6日目②
〜三人称〜
初めての自分の部屋に来た結衣ちゃんと日向ちゃんは向かい合っていた。
「結衣?どうしたの?」
「…ユイ、何もできなかった。日向お姉ちゃんがユイの代わりに怒られてるって気付いたのに、怖かった、から」
「…そっか。痛いのは怖いもんね」
それに結衣ちゃんはふるふると否定した。
「…お姉ちゃんたちに、要らないって思われるのが。…ユイがいなければ、その分お姉ちゃんたちは、痛くない、はずだから」
「そんなことないよ!うちらは結衣のことが大好きなんだから。…結衣は違うの?」
「ユイもお姉ちゃんたちが大好き!」
日向ちゃんの言葉を結衣ちゃんは食い気味に否定した。日向ちゃんはまるで分かってると言うように優しい眼差しで結衣ちゃんを見つめた。
「ねっ?だから大丈夫だよ。…けど、今まではこんな風に話し合うことすらなかったんだよね。だけど、これが普通なのかな?」
「?…どういうこと?」
「こうやって言いたいことを言い合って、喧嘩もして仲直りする。それが普通の姉妹なのかなって」
「!仲直り、しないと。ユイ、逃げ出しちゃった」
「そうだね。じゃあ、戻ろっか?」
「うん!」
そうして日向ちゃんと結衣ちゃんがリビングに戻ろうとしたそのとき、玄関が開いて舜が帰ってきた。
〜舜〜
俺が家に着いたとき、中は異様なほどに静まり返っていた。ただいまと声をかけてもそれは闇の中に消えていくだけだった。
「何かあったの!?」
「…あっ、す、すみません。お出迎え、しなきゃいけなかったのに」
俺が慌ててリビングに向かうと、中には体操座りして膝に顔を埋めていた朱里ちゃんだけがいた。
「そんなことはどうでもいいけど…何があったの?日向ちゃんと結衣ちゃんは?」
「…私、失敗しちゃいました。やっぱり、嫌われてたんですかね?」
俺がそう聞くと朱里ちゃんは無理矢理笑おうとして、でもできないような複雑な表情でそう言った。
「聞かなきゃ、グスッ、よかったのかな?もう、分かんない!!帆立さん、助けて…」
…そんなはずない、と思ってたのに。俺のせい、だな。何が大丈夫だ、何が頑張れだ!まだ3人と会って一週間もしてないのに、俺が彼女たちを知ってる?自惚れもいい加減にしろ!!
…だけど、もう俺にはどうしようもないのかな?そう思った俺の目にドアから覗き込んでる心配そうな表情の結衣ちゃんが映った。…もしかして、すれ違ってるだけ?なら、まだチャンスがあるかな?それに賭けるしかない、か。
「…そっか。でも、そう悩むってことはこうなりたいって自分がいるんだよね?朱里ちゃんの根っこにある理想は何?」
「…り、そう?」
「うん。それは何もしなくても手に入ってたの?…違うんじゃないかな?もっとこうしたい、ああしたいって気持ちがあったんじゃない?それは、何?」
「……私、は。…私はもっと妹たちに幸せになってほしい!ようやく、明日の心配をしなくてよくなったんだから!今日死んじゃうかもじゃなくて、明日何しようって考えになれたんだから!…ありがと。もう一回話してみる」
「うん、頑張れ」
朱里ちゃんは迷いが無くなったのか、清々しい表情でリビングを出ていった。それを見るときっと大丈夫なんじゃないか、そんな気持ちになった。
「朱里お姉ちゃん!」
「わっ、ちょ、ゆ、結衣?どうしてここに…」
…って思ったけど、すぐ近くでそんな声が聞こえた。そういえば、ドアの近くに結衣ちゃんがいたんだった。
「ごめんなさい。ユイ、お姉ちゃんたちが痛い思いしてるのに何もできなかった」
「えっ?ど、どういうこと?」
「ユイの代わりに怒られてたんでしょ!」
「!…ど、どうして?」
「…結衣はうちらのことを見たんだって」
日向ちゃんも近くにいたんだ。声だけしか聞こえないけど、もう心配しなくて大丈夫そうだな。…じゃあ、夕飯でも作り始めるかな?俺は3人の声をBGM代わりに料理をした。
それから4人でテーブルを囲んだ。3人はすっかり仲直りできたみたいだ。…これが当たり前じゃないんだよね?俺はもう違和感が無くなった新しい日常にそう思った。
そしていつものように寝る準備を整えた。今日は3人で一緒に寝るみたいで、俺の部屋は1人だった。そのことにほんの少しだけ寂しいと感じる俺はもう3人に毒されてるのかな?そんな気持ちをかき消すように俺は深い眠りについた。
「…帆立さんと一緒にいると少しおかしいの。私のこの気持ちって恋、なのかな?それとも依存?それを確かめたいのも私の願い、だよ?」
…深夜。1人しかいないはずなのに誰かが枕元に立っていた。その人はそう言って部屋の主の寝顔を眺めていた。だけど、それ以上は何もせずに立ち去った。その人の声は誰にも届かずに溶けていった。
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