3日目①

 今日からはまた学校が始まる。…しかし俺は朱里ちゃんたち3人がどの小学校に通っているのか知らなかったのだーー!!!


 …っと、無駄なナレーションをしている場合じゃないよな?もう6時を過ぎている。もし遠いと今から準備してもギリギリだ。…でも、ノックしていいのか?一応は俺の部屋なんだが、もし3人がぐっすり寝てたら?学校なら1日くらい休んでも大丈夫だとは思うけど、月曜日から休むと行きにくくなっちゃうかも…。…よしっ!起こすか!


 コンコンコン


 「朱里ちゃん、日向ちゃん、結衣ちゃん。起きてる?ちょっと話があるんだけど…」

 「!す、すぐに用意します!…日向!結衣!起きて!」


 俺が声をかけると中から慌てたような朱里ちゃんの声が聞こえた。それからしばらくして扉が開いた。


 「ご、ごめんなさい。まだ2人とも起きなくて…」

 「ふふっ。気にしなくていいって言いたいけど…まぁ最初は朱里ちゃんだけでいっか。ちょっと相談いいかな?」

 「!……そう、よね。分かった。でも、妹たちにはやらないで!…私はどうなってもいいから」

 「ちょっ!何か勘違いしてる?…とりあえず下で待ってるから」


 何やら悲痛な決意を固めたような朱里ちゃんには悪い?けど、俺は何かやるつもりはないよ。流石に学校に行かないのは大変だろうからちゃんと3人とも全員通ってもらわないといけないから朱里ちゃんだけなわけにはいかないし。


 「…あの、私は何をすれば」

 「とりあえず座って?」

 「は、はい!」


 少したってからやってきた朱里ちゃんに向かいに座るように促した。とても緊張しているみたいだけどどうしてだろう?よく分からないけど、早めに本題に入ってすぐに終わらせる方がいいかな?


 「…早速だけど、学校について教えてくれる?どんな学校に通ってたのか、今の学校がいいのかも」

 「…えっ?それだけ、ですか?」

 「ん?…うん」


 そう言うと朱里ちゃんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。時々「…私は何て勘違いを。あんなに良くしてくれた帆立さんを疑うなんて」といったことが聞こえてきた。


 「…私たちは日本小学校に通っていました。でも、一週間に一回しか登校できてなくて給食もありませんでした。だから私は…虐められてました。仕方ない、ですよね。お風呂も入れなかったんですから。友達もできないし、先生たちもほとんど登校すらしない私を助けてはくれませんでした」


 しばらくして落ち着いたのか顔を上げた朱里ちゃんはまだほんの少し赤みの残ったままでそう言った。…やっぱり辛かったんだよね。


 「…なるほどね。じゃあ転校にするか。朱里ちゃんはそれでもいい?」

 「…いいん、ですか?無理にでも学校に行った方がいいんじゃ?」

 「…小学校に行かなくてもいいとは言えないけど、場所はどこでもいいと思うよ。…それとも、今の学校の方がいい?」


 俺がそう聞くと朱里ちゃんは小さく、だけどハッキリと首を振った。…なら決まりだね。


 「なら、早めに手続きしないとね。勉強は大丈夫?」


 その質問に朱里ちゃんは目線をゆっくり外すことで答えた。…なら、俺が教えてあげないとな。俺はそれなりに勉強もできるから。


 「朱里お姉ちゃん!」


 そんな風に朱里ちゃんに聞いていると結衣ちゃんが慌てたように入ってきた。俺はそんなただならない様子にすぐに声をかけた。


 「結衣ちゃん!どうしたの!?」

 「朱里お姉ちゃんが!朱里お姉ちゃんが、いないの!助けて!」

 「大丈夫。大丈夫だよ」


 俺に必死にすがるように抱きついてきた結衣ちゃんを俺はなだめるように耳元でそう言いながら背中を優しくさすった。


 「…私はここにいるよ」

 「!…もう、勝手にいなくならない?」

 「うん。それに、起きない結衣が悪いよね?」

 「む〜〜!」


 朱里ちゃんを見たからか結衣ちゃんもいつも通りの感じに戻ってきた。まだ目が赤いけど、もう涙は引っ込んでいた。…じゃあ、このタイミングで結衣ちゃんにも聞くかな?


 「…結衣ちゃん、一つ聞いていい?…学校どうする?転校する?」

 「…ユイ、お姉ちゃんたちと、一緒がいい。学校は…どこでも、いい」

 「…そっか。なら、もし朱里ちゃんと日向ちゃんの希望が別だったら?結衣ちゃんはどっちとがいい?」

 「!…ユイは…ユイ、は」


 そうしてまた結衣ちゃんは目に涙を溜めてしまった。…流石に意地悪な質問だったかな?でも、ちゃんと自立してほしいし…。


 「とりあえず、日向ちゃんにも聞いてみてからね」

 「…呼んだ?」


 俺がそう言うと後ろから声が聞こえた。少し驚いて振り向くと日向ちゃんが立っていた。


 「ああ、うん。日向ちゃんは学校どうする?元のままか転校するかしかないけど。…3人に言えるけど、不登校はまだやめてほしいな。もちろん辛かったら転校していいから、我慢だけはしないでね」

 「…うち、転校したい。そんな我儘わがまま言ってもいいの?」

 「もちろん。じゃあ、みんなで転校するってことでいいのかな?」


 どうやら満場一致みたいでみんなが転校することに決まった。異論はだれもないみたいで頷いてくれた。


 …っと、もう7時過ぎか。これからやることは大分多いよね。まずは高校に今日からしばらく欠席することを伝えて、朱里ちゃんたちの転校の手続きをして、朱里ちゃんたちに勉強と箸の持ち方とかを教えてあげないと。


 「…もしもし、私は一年三組の帆立 舜ですけど、本日からしばらくの間欠席したいんですけど。…理由は親が亡くなってバタバタしているからです。…はい、一週間くらいはそのままだと思います。…はい。はい。…では、よろしくお願いします」


 俺は自分の高校に連絡を入れた。そのときには朱里ちゃんたちはみんな静かにしていてくれた。…やっぱりみんな優しいね。ちゃんと幸せにしてあげないとだけど、学生の俺にそんな力があるのかな?俺もいつまでも学校を休むわけにはいかないし…。


 「…っと、ごめんね。すぐご飯の準備しちゃうね」


 ほんの少しだけ嫌な気分になったけど、とりあえずやることはやらないとね。もし何か不利益があればそのときに考えればいいだけだから。


 「…なんでよ!!」


 だけど、そんな考えを打ち壊すほどの大声が聞こえた。そこには俺を涙目で睨んでいる日向ちゃんがいた。

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