6日目①

 今日は俺が目を覚ましたときにベッドの上は1人だけだった。それが普通のことなんだと思っていたけど少しずつ覚醒してきて、朱里ちゃんがいないことに気付いた。


 「朱里ちゃん!」

 「っは、はい!…おはようございます、帆立さん」


 慌てて飛び起きた俺に近くにいた朱里ちゃんがビクッと驚いたように体を震わせていた。…申し訳ないことしちゃったかな?でも、可愛かったな。


 「朱里ちゃんおはよう。それにしても早いね」

 「いえ、居候させてもらってるんですから当然です。…ご飯の用意してきますね」

 「っと、俺も手伝うよ」


 そうして俺と朱里ちゃんは2人揃って下に降りた。…もう料理は朱里ちゃんの方が上手なんだよね。それからいつも通りに朝が過ぎていった。


 「じゃあ、行ってくる。…その、なんだ。頑張れ、でいいのかな?」

 「!?…はい、ありがとうございます」


 俺がそう声をかけると日向ちゃんと結衣ちゃんは不思議そうな表情をしていたけど、朱里ちゃんはほんの少しだけやわらいだ表情になってそう言った。…本当ならもっといい言葉をかけられたんじゃないかと思うけど、俺にはそれしか出てこなかった。少し心配だけど俺は帆立小学校に向かった。


 帆立小学校に到着した俺は、必要な書類が足りないということでもう一度日本小学校に向かうことになった。俺の権力があれば無理矢理でもできるけど、そのせいで朱里ちゃんたちが悪く言われるなんてダメだし仕方ないか。


 そう思って日本小学校に向かった俺を出迎えたのはこの間会った校長先生だ。だけど、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。…まるで俺がどうして来たのか分かってるみたいだ。


 「…すみません。書類が足りないみたいなので受け取りに来ました」


 だけど俺にはそう言うしかなかった。


 「はて、どこかでお会いしましたか?」

 「……数日前にもお会いしましたよね?笹瀬3姉妹の保護者です」

 「さぁ?もうこの学校の生徒でありませんし、最初からいないんじゃないですか?」


 …そう、か。最初から仕組まれてたのか。ならもう俺も遠慮しない。俺は俺の権力を使う。


 「…そうか。なら俺はもうこの学校に寄付しないぞ」

 「ふっ、子供が何をできるって言うんだ?もう学校への寄付はほとんど『スカロップ』って会社だけで十分なんだよ」

 「…それが俺だよ」

 「…面白い冗談ですね。…もういいです。帰ってください」


 俺はそのまま追い出された。『scallopスカロップ』…ホタテは俺だけの会社なのに。俺はしぶしぶ帆立小学校に戻った。そこでの手続きは簡単に終わった。朱里ちゃんたちが悪く言われなきゃいいけど…。


 そうして俺はショートケーキを4つ買ってから3人の待つ自宅に帰った。…朱里ちゃんの悩みが無くなってるといいけど。


〜三人称〜

 舜が家を出てしばらくしてから、朱里ちゃんが妹たちを話がしたいと呼び止めていた。


 「朱里お姉ちゃん?どうしたの?」

 「そうだよね。お姉がうちたちに話があるなんて珍しいじゃん」

 「…うん。2人に謝りたくて」


 朱里ちゃんはそう声をだした。だけど、言いづらいのかその後の言葉がうまくでてこないみたいだった。


 「!も、もしかして、朱里お姉ちゃんは帆立お兄ちゃんとえ、えっちなことしたの?」

 「そんなわけないじゃない!!」


 そんな空気は結衣ちゃんの言葉一つで吹き飛んだ。それは舜がいるときには絶対に出さない一面だった。


 「慌てて否定するなんて、怪しいですね〜」

 「日向お姉ちゃんもそう思うよね!」

 「違うってば!…そうじゃなくて、結衣のそれ。私が頼りないから無理させちゃったんでしょ?」


 その言葉に結衣ちゃんは慌てて首を振った。


 「そんなわけないでしょ!…ユイは守られるだけの存在じゃないんだよ?」

 「それって…」

 「!…ごめんなさい!」

 「結衣!?」


 結衣ちゃんはそれだけ言うと二階に駆け上がってしまった。日向ちゃんもそれを追いかけていった。リビングには朱里ちゃんだけが残された。


 「…私、何してるんだろう?」


 その呟きに応えてくれる人はいなかった。


 「ぐすっ、帆立さん。失敗、しちゃった」


 独りになった朱里ちゃんは溢れてくる涙を抑えることができなかった。自らを引き取ってくれた舜の名前をすがるように呼んでもまだ帰ってこない。

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