第61話 恋愛模様ラノベ仕立て

 側頭部を思いっきりぶん殴られたみたいだ。


 初恋なんてとうの昔に済ませたが、俺は心の中でとんでもない衝撃を感じた。隣のクラスにいる従兄妹の小山おやま詩世うたよ三島みしま燈子とうこと学校の廊下で談笑しているのを見た瞬間、身体が横に仰け反り世界が九十度回転したのかと思うくらいの驚きに襲われたのだ。新学期からしばらく経った、今、この瞬間である。

 

 別に物理的に殴られたわけではない。ただ、と並んで笑いながら廊下を歩いている三島さんを見た瞬間、今まで知っている女性という概念を吹き飛ばされたような気持ちになった。高校生になってそんなガキみたいなことを言って情けないのはわかっているが、かわいいとかきれいだとか、そんなありがちでつまらない言葉では表せないものを感じてしまったのだ。あまりにも尊い、完璧な女の子なのである。


 だから俺は、迷うことなく、その場を去って行くうたの背中を目指してメールを飛ばした。――三島さんを紹介してくれ! と。


  ◇ 


「ヒロさぁ。おまえ、馬鹿じゃないの?」


 帰宅した俺は、メールの返事として何故かうたの部屋で正座している。和室の畳に馬鹿みたいに派手なピンク色のカーペットの敷いた六畳間で、うたは椅子の背もたれに腹をつけた格好でまたがり、俺はその前で説教を受けているのだ。


「あのね。あの子は毎日毎日、男子どもから告白されているような子なのよ? おまえなんか視界にも入らんってば」

「それはわからんぞ。今まで接点がなかったんだ。チャンスはあるかもしれんやん」

「ない。つか、寒いわー。いや、キショい」


 うたは腹を使って背もたれを押したり引いたりしながら、汚いものを見るような、いや、見る目で俺を侮蔑する。そして、校則通りの野暮ったい長さの制服のスカートから小麦色の足を伸ばして俺を蹴りつけた。


「だってさヒロ。そもそも、どうしておまえにチャンスがあると錯覚をした?」

「何その言い方。ひどくね?」

「ないわ。だって、おまえなんかあの子に近づくことすらできんぞ? あたしだって、たまたま話しかけられただけで、あの子は女子でもアンタッチャブルな存在なんだよ? 下手に話すと色々とめんどいんだから」


 うたは右足を俺の目の前に出す。俺は短い紺色の靴下を脱がせる。変態行為ではない。単純に従兄妹しもべとして仕事をさせられているのだ。当然、次は左なわけで、そっと脱がして差し上げる。


「わからんじゃないか。近づくのが無理だとしても、廊下の柱に隠れて遠くから眺めいれば、ワンチャン恋が始まる可能性だってなくはないだろ?」

「え? 馬鹿なの? ないよ?」

「いやいや。俺のピュアな恋心を花粉みたいにあの子に飛ばせることができれば、やがては受粉――」

「うわあ。ヒロ、だめだって。三島さんがに侵されるとか考えるだけで死にたくなるんだけど」


 俺に対してあまりに無防備なうたはスカートを脱ぐ。黒のスパッツを履いているとはいえ、俺に見られることになんの羞恥心もないうたは、部屋着に着替えを済ませていく。


「遠くから無理なら、なんとか紹介だけでもしてくれよ」

「無理。どうしておまえの為にあたしがそんなことを」


 コンタクトを外して裸眼になったからか、うたの目つきは更に睨みつけたような厳しいものになる。


「従兄妹だろ。頼むよ」

「ないわ。従兄妹だろうと、ないわ」

「どうしても?」

「どうしても」


 俺の食い下がりにうたは面倒そうな顔をしてから、防災用でもある自分の自転車ヘルメットを黙ったまま俺に投げつけ、襖を開ながら「こっちへ来い」と目で命令してきた。


 ◇

   

 うたの家は昔からの和風建築で外見は立派であるが、中はそれなりに


(没作より)


※ラノベは情報量を軽くしているのでその分、会話を長く書いていかなければならないという基本的なことを思い出して没に。そもそも、わたしのラノベなんぞに需要はないのであった。(ちなみにうたはヒロの元カノという設定でした)。(2024.4.1)

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