第31話 書込みが足りない
気持ち的に落ち着いたので、寝る前に範としている作家の本を読んでみた。紙が茶色にくすんだ単行本をリクライニング式ベッドで読む。白熱灯の光でさらに茶色に感じたので、「本屋さんで新刊として買ったはずなのに 、そんなに経ったのかしら?」と日付を見てみれば二十年前。ついこの前が年単位になってしまった年齢になってしまったかと悲しくなる。
今の自分に足りないものを探そうと思い、好きな話の冒頭から読んでみたのだが、すぐに発見をしてしまった。表現や背景描写への書込みが足りないのである。それもリアリティを出すための単語が貧弱だと気づかされた。
後に芥川賞作家になる女性作家であるが、この本は初期の作品であり、学生時代に書いた生真面目な小説が収められている。わたしはその生真面目さと気色の悪いくらいのリアルさが気に入ってこの本を「お手本」として小説を書こうと思った。別に小説を書きたいわけではなかった。単純に一次小説を書く仕事を始めることになってしまったので「お手本」を探していた時に、本当にたまたま出会った作家なのである。
それまでは小遣い稼ぎに二次創作のシナリオを書いていただけで、自分で小説を書いて作家をやろうなんて考えてもいなかった。二次創作仲間と書いていたら、一次創作もやる機会を得ただけなのである。
久しぶりに読んだ彼女の作品はどれも生々しく、それでいながら生真面目で未熟な人生感を出していた。まだ学生である。夫婦の愛や世の中の厳しさなど知るはずもないのに、彼女の作品はそれをモノや気持ちに固有名詞をあてることでリアリティを出していた。食べ物だったり編み物だったり、病名だったり。そういった「説得力」は書込みの濃度よって担保される。今のわたしが強化したいのはこれではないかと思った。
下手くそな二次創作上がりとして、「多くのことを読者がお約束事として理解しているという前提で小説を書く」というぬるま湯につかっていた身である。現在かなり偉そうな創作論を書いているので、このあたりは厳に戒めないとと思いながら彼女の作品を読んでいるが、拙作が本当に拙たるを感じて憮然としてしまう夜なのであった。
(雑記より)
※常日頃「下手くそだなあ」と思って書いているのですが、そこそこの年月を書いてきた身でありながら、今もなおデビュー初期の作家にすら足元にも及ばないのを感じて、「やっぱり下手くそだなあ」と深い納得をした夜なのでした。(2024.3.4)
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