ごにんめ 関口幸

 ――今日は、まだ通知が来てない。

 私――関口幸せきぐちさちは、独学で学んだプログラミングを生かして、サイトを作って遊んでいる。

 名前は、「死にたがりな君へ」。

 本当は、人と相談する目的で作ったんじゃない。……ただ、みんなの悩みを知りたかっただけ。

 一人目の斎藤真希は、自分のせいにしてしまうことが安らぎであり、苦痛でもあった。

 二人目の宮岡悠也は、親友といつの間にかいじめをしてしまっているかもしれないという不安に駆られていた。

 三人目の中本千鶴は、ネットでの自分に対して、本当の自分とは何か、違和感を持っていた。

 四人目の井上正昭は、自分の感情を表に出せないことに、苛立ちを感じていた。


 本当は、こういうのって資格みたいなのが必要なのかな。よくわからない。

 でも、みんな、幸せそうにこのサイトを離れていった。もっとも、画面越しだからよくわからないけど。

 私は、サブリミナル効果を使って、このサイトを使った人に催眠術をかけた。

 そうして、ここで相談したことは、忘れてもらった。

 ほとんどの人は、「自分にこんなこと、必要ない」「自分は、こんな人じゃない」と、相談窓口を使うことに対して抵抗感を持っていた。

 その記憶があったら、彼らは今でも「こんなことをしてしまった自分が恥ずかしい」と自己嫌悪に陥っていたんだと思う。

 人の悩みを聞かせてもらっている以上、本人に不利益になるようなことはしたくない。


 私は、小学校高学年のころから相談窓口を使っていた。

 今思えば、ものすごくどうでもいい悩みだった。

 でも、その時は安らぎを感じていた……の、だと思う。

 相談員は無理にポジティブな方向へもっていこうとする。私が求めていた返答とは違う答え。口を開けばきれいごと、きれいごと、きれいごと……。逆に、すごいと思った。

 私は、将来スクールカウンセラーや精神科医になりたかった。今は、その夢は潰えてごく普通の会社員だが、誰かの気持ちを軽くしたかった。私の悩みも治っていくと思った。そして、幼いころの嫌な経験をほかの誰にもさせたくなかった。


 正直、女性の相談員にはコンプレックスを持っていた。私のことをいつまでも子ども扱いして、腹が立った。

 男性の相談員も、あまり好きではなかったが、女性よりはましだった。

 当時は電話の相談窓口しかなかったので、余計に違いが分かった。


 そして、自分は男性として相談に乗ることにした。

 男性でいるということは、そこまで苦痛でもなかった。

 一人称を変えて、自分のありのままを出すだけでよかった。


 相談に乗っているうちに、自分の心も、落ち着いたように感じた。

 社会人になってまだ2年目で、ピリピリしていたのかもしれないが、その張り詰めた気持ちが、氷にお湯を注ぐように溶けてなくなった。


 ――私は、もう、大丈夫。


 今まで、「大丈夫」という言葉が大嫌いだった。

 なのに、今は自分に対して言えるようになった。


 ――やっと、安心できたね。

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