三つ子の気持ち②

 〜朱里〜

 私は帆立さんに引き取られてから自分の役割について考えていました。日向も結衣も帆立さんと出会ってからいい方向に変わってきてるのに、私だけは何も変わっていません。


 本当は私が矢面に立つ予定だったのに、気づけば私だけが帆立さんと距離をとってしまっています。結衣は言わずもがな帆立さんにべったりですし、日向も帆立さんをお兄って呼んでいます。…それなのに私だけは出会ったころと変わっていません。…いや、帆立さんがいい人だってことはもう十分分かってるはずなんですけどね?


 だからこそ取り残されてるような気がして焦っちゃったんです。お姉ちゃんだからちゃんとしないといけないのに、妹たちは帆立さんに取られるような気がして、それに、帆立さんも2人に取られちゃう気がして。…もし、私の存在価値がなくなって捨てられちゃったら?1人になるのが怖いです。


 …私がきっと一番子供なんです。無理に大人ぶってるだけで楽な方に逃げてるだけ。だって妹たちのためって思ってるときは自分のことを考えなくてもいいから。痛いとか辛いとか、そんな気持ちを感じてる余裕もないから。自分が死にたいのか生きたいのか、現状を変えたいのか維持したいのか。そんなことを考えなくてすむから…。


 帆立さんはそんな私の気持ちを察してちゃんと話し合うように促してくれました。本音を伝える勇気のない私の背中を押してくれました。…それに、きっと帆立さんは私を見捨てないでくれるんじゃないかって思えます。こんな風に甘えてしまってもちゃんと話を聞いてくれます。ちょっと注意されちゃったときもあるけど、少し温かかったです。


 そのおかげで2人と話し合うことができました。…やっぱり最後は帆立さんに頼っちゃったけど。


 私もちゃんと変わってきてるのかな?成長できてるのかな?私も2人と同じようにお兄さんって呼ぶ…のはやっぱりやだ!だって、そんなことしちゃったら兄妹だって意識しちゃう。それじゃあ私の望みは叶いそうもないから。…私はお兄さんじゃなくて、舜さんって呼びたい。今はまだ無理だけど…。


 …本当は結衣みたいな雰囲気で私のことどう思ってるのか聞こうと思ったのに、帆立さんはすぐに私だって気づいちゃいました。ほんのちょっとだけ残念だけど、すごい嬉しかったです!


 久しぶりに私が自分でやりたいことを考えると真っ先に出てきた答えがそれです。帆立さんと距離を縮めていつかは幸せな家庭を築くんです。…そのためにも、もう一回帆立さんの幼馴染の咲さんと話し合わなくちゃ!彼女が一番のライバルだって私の勘が囁いています。


 〜日向〜

 うちはお兄と出会ってようやく人並みの暮らしができるようになった気がする。それまでは明日のことを、未来のことを考える余裕なんてなくて、死ぬ勇気がないから生きてる状態だった。


 それがお兄と一緒に暮らすようになって、急に与えられた普通が怖かった。この生活がなくなったら元に戻るだけなのに、うちたちじゃきっとそれに耐えられない。何も知らずに普通を羨んでるだけだったころは3人で寄り添って耐えられてたのにうちは知っちゃった。普通の生活を、温もりを、特別さを。


 だからうちはついお兄にその恐怖をぶつけちゃった。どうして普通なんて特別なものをくれるの?って。そしたら兄だからって。そんなことあのクズからは聞いたこともなかったけど、うちはお兄を信じることにした。だってあのクズからは普通も与えてもらえなかったから。


 そこからうちは普通を謳歌おうかすることにした。それまではなくなるのが、そのせいでうちらが壊れるのが怖くて怯えてばかりだったけど、お兄なら…。


 うちがお兄って呼べるようになってようやく家族になれたような気がした。だって、きっと結衣もそうだだったんじゃないかと思うけど、なくなると分かってるものに近づくのが怖くて一度も帆立さんって呼べなかったから。


 …でも、甘えてるだけじゃダメだよね。転校もしたいって言ったらさせてくれたけど、そんな簡単なことじゃないって分かってるから。そのせいでお兄にも学校を休ませちゃってるし、勉強とか色々教えてもらってばかりだし。


 …でも、うちはお姉みたいに気が利くわけじゃないし、結衣みたいに愛嬌があるわけでもない。2人の真ん中で中途半端なうちに何ができるんだろう?


 …それに、うちはお兄のこと何も知らない。うちらの兄だってことは聞いたけど、そんな記憶はないから、きっとうちと同じくらいの年では既に家を出てたってことだよね?どうしてそんなことができたのか、なんてことは聞かなくても、せめて何が好きなのかとかは聞きたいな。…あっ、咲さんだっけ?お兄の幼馴染なら知ってるかも!今度聞いてみよ!


 〜結衣〜

 …いつからだろう?最初はお姉ちゃんたちのためだったのに、いつの間にかユイがお兄ちゃんと一緒にいたいから側によるようになったのは。


 ユイがお兄ちゃんにどこまでなら甘えて大丈夫なのか実践して試していたのに、とことんユイを甘やかしてくれるんだもん。もしユイがやりすぎても嫌われるのはユイだけ。そう、思ってたのに。…きっとこれがユイたちの欲しかった愛情ってやつ、なのかな?


 …ほんのちょっとお姉ちゃんたちに嫉妬しちゃったりして。明るい末っ子を演じていたらいつの間にかそうなっちゃってたみたい。お姉ちゃんたちがお兄ちゃんに何かやってもらってるとユイまでやってほしいっておねだりしちゃう。


 ユイはお兄ちゃんやお姉ちゃんたちとどうなりたいのかな?ずっと一緒にいたいって思うけど、いつかは離れ離れになっちゃうんだよね。今まではそんなこと考えることもなかったけど、お兄ちゃんのおかげでユイたちに余裕ができて考えられるようになった。


 みんなが別々の未来に歩き出したとき、ユイはどうなるんだろう?ユイも別の道を見つけてるのか、それとも誰かの後ろに付いて行くのか。…でも、臆病なユイはその場に立ち尽くしちゃうだけかな?


 …よし!もしそうなったらお姉ちゃんたちを応援しなくちゃ!それでユイはお兄ちゃんにもっと沢山甘やかして慰めてもらうんだ。


 そのためには…お兄ちゃんの彼女さんに気に入られなくちゃいけないよね!ユイがお兄ちゃんとずっと一緒にいたいなら、お兄ちゃんがずっと一緒にいたいって思う人とも一緒ってことになるんだもん!仲良くしなくちゃ!…それはきっと咲さん、だよね?

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