第12話 うわさと、射弦の嫉妬心
美玖と二人教室に入って、なんとなくそのままの流れで互いに自分の席に着いた。途端。
「ねぇねぇ、射弦くん!! 桜庭さんと付き合うの!?」
俺の席の周りを数人の女子が囲んできて、さっき美玖に聞かれたことと同じことを聞いてきた。女子って噂好きなんだなーと思ったけど、俺が桜庭からのケーキを美玖のだと思って持って帰ってしまったがために、あらぬ噂が広まっているのは美玖にも桜庭にも悪い気がした。
「え? いや? 俺、他に彼女いるし」
だからそう言ったのだけど。
「え? 射弦くん……彼女、いたの? いつから?」
女子たちは鳩が豆鉄砲を食ったような顔して聞いてきた。
「あぁ、今日から」
「ええええええええ!? 今日?? 誰!? この学校の人?」
「うん。美玖。やっと両想いになれた」
「ええええええええ!? 美玖? しかもやっとって……射弦くんから告ったってこと!?」
「うん」
「うわぁー美玖いいなぁ。でもやっぱりイケメンは可愛い子とくっつくのがこの世の
女子たちがそう言った時、ちょうど予鈴が鳴って、女子たちはそれぞれの席へと帰って行った。
その様子をなんとなく目で追いながら、俺は別に美玖の見た目に惚れたわけじゃないのになぁと思いつつ美玖の方を見てみれば、美玖も赤い顔しながらこっちを見てて、口の形だけで『ば・か』と言って呆れつつも笑ってたから、俺も自然と頬がにやついた。
あぁ、美玖は俺の彼女なんだ。やっと付き合えたんだと思うと、昨日ガチへこみした反動もあって口元がにやついて仕方がない。
俺は美玖が彼女になった喜びに有頂天になっていた。
◇◆
あっという間に放課後になって、部活に向かってる途中で丁度美玖と一緒になった。
「おー美玖」
「あっ! 射弦ー! もぉー射弦のせいで朝からいろんな子に『射弦くんと付き合い始めたの?』 って聞かれて大変なんだけど!」
声を掛けてみれば、本当は全然怒ってなんていないのに怒ってる風の言い方をわざとしてみたような言い方で、美玖はそんな事を言って来る。
「え、マジか。ごめん? 朝、俺の席まで来てた女子3人くらいにしか言ってないのにな?」
だから俺も軽く謝るような感じで答えてみれば。
「女子3人に言えばもう十分だよ。女子は噂が好きだからねー。でもさ? みんなに『高知先輩に次いで、またまたハイスペックイケメン捕まえたね!』とか言われてさ? 私は別に高知先輩も射弦もハイスペックだとかイケメンとか、そんなので付き合ったわけじゃないのにって思っちゃう!!」
美玖はさっきよりも少しぷんぷんとしていて。そんな美玖も可愛いと思うけど、俺の前に高知先輩と付き合っていたんだと改めて思って少し嫉妬した。
ハイスペック……といえば、俺より高知先輩の方がよほどスペック高いわけで。
そんな高知先輩と付き合ってたのに、今朝美玖から聞いた話だと、別れた理由が『俺のことがまだ好きだったから』らしくて。
途端に気になってきた。美玖は俺のどこが好きなんだろう。高知先輩より俺のどこがよかったんだろう。
だから美玖に聞いてみた。
「なぁ、美玖? 美玖は俺のどこが好きなの?」
そしたら美玖は――
「え? どしたの、急に」
きょとんとしてて。
「いいから!」
それでも答えを迫ってみれば。
「そうだなぁ。――バカだから、かな。射弦のバカなところが好き」
ふふっと微笑みながら俺の目を見て言ってきて。
「……え? それ、褒めてなくね?」
思わずそんな言葉が出た。
「えー褒めて欲しかったの? 私にとっては褒め言葉なんだけどな。でも……そうだなー。優しいとことか、面白いところとか、一緒にいて安心するところとか、いっぱい、大好きだよ?」
そして意外にも美玖は、さらりとそんな事を言い出して。自分で聞いたのに少し照れてしまった。すると今度は美玖の方から――
「じゃぁ、射弦は? 射弦は私のどこが好き?」
上目遣いで聞いてくる美玖のその顔があまりにも可愛くて。う、わ、好き。確かにそう思うのに、いざ答えるとなるとどこが、というのが出てこなくて。
「……全部。美玖の全部が好きだよ」
そう答えれば。
「……それじゃどこか分かんないじゃん。……バカ」
そう言ってまた少し膨れっ面をしてみせた。
「ぜ、全部は全部なんだから仕方ないじゃん!」
その気持ちに
「んー。じゃぁ、そのうち。私の『こーゆーとこが好き』って言ってもらえるように頑張るから、いいよーだ。じゃぁ、私、先に行くねー? また後で!」
そう言って美玖は、体育館へと走って行ってしまった。
“美玖の好きなところ、かぁ” ぼんやりと考えながら着替えを済ませて俺も体育館に着くと、美玖が何人かと楽しそうに話している姿が見えた。
その姿は遠目から見ても分かるくらい、嬉しそうに頬を赤らめていて、まるで誰かに恋してるかのような女の顔で。照れたり、怒ったり、笑ったり、可愛くて。
そんな表情を向けている輪の中心に――
途端に俺の中に、不安や嫉妬心が沸き起こって来る。
え? なに? 美玖は俺の彼女になったのに、なんで先輩にあんな顔してるんだよ。あれじゃまるで先輩のことがまだ好きみたいじゃないか! まさかまだ、二人は繋がって?? いや、そんなはず……
もやもやとした気持ちが抑えられなくなってきて、俺は美玖の名前を呼んだ。
「美玖! ちょっと来て!」
「え? あ、射弦? 遅かったねー!」
俺に呼ばれた美玖は悪ぶれる様子もなく、にこやかに俺の元に走ってきて。
「どしたの?」
なんて言いながら首を傾げている。
けど、俺の中の嫉妬心は収まらなくて。
美玖の手首を掴んで体育館裏まで連れ出した。
「え、え、射弦? どしたの?」
美玖は相変わらずきょとんとしていたけど、俺は人気のない体育館裏に着くなり美玖の手首をグイッと引き寄せて抱き締めた。そして、美玖の耳元で話掛けた。
「なぁ、今、高知先輩と何話してたの?」
「え? ちょ、きゅ、急に抱き締めたら……なんか……恥ずかしい! んだけど……!!」
美玖は真っ赤になってる気がしたけど、そんな美玖に構う余裕は俺にはなくて。
「いいから。何話してたの?」
両腕でぎゅっと美玖を抱き締めたまま聞いてみれば。
「あ……『射弦と付き合いはじめたんだってなー』って声掛けられたから、『そうなんですー』って言ったら『よかったな。やっとくっついたか!』って……ちょっと茶化されたりしてた。2年の先輩たちにまで噂が回ってたみたい。なんか、射弦と付き合えたの実感して嬉しくなりつつ……ちょっと、照れくさくなっちゃった」
美玖は照れながらそんな返事をして。
一気に俺の中の嫉妬心が安堵のため息となって吐き出された。
「なんだよ、もぉ……」
そしてそれと同時に恥ずかしくなる。俺はたぶんまだ、高知先輩に負けてるような気分でいるんだ。バスケでは勝てないから。身長も、部での地位も、高知先輩の方が上だから。美玖と先に付き合ったのも高知先輩だったから。そして高知先輩は、まだまだ……何もかも余裕そうに見えるから――。
「ね、どしたの? ……ちょっと、恥ずかしい、と、いうか、……照れちゃうんだけど」
俺に抱き締められたままの美玖は、抵抗はしないものの恥ずかしそうに顔を赤らめたままで。
「……美玖は、俺の彼女だよな? 俺の事、好き、だよな?」
「え? もちろんだよ? ……大好き、だよ?」
けれど俺が欲しい言葉だけはちゃんとまっすぐな言葉で伝えてくれるから、グッとくる。
「……うん。なら、いいんだ……。ごめん、高知先輩と楽しそうに話してたから、嫉妬した」
「え? もぉ。何も心配することないのに。……バカ。私が好きなのは、射弦だけだよ」
美玖の言葉に安心する。そして、美玖とはゆっくり恋人らしくなっていこうと思っていたのに、子供っぽい自分に恥ずかしくなる。
俺は――もう、絶対美玖を手放したくないんだと自覚した。
――――――――――――――――――――――
ここまで読んでくださりありがとうございます。
あと数話で完結の予定です……!
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