第70話 白熱電球が好き

 わたしが読書をするとき、物思いに浸りたいとき、常にわたしを照らしてくれるのは白熱電球だ。あのフィラメントが熱を帯びで照り出す黄土色の光にわたしの心は落ち着くことができる。合わせたように茶色に古ぼけて紙の文庫本を読むと、洞窟の中にいるような気分なる。わたしは普段いかに蛍光灯の下で暮らしているのかを思い知らされながら、そっとひとりの世界を照らしてくれる白熱電球に感謝する。シックな作りで花びら型の幌の中に電球が入っている調光つきの電気スタンドは、わたしの斜め上につつましく置かれていて、けっしてわたしの邪魔をしないのだ。


 そういう世界のまま眠りに落ちて朝を迎えると一気に現実に引き戻される。すべては夢の世界。夜にだけ存在できるわたしだけの世界。わたしは自分の書斎から起き出して夫のいる寝室に潜り込んで、さも夜からそこにいたようなそぶりをして夫を起こす。夫は知らんぷりをしてくれ、わたしの手を引き寄せながらベッドから起き上がる。


 朝は現。夜は夢。そんな生活にかかせないのが白熱電球なのだ。


(ポエムより)


※うーん。ポエム最高!(*'ω'*)(2024.4.10)

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