ろくにんめ ???

 気が付いたら、真っ白な空間にいた。

 いや、正確には、白を基調とした……部屋?


 目の前には、二十代くらいの女性が座っている。

「あ、こんにちは~。今回はどうしたんですか?」

 真面目そうな見た目とは想像もつかない、軽い口調で、彼女は言った。

「もしかして、ここまで来た時のこと、忘れてます?最近、そういう人多いんですよねぇ。僕も、ちょっと困ってます」

 彼女は、自分のことを「僕」と呼んだ。

「ねぇ、なんで来たんですか?」


「――本当に、わからないんです」

「ふぅん。これまで、いろんな人と会ってきたけど、そんなに忘れてるのは初めてだよ」

 彼女の話によると、なんでも自分のせいにしてしまう人や、気づいたらいじめをしてしまっていた人、ネットでの自分に違和感を持つ人、感情を表に出せない人……そんな人たちが、相談しに来たらしい。

「ああ、そうか。ここがどういう場所か知らないもんね。本来は悩みを相談する場所なんだけど、なんでもいいよ。暇だから遊び相手になって、とかでもいいし」

「はあ……」


 自分には、さっき聞かせてもらった相談しに来た人たちに親近感を持っていた。――というのは、違うか。どっちかというと、既視感。


「わたしは……自分が、怖いんです」

「なるほど、そうなのね」

「なかなか、感情のコントロールが効かない。どれだけ頑張って計画を立てたとしても、それを守れない。何をしても、駄目。そんな自分が、怖いです」

「みんな、そんなもんじゃない?」

「そう思うんです、でも。……『みんな』ってなんなんです?親が言う『みんな』とわたしが言う『みんな』。どっちが正解なんですか、教えてくださいよ!」

「……世の中には、正解がないから幸せになれることだって、あるんだよ」

 彼女は、さっきまで見せていた明るい顔を暗くして、言った。

 わたしは、取り乱してしまった。

「……すみません」

「ああ、いいよいいよ、逆に、いつもの人がおかしいんで。なんでみんなあんなに冷静なんだろう」

 彼女の顔が、また笑顔になった。

 ――その笑顔が、本心からなのか、偽りのものなのか、わからなかった。


「まあ、悩めるうちは悩んだほうがいいよ。悩むことすら許されないくらい忙しくなる時がきっとくるんだから」

 優しい笑顔をわたしに向けて、そう言った。


 一瞬景色がぼやけたかと思うと、わたしは家の中にいた。

 ふと窓から外を見ると、桜の花が咲いていた。




 これで完結です。

 あとがきもあるので、読んでみるといいかもしれません。

 短くて、すみません。

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