さんにんめ 中本千鶴
私の居場所は、ネット。
友達は、ほぼ、いない。
高校生になって、仲良しだった美帆ちゃんは、私と別の学校へ行った。
美帆ちゃんは、何の取り柄もない私にいつも話しかけてくれた。
学校だって、本当は休みたかった。でも、休むほどの勇気がないし、休んだら親にしつこく心配される。それは、嫌だし。
そんな、私にとって大切な存在である美帆ちゃんと、お別れした。
高校受験の勉強は、頑張った。美帆ちゃんのいない高校なんて、嫌だった。でも、美帆ちゃんのレベルには、追いつけなかった。
それに、高校に行かなかったら、私の存在意義がなくなる。ただでさえ同級生にも認められてないのに、中卒だなんて、世間から忌み嫌われる。
高校生になって、2か月が経つ。
今は、まだ我慢できている。
逆に言うと、我慢しなければならない状況になっている。
特に嫌な出来事はなかった。でも、学校に行くのが億劫に感じる。
ネットでの私は……。
私のすべてをさらけ出すことができる。ネットには、たくさん仲間がいる。ネット上のみんなは、私を認めてくれる。
ネットの世界が好きになって、気づいた。
――人って、どうせ外見で決めるようなやつだ。
ネットでは、他人の顔はわからない。みんな、優しい。
現実世界とネットの違いは、個人情報がわからないということ。だから、みんなに優しくできる。優しくされる。
現実では地味な私が、ネットでは輝ける。
ネットでは、私はYoutuberだ。
「ちづれあさん、めっちゃかわいかった!」
「ちづれあは神」
「まじ共感するわ…」
そんな投稿があると、認められてるって実感する。
ちなみに、「ちづれあ」というのは、私のネット上での名前だ。
私は、「病んでる」Youtuberとして活動している。
日々、リスナーと雑談配信などをしている。
「死にたい」「私なんてさ」なんて言葉は、配信で何回も口にしてきた。
それが、私の生き方。
私は、いつものように相談窓口を検索していた。
画面をスクロールしていると、今までなかったサイトに気づいた。
――「死にたがりな君へ」……。
名前に惹かれ、私はそのサイトを開いた。
[初めまして。いつも、このようなサイトで相談しているのですが、初めて見たサイトだったので、気になりました。よろしくお願いします。]
[こんにちは~。えーっと、何を相談しに来たのですか?なんでもいいですよー。今日の夕飯の献立とかね。…冗談ですよ。]
最後の一文がちょっと気になったが、続きの文章を打つ。
――私は……私は、ずっと【このこと】で悩んでいたのかもしれない。どれだけ気持ちを吐き出しても、今までスッキリしなかったから。
このポジティブな相談員なら、笑って受け止めてくれる……。そう思った。
[私、ネットで、散々病んでるアピールしてて。私の本音が言えるネットが、ずっと、好きだと思ってました。いや、今も好きです。でも、本音は言えてなかったのかもしれません。私は、そんな性格になりきってる自分に酔ってて…。しかも、みんなが反応してくれるし。…結局、私は、承認要求を満たしたかったんでしょうね。【病んでる】ということが、かっこいいとでも思ってたんでしょう。本当につらい状況で私の動画を見てくれる人を裏切ったみたいで、すごく申し訳ない。もう、こんな自分、嫌です。]
私は、本当はそんなに悩んでなかったんだって、誰でもわかること。
……こんなこと、やめてしまいたいのに……。でも、悩んでるときは、誰かと一緒に、ネットのみんなと一緒に、話したいんだ。
[えっ?えーと、動画…って、なにか投稿してる人なんですか?えー、有名人?え、誰なんですか?あなた。]
あ、言ってなかったのか。
[Youtubeで【ちづれあ】という名前で活動してます。…ちょっと、恥ずかしいんですがね。]
いざ、目の前――現実世界じゃないし、目の前と言っていいものか疑わしいが――で聞かれると、恥ずかしい。
[恥ずかしい…?いま、そう言いましたよね?それだ!それですよ!]
[説明していただけませんか?]
唐突な相談員のひらめきに、あたふたする。
[えーっとね、もし親に見せたとしても、恥ずかしくない投稿をすればいいんですよ!恥ずかしくないレベルなら、別にアピールしてもいいじゃないですか。というか、それはアピールというんですかね?ははは]
よく考えたら、私の配信はとても親に見せられるようなものではない。
まじめで地味なわが子が、ネットでそんなことをしているなんて信じられないだろう。
[とても、参考になりました。ありがとうございました。]
[そうかそうか。僕も見てみるね、動画!]
やめてくださいというメッセージを送ろうとしたが、気づいたらさっきまで使っていたパソコンは、デスクトップ画面に戻っていた。
「今度の配信、なにしよっかな」
軽い口調でそう口にすると、自然と心が晴れ渡っていくような気分になった。
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