ふたりめ 宮岡悠也
「悠也ぁ、こいつまじでウケるんすけどww」
幼馴染の春樹が言う。
春樹とは、小学生の時から仲がいい。よく一緒になって先生にいたずらを仕掛けたりしていた。
「お前、またトミカかよ」
トミカというのは、同じクラスの富岡浩太のことだ。
ほぼ毎日といっていいほど、トミカは春樹にいじられている。
「トミカって誰のことですか?」
「お前さ、いつになったら理解できんだよ。お前のことだって」
「へぇ。そうだったんですね」
トミカは、天然だ。だから春樹に気に入られているのだろうか。
――いや、あれは、気に入られている、とは言えないのかもしれない。
春樹は、時々やりすぎてしまうときがある。
一昨日は、トミカのことを蹴っていた。
本人によれば、「いつものやつがエスカレートした」らしい。素直に反省はしていた。
「あれ、トミカ、筆箱どこにいったんだろうね?」
「あれー、ほんとだ。どこに……って、春樹さん、持ってるじゃないですか!返してくださいよ!」
「やーだよーん」
これくらいは日常茶飯事だ。気にすることはない。
しかし、前はそのまま窓から落としたりしていた。
「ふん!もうとらないでくださいね!……ちょ、悠也さんまで!もーう!」
俺も春樹の「遊び」に参加することがある。確かに、春樹がやりすぎな時は引くけど、楽しいから。
「へいへーい、落としちゃうよーん」
「うわあ、ほ、本当にやめてください!」
「はいはい。冗談って気づかない?」
「気づきませんでした……」
トミカは、結構鈍感だ。
そして、筆箱をトミカに渡す。
ホッとしたように筆箱を眺めている。
この日常を、楽しんでいる。
居心地がいい。
――そう、思っていた。なのに。
放課後、気づけばスマホを持っていた。
画面に、「死にたがりな君へ」と表示されている。
「なんで……?いつ、操作したっけな」
しかし、このまま放置するのも相談員の方に失礼だと思い、コメントを送った。
[はじめまして。特に困ってることはないです。さようなら。]
――いきなり来て、さようならっていうのも失礼だよな。
そう思ったが、返事が来るまで待つ。
[またまたー。嘘はだめですよ。悩みもないのにここに来るわけがないじゃないですか。]
――何この人。え、急にタメ口?俺ですら敬語使ったのに。
悩みは、一つも思い当たることはなかった。……と、思っていた。
気づいたら、指が勝手に次の文章を打っていた。
[友達と一緒に、ある同級生をいじっているんです。でもなんだか、いじめているようで気分が悪いです。]
いじめている、と思ったことは一回もない、はずだったのに。
もう、すべてさらけ出してもいいような気がした。
[なるほどですね。はぁ~、僕もそんな時期あったなあ。でもいいね、若いって。……話がそれた。えーっと、いじめ……だと、思うんなら、やめときな。楽しいんなら、方法を変えるだけでもいいんだし。]
――春樹と一緒にいるのは楽しい。でも……トミカつながりの時は、心から楽しいって思えない。楽しいと、思い込んでいたんだ。
[今、気づきました。心から、楽しいって思えてない。……でも、その友達と一緒にいるときは、楽しいんです。]
[ふーん。じゃ、その時だけ一緒にいたら?別にさ、ずっと一緒にいないといけない決まりなんてないじゃん。え、ストーカー?ww]
――え、相談してる途中に「w」とか使う?……でも、まあ、この人とずっと話していたくなる。
[また、このサイトで話したいです。できれば、あなたと。相談に乗ってくれませんか?]
相談、なんて関係なく、この人と話していたいと思った。
[うーん、それは無理かな。理由は話せないんだけどね。トップシークレットだよ。]
最後に意味不明の言葉を残して、スマホのホーム画面に戻った。
――でも、なんで操作してないのに戻ったんだ?
そう思ったが、相談したおかげか夜は気持ちよく眠ることができた。
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