5日目
いつも通りの時間に起きた俺はほんの少し困惑していた。目の前にあったのは青あざだらけの足だった。…いや、ホント何で!?
コンコンコン
「帆立さん?起きてますか?」
「うん。入ってきていいよ」
困惑してる中でやってきたのは昨日と同じ朱里ちゃんだった。そして俺となぜか逆さまになっている日向ちゃんを見つめてため息を吐いた。
「…やっぱり日向はこうなりましたか」
「何か知ってるの?」
「はい。日向は寝相が悪いんです。…まぁ、上下が逆さまになるだけで隣で寝てても全く気付かないんですけどね」
それは…不思議な寝相もあるもんだね。って、どうやったらベッドで一緒でも気付かれずに逆になれるの!?俺、全く気付かなかったんだけど。…俺が鈍感とかじゃないよね?
「…それはすごいね。ま、まぁ、とりあえずご飯作っちゃうね」
「あっ!私も手伝います!」
「じゃあ、お願いしようかな?」
「はい!」
そうして俺と朱里ちゃんは横並びでキッチンに立った。朱里ちゃんは既に慣れたような手つきでどんどん料理を完成させていった。
それから2人も起きてきて、いつものように朝食の時間になった。…味も朱里ちゃんの方が美味しく感じるな。
「…それで新しい小学校のことなんだけど、一番近くの帆立小学校でいい?」
「…帆立お兄ちゃんと、同じ名前?」
「…あぁ、うん。そうだよ」
「!ユイ、そこがいい」
結衣ちゃんに言われた通り、俺の名前が入っている。まだ開校四年のできたての学校だ。家から徒歩5分ほどの場所にあって通学に便利。…まぁ、俺が全国の学校に寄付してるからってことで建てられた学校の一つなんだよな。そんな無駄なことしなくていいのに。
「2人はどうする?他の学校がよければそっちでいいけど」
「…私も、たとえ関係なくても帆立さんの名前がある学校がいいです」
「うちも帆立小学校がいい」
「…そっか。じゃあそこで手続きしちゃうね」
3人からのキラキラした視線を遮るように目を逸らしてそう言った。…もろ関係者なんだよな。気恥ずかしい。
それから注文しておいた教科書が届いた。それを使って勉強を教え始めた。すると、日向ちゃんはすぐに吸収していった。一回教えたらほとんどのことを暗記できていた。結衣ちゃんは発想力があるのか、気になったことをどんどん質問してきた。まだ教えてないような部分まで疑問が広がって、日向ちゃんよりもゆっくりだけど確実に身につけていった。
一方で朱里ちゃんは何回も間違えてゆっくりゆっくり進めていった。それが普通なのに日向ちゃんと結衣ちゃんの2人と自分を比べて落ち込んでいるみたいだった。
「よし、そろそろ休憩にしよっか。お昼の用意しちゃうね」
「…あの、今日のお昼はお任せしていいですか?」
「もちろんいいよ」
「…ごめんなさい」
「いやいや、謝らないで。ゆっくりしててね」
「…はい」
勉強を始めてから1時間くらいが過ぎて11時半になっていた。そろそろご飯の用意をしないと間に合わなくなりそうだったからそう声をかけた。すると朱里ちゃんは申し訳なさそうに手伝えないと言った。…気にしなくていいのに。
その後も朱里ちゃんは勉強を続けていた。それに感化されたのか日向ちゃんと結衣ちゃんまで一生懸命やっていた。…無理はしてほしくないけど、止めるのは無粋だよね?
午後も3人はひたすら勉強をしていた。多少の心配はあるけど、今まではそんなこともできない状況だったんだろうし俺は全力でサポートすることに決めた。
ピンポーン
そんな中不意に家のチャイムが鳴った。俺がそれに出ると1人の女子がいた。165㎝ほどの身長とツインテールにした金髪、目鼻立ちのクッキリした整った顔立ち。俺の通う学校の制服に身を包んだ彼女は小学生のときからの腐れ縁…いわゆる幼馴染みだった。
「
「…舜が3日も学校休んでるから、書類持ってきてあげただけ。…会いたかったとかじゃないんだからね!」
「?お、おう。ありがとな」
「ふ、ふん!…何よ、元気そうじゃない」
咲はそう言って手に持っていたファイルを押し付けるように俺に渡してきた。…もう高校生なんだからわざわざ持ってこなくてもいいのに。
「…じゃあ、私はかえ「帆立お兄ちゃん〜。ここ、教えて?」…えっ!?」
咲がそう言って
「「ちょっと結衣!お兄(帆立さん)に迷惑でしょ!」」
それを追って朱里ちゃんと日向ちゃんもやってきた。
「…ねぇ、この子たち、ダレ?」
「…あぁ、この子たちは俺の妹で笹瀬 朱里ちゃん、日向ちゃん、結衣ちゃん。それでこっちはクラスメイトの
「い、
なぜか一瞬寒気がしたような気がした俺は咲の質問に素直にそう答えた。すると咲は大きな声でそう叫んだ。何でだろう?こんな咲は見たことないけど…。
「…も、もしかして、家庭の事情って子どもなんじゃ」
「?確かにそういうこともできるけど…」
3人を親代わりに育ててるんだから俺の子どもだよね?俺がそう答えると「うわーん、舜のバカ!…お幸せに〜!!」と言って咲は走り去っていった。…何だったんだ?
それに気になったけど、考えてもよく分からないから放置することにした。それからまた勉強をして夜になった。今日は朱里ちゃんの日だね。
コンコンコン
「開いてるよ」
その言葉に顔だけ覗かせるのは猫のパジャマの朱里ちゃんだった。だけど恥ずかしいのか朱里ちゃんはなかなか部屋の中に入ってこない。…流石にこのままだと風邪ひいちゃうよね?
「朱里ちゃん?おいで」
「!…は、はい」
俺が言うと朱里ちゃんは素直に頷いて入ってきた。そしてそのまま俺の膝の上に腰を下ろした。…って、えっ!?
「あ、朱里ちゃん!?ど、どうしたの?」
「?おいでって…」
「それは部屋の中にって意味だったんだけど…」
「〜ッ!す、すみません!」
「嫌とかじゃないし、気にしなくていいよ」
俺がそう言うと朱里ちゃんは慌てて立ち上がった。そして俺から離れて座った。…少し残念ではあるけど、今はちゃんと話を聞いてあげないと。
「…それで、一昨日はどうしたの?言いたくないなら聞かないけど、もし悩んでるなら教えてほしいな」
「…はい。あの、その…私って無駄なんじゃないかと」
俺が朱里ちゃんにそう聞くと、しばらくしてそんな風に返された。俺は下手に口を挟んだりせずに聞き役に徹することにした。
「…私は結衣が無理矢理笑ってるのに気付いていたはずなんです。それなのに、いつの間にか結衣は変わったんだって思い込んじゃってました。…そんなはずなかったのに。私が結衣に無理させちゃってただけなのに。…それが帆立さんと出会ってすぐに昔みたいになった。…私が未熟なせいでずっと結衣に我慢させちゃってたのに、どうして私じゃないんだろうって。私だって頑張ってきたはずなのに帆立さんばっかりずるいって。…でも、よく分かったんです。帆立さんは私に…私たちに寄り添おうとしてくれてるんだって。暗い気持ちになったのに気付いてくれて嬉しかった。…私は結衣の気持ちを勝手に想像して押し付けてたんじゃないかって。…私は結衣と日向の邪魔になってるんじゃないかって思っちゃったんだ」
「…そっか」
そんなわけない。それは間違いないのに、俺から伝えてもきっとダメだ。3人で直接話し合ってもらうしかない。
「よし!なら明日ちゃんと話してみて。俺も手続きしないといけないからまた留守番してもらう必要があるから、そのときにね」
「…でも」
「絶対に大丈夫だから。ねっ?」
「…うん」
俺がそう言うと朱里ちゃんは頷いた。…俺には背中を押すくらいしかできないけど、3人を見るとその悩みこそが無駄なんだよな。けど、当事者には分からないのかな?
そして俺は寝るまでずっと頭を撫で続けた。少しでも不安がなくなって勇気が出ればいいなと願いながら。そのおかげか朱里ちゃんの寝顔はとても安らかだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます