7日目

 俺が目を覚ますと朱里ちゃんが覗き込んでいた。


 「…ん、朱里ちゃん?どうしたの?」

 「!?ど、どうして私だって気付いたの?」


 そう言った朱里ちゃんはのカツラを取った。朱里ちゃんの表情には驚きと微かな喜びが見えた気がした。


 「…何でだろう?なんとなく朱里ちゃんだって分かった。…それよりそのカツラは?」


 寝起きすぐは分からなかったけど、朱里ちゃんは結衣ちゃんの髪みたいなカツラをしていた。変装でもしてたのかな?


 「これ?……これは私が結衣の真似してただけだよ。帆立さんが気付くのかなって。でも、バレちゃったなら仕方ない。…これ、あげる」


 そう言った朱里ちゃんは押し付けるようにカツラを突き付けてきた。反射的に受け取ってしまったけど、これどうしよう?朱里ちゃんは渡すだけ渡してすぐに出ていっちゃったし…。


 戸惑った俺はひとまず放置することに決めた。…いや、本当にどうしよう?貰い物?なのに捨てるのはよくないだろうし、かと言って俺が付けるのもな…。


 俺がそう結論付けて(思考放棄して)リビングに向かうと朱里ちゃんが朝食の準備をしてくれているところだった。


 「っと、ごめん!すぐに手伝うよ!」


 それから2人で分担してやることですぐに用意が終わった。まだ2人が起きてくるまで時間があるし、どうしようかな?


 「…あ、あの、帆立さん!…少し相談というか、お願いが…」

 「?俺にできることならいいよ」


 ちょうどそのタイミングで朱里ちゃんが申し訳なさそうにそう言った。もう家族同然なんだし、そんなに遠慮しないでいいのに。


 「…勉強、教えてほしいの。目標は結衣と日向に教えられるくらい。少なくとも2人と同じくらいはできるようになりたいの」


 どんな無理難題な頼みかと思ったらそんなことだった。もちろんいいと言おうとして俺はふと思った。本当にそれでいいのかと。


 「…朱里ちゃんは何か好きなことってある?」

 「ふぇ!す、好き!?そ、それって…」


 俺がそう聞くと朱里ちゃんは顔を真っ赤にしてアタフタしていた。これは…どういう感情なんだろう?女の子は分からないな…。


 「どんなことでもいいんだけど、例えばスポーツが好きだったり、本やテレビを見るのが好きだったり誰かと話すのが好きだったり」

 「…私たち、……なのに。で、でも、私も好き!」

 「…えっ?」

 「…えっ?」


 俺と朱里ちゃんの会話は何故か噛み合っていなかった。そんなに分かりにくかったかな?


 「あっ!そう、好きなことね。…う〜ん?妹たちを喜ばせること、かな?…いや、家族!私は家族を喜ばせたい!」

 「…そっか。なら、良かった。…勉強教えてほしいんだったよね?いいよ」


 家族って言い直したならその中には朱里ちゃん自身も入ってるんだよね?妹のために頑張ることを否定するつもりはないけど、俺は朱里ちゃん自身も幸せになってほしいから。もしかしたら、それは余計なお世話なのかもしれない。でも、引き取ると決めた以上は貫き通す俺の信念だ。


 それから俺と朱里ちゃんは30分くらい勉強をした。。最初は向かい合って教えようとしたけど、それだとよく分からないということで隣同士になった。…まぁ、朱里ちゃんが嬉しそうだしいっか。


 そうこうしていると2人も起きてきた。そこで俺は転校の手続きが終わったことを伝えた。新しい学校は帆立小学校ということとおよそ2週間後から通うこと、そして3人は同じクラスになること(かなり無理を言った)。3人は嬉しそうにしていた。…だけど、月曜日から俺が学校に戻ることを伝えると途端に悲しそうになった。


 「…ユイ、いらない子?捨てられるの?」

 「そんなことない!」

 「…よかった。…結衣たち、ちゃんといい子にしてる」


 服を控えめに引っ張る結衣ちゃんに俺は慌てて否定した。ホッとしたように微笑む結衣ちゃんに俺はついまだ行かないと言いそうになった。だけど、それじゃダメだよね。みんなに自立してほしいなら俺からしないと。


 それからまたみんなで勉強して、午後から道を覚えてもらうために帆立小学校に向かった。毎日タクシーを使ってもいいけど、悪目立ちしてほしくないから。3人はすぐに道を覚えて、みんなだけでも学校に行って帰ってくることができていた。


 その後は自由にしていいって言ったんだけど……朱里ちゃんがまた勉強を教えてほしいと言ってきた。そして日向ちゃんと結衣ちゃんも一緒にやりたいとなって結局勉強になった。…もっと遊んでもいいのに。…いや、遊び方を知らないのかな?じゃあ、明日と明後日は色んな遊びをしよう!


 それから寝る時間になった。今日は結衣ちゃんが同じベッドに入ってきた。2回目だったし、すぐに受け入れた。それから抱きついてきた結衣ちゃんはすぐに寝息を立て始めた。…やっぱり疲れたのかな?何回か学校まで往復させちゃったし。


 「…んっ、お兄、ちゃん。…だい、好き」

 「!…俺も結衣ちゃんが、3人が好きだよ」


 きっとそれは聞こえてないだろうけど、俺は改めて3人を守りたいと思った。今までたくさん辛い思いをしてきた妹たちを…。

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