よにんめ 井上正昭

「マサはさあ、進路とか決めてんの?」

「あー、まだだわ」

 俺には、友達がいる。

 家族もいる。

 彼女もいる。

 毎日、幸せ。

 いわゆる、リア充ってやつだ。

「てかお前は決まってんの?」

「ま、まだ……」

 中学3年生の春。

 そろそろ、受験について考えていかないといけない時期だ。

「てかさ、まだ受験までめっちゃあんのにもう決めろって言うほうがおかしくね?」

「まーね」


「ちょっとぉ、夕紀ゆうきになんかしたの誰よ!泣いてるんだけど!」

 萩本はぎもと夕紀は、クラスの中でも大人しい女子だ。

 でも、時々いじめられたりして泣くときもある。

 ――いいなあ。

 そんな気持ちを振り払うように、頭をぶんぶんと振る。

「マサ、どうした?急に」

「ああ、何でもないよ」

 ――どうして、そんなこと思ったんだろう?

「……あのさあ、さっさと名乗り出なさいよ!新学期始まったばっかなのに!」

 いまだに沙希さきが怒っている。

 少し、面倒だと思った。


 放課後、家でスマホをいじる。

 特に何の用事もないが、帰ったらスマホをとることが癖になっている。

「……『死にたがりな君へ』、って……」

 いつ開いたのか身に覚えのないサイトに戸惑う。

「まあ、今の俺にはこういうことが必要だって教えてくれたのかな」

 一人で無理やり納得する。

[こんにちは。気づいたらこのサイトに来ていたので何を相談すればいいのかまだ分からないのですが、よろしくお願いします。]

 とりあえず、今の状況をありのままに伝えた。

[あー、多いんですよね、そういう人。でも大丈夫!僕にはどんなにふざけたことでも言っていいのだよー!…だって、僕自身がそもそもふざけてるんだからさ。なーんてねー!]

 まるで友達のような喋り方にびっくりする。

 どれだけ考えても、自分の悩みは見つからなかったので、仕方なく次の文章を打つ。

[考えても、よくわからなくて。でも、今日、違和感を感じたんです。]

[へぇーっ、と、言うと?]

 夕紀が泣いて、沙希が怒ってた時……。俺は、羨ましいと思った。

 ――あれは、何だったんだ?

[同級生が泣いてて、怒った人がいたんです。それを見て、羨ましいと思ったんです。]

[あ、それ、僕もあったなあ。]

 意外とすぐに返事が来た。

 この経験は、誰にでもあることなのだろうか?

[えっとね、それは、感情をあらわにできることが羨ましいって思ったんだろうね。多分、君っていわゆる…陽キャ?リア充?まあ、クラスの中心的存在なんだろうね。明るくて、優しいっていうキャラのせいで、泣いたり怒ったりできないんだと思うんだ。]

 今まで、そんなこと思ったことなかった。

 でも、妙に納得できた。

 ――このキャラでいるのが、ずっと、つらかったのかな

[でも、そのキャラで過ごしていると居心地がいいってときもあると思う。…残念なことに、両立できないのが人間だけど。]

 そりゃあ、クラスの中心の自分が、急に泣いたとしたら、自分で言うのもなんだけど、不安定になるだろう。

[難しいと思うんですけど、それが解決する方法ってないんですか?]

[うーん、人の悩みって、解決するしないじゃないんだよ。悩みが大きくなるか小さくなるか。悩みは、絶対に消えてなくならない。…それで、本題なんだけど…。僕には、難しい問題かな。でも、こういう風に話せる場を作るといいよ。難しかったら、ネットでいい。できるときは、自分の幸せを最優先したほうがいい。]

 ――俺は、人に聞いてもらいたかったのかな。そうじゃなかったとしたら、この爽快感は説明できない。

[本当に、ありがとうございました。参考になりました。]

[うん。うまく行くといいね]


 おかげで、その時からは本当に リアルに充実した 毎日だった。

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