一番嬉しかったことは?」
「頭なでなで!!特別なときにしかしてくれないけど、気持ちがポワポワするの!!」
「そっか。…倉敷さんの普通がその真ん中だとするね。でも、俺の普通は違う。倉敷さんにとっての酷いことも俺にとっては普通のこと」
そう目を細めて言う舜に私は何も声をかけてあげられなかった。今まで見てることしかできなかった私が今さら何を言えばいいの?
「…そんなに悲しそうな顔しないでよ。俺はそんな顔をさせるために話したわけじゃないんだよ。…俺が一番嬉しかったのはたくさんの虫を捕まえられたこと。一番辛いのは分からない」
「へ〜。舜って虫が好きなんだ。意外と子供みたいなところもあるのね!」
「…そう、だね」
…そのときは本気でそう思っていた。彼も普通の人なんだと思いたかったのかもしれない。私はそのときから彼を助けたいと思うようになった。今までが見てるだけで後悔したなら、これから改めればいいんじゃないかと。
他にも何人もおかしいと思ってる人がいるみたいだった。私が行動に移すとすぐに彼への虐めはなくなった。彼は何も変わらなかった。自己満足でも構わない。
…そう、思っていたのに。実際は悪化してしまった。別の人…私の友達が新しく虐めのターゲットになってしまった。どうして!…意味が分からなかった。私がしたことは正しかったの?
「何、やってるのかな?」
声が聞こえた。底冷えするような暗く威圧感のある声が。聞いたことのないその声に私は耐えられずに泣き出してしまった。
「な、なんでもいいだろ!テメェには関係ないことだ!」
「…ふ〜ん?人を泣かせておいてそれはないんじゃないかな?」
そう言って私の前に立ちはだかったのは舜だった。…私が泣いたのは舜の声が怖かったからなんだけど。そんな言葉は飲み込んだ。
「…どう、して?」
「これが倉敷さんにとって酷いことなんでしょ?助ける理由はそれだけで十分だよ」
そうして舜は私の頭を撫でてくれた。一番嬉しかったことがこの瞬間に塗り替えられた。胸はドキドキと早鐘のように鳴り響いて体温が上昇した。当時はその正体がよく分からなかった。だけど、今ならハッキリと分かる。彼のことが好きになったんだ、と。
その後のことはよく覚えてない。だけど、その日から虐めは無くなった。私にできなかったことを彼は簡単にやってみせた。
それから高校生になってしばらくしてから。めったに学校を休むことの無かった舜がもう3日連続で休んでいた。1日目は珍しいなと、昨日は大丈夫かな、お見舞いは迷惑になるかな?と。そして3日目の今日。我慢できなくなった私は舜の家に向かった。
久しぶりに顔を合わせた舜は元気そうで安心した。多少の気恥ずかしさがあってつい強く言っちゃうけど、いつも舜はちゃんと受け止めてくれる。…だから素直になれないような気もするし、でもそれは私だけが知ってる秘密だとも思って嬉しい気もする。
「帆立お兄ちゃん〜。ここ、教えて?」
「…えっ!?」
長居するのも悪いし私が帰ろうとすると舜しかいないはずの家から3人の女の子たちが出てきた。
「…ねぇ、この子たち、ダレ?」
「…あぁ、この子たちは俺の妹で笹瀬 朱里ちゃん、日向ちゃん、結衣ちゃん。それでこっちはクラスメイトの倉敷 咲」
「い、
私はその言葉に強い衝撃を受けた。だって舜には妹なんていなかったはずだから。そもそも、家族だって…。そんな舜が妹って、絶対に彼女さんのって意味だよね?…私がヘタレてたせいで舜をとられちゃった。私が舜の家族になりたかったのに…。って!彼女ができたことと家庭の事情で休んでることを合わせると…もうヤることヤってるの?
「…も、もしかして、家庭の事情って子どもなんじゃ」
「?確かにそういうこともできるけど…」
「うわーん、舜のバカ!…お幸せに〜!!」
堪らず私は逃げ出してしまいました。私の初恋、終わっちゃったのかな?ちゃんと気持ちを伝えておけばよかったな。いつも全てが終わってからそう思うんです。
その日から私は三日三晩熱を出して寝込んだ。舜のことは諦めないといけないのにどうしても無理だった。彼との楽しかった思い出が溢れてくる。それと同時に涙も。楽しいことを考えてるはずなのに頬を伝う水が止まらない。
「…なんで、勇気、出せなかったんだろう?言葉にしなきゃ、伝わらないのに…」
不幸だった三つ子(js)をお金の力で甘やかしたら… 零 @cowardscuz
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