♢23ー《意外と脳筋》ー23♢
「エデンが………なるほどねぇ」
私達は結局、ミリアンヌさんにも全部を話してしまった。
ラウルが怒りそう……
「ったく、そんな事態になってるならさっさと未来に行っておやりよ。ええ? この英雄様?」
「その呼び方はやめてください。……先程も言った通り、私はマリーの晴れ舞台を見る前に未来へはいけません。もしかしたらそれが最後の別れになるのかもしれないのですから」
ミリアンヌさんは口をすぼめるが、それ以上はなにも言わなかった。
「まあ、確かにこれは誰にも言わない方がいいだろう。ただでさえ禁忌を犯しているんだ。これ以上は裁決人が動くかもしれないよ」
「裁決人?」
また新しい単語が出てきた。
「裁決人ってのは、総帥直々に任命された特別なお方さ。場合によっては全ての権限を持つことができ、天月がその力を使って自分の欲がまま好き放題した時に、その方は裁きに来るんだ」
なるほど。裁判官みたいなものかな?
けど、場合によっては全ての権限を持てるってすごいな……
「ただそのお方の本分はあくまでも裁決だからねえ。あまりにも大きい力を持っておられるが、それを悪魔に使ったことはない。堕天使は別だがね」
堕天使……サタンのことかな?
「我々は序列三位なのでしょう? 逆にこちらが命令を下せることもあるのでは?」
アレクさんがそう聞くと、ミリアンヌさんは顰めっ面をしてため息をついた。
「だから言っただろう? 裁決人は場合によってはエデンの上層部を裁けるような権限を持っているんだ。序列三位だろうが一位だろうが総帥以外は等しく裁かれるんだよ」
総帥は裁かれないんだ。まあ自分が任命した人に裁かれるのはあれだしね。
あれ? というか、それなら私達って結構まずいんじゃ? バリバリ過去を変えてるし、裁かれる要素しかないと思うんだけど。
「まあ今回はエデンの危機らしいからね。過去に遡ったのもわざとじゃないらしいし、裁決人も大目に見てくれるだろう」
だといいんだけどなあ。もしもこれで帰って、裁決人? っていう人がいたらすごく嫌なんだけど。
「裁決人は天界やエデンとの契約を破った場合にも裁決をしに来る。せいぜい気をつけな」
「頭の隅に留めておきましょう」
「………あんたが裁決されたって聞いたら大爆笑してやるよ」
そんな会話をしながら私達は歩いていく。
すると、ミリアンヌさんが立ち止まった。
「ここが最後の家だ。ったく、依頼があった家は全部ヘンリーが持っていっちまったからね。結局2軒しか見つからなかったよ」
なるほど。つまり、ヘンリーさんのおかげで私達は怖い思いをせずにすんでいるのか。後で感謝しておかないと。
……にしても
「随分と大きな屋敷ですね」
アレクさんがそう言う。ミリアンヌさんは家と言ったけど、これはどう見ても豪邸。屋敷だ。アレクさんの屋敷も結構大きかったけれど、この屋敷はそんなアレクさんの屋敷よりも大きかった。
「ここは昔、とある大貴族が住んでいたという屋敷でね。取り壊す費用もないようでずっと放置されていたんだが、最近ここに立ち入った人が帰らないという噂があるんだ」
え、でもこの屋敷には……
「黒いモヤが見えませんね」
アレクさんが私も思っていたことを言ってくれる。
さっき私達が行った家よりもこの屋敷の方が遥かになにか憑いていそうなのに、目に力を集中させてもこの屋敷からはなにも感じ取れなかった。
「気づかないだろう。私も、中に入るまでは気づかなかった。これは大物が当たっているぞ」
ミリアンヌさんはニシニシと笑う。
その形相はまさしく悪魔だった。
「恐らくこの屋敷には上級悪魔がいる。それも1体かは分からなく、もしかしたら3……いや4体いるかもね」
怖がらせるように、楽しむようにミリアンヌさんは笑う。
昔はあんな純情そうなシスターだったのに、ほんとなんでこんな風になっちゃったんだろう。
「くよくよしていてもしょうがない。早く行ってきな」
そう言って背を押される。
これにはアレクさんも目を点にした。
「ついてきてはくれないのですか?」
上級悪魔が複数体いるかもしれないのに、まだ力を習ったばかりの私達を投入するはずがない。さすがにたちの悪い冗談だろう。
「ダイナモ使いが2人もいるんだ。むしろ過剰戦力だろう。それともなんだい、まだママのおっぱいが欲しいのかい?」
「結構です。あなたの縮んだ……いや、元々もあまりありませんでしたね。のおっぱいだなんて、おいしくもない――」
バゴッ
アレクさんの頭にゴミ箱の蓋が飛んできた。
「ほんと、紳士なのは見た目だけだね。ほらさっさと行っちまいな。嬢ちゃん、なにかあったらそいつを盾にしなね」
ははは、と笑って中に入っていくと、後ろから頭を抑えたアレクさんが来た。
中に入ったらまず大きなホールのようなものがあって、そこから左右に廊下、そして前には上の階に上がる階段があった。
「アレクさんのお屋敷と似ていますね」
「屋敷なんて皆こんなもんですよ。顧客の満足を得られるかどうかも分からない新しいデザインを考えるよりも、誰もが想像するテンプレートな屋敷を量産したほうがいいでしょう」
考え方がどこまでも商人だなあ。私からしたら、皆が持っているものよりも、少しだけ違う方がいいと思うけどな。なんかそっちの方が特別感を感じられる。
まあ、お屋敷に特別感もなにもないんだけどね。そもそも持てる人がごく一握りだし。
「それにしても、どこに悪魔がいるんでしょうね」
私は不安になりながらそう言う。
電気なんてついていない上、光は僅かな太陽の光だけなのでまるでお化け屋敷みたいだった。
「いきなり飛び出してきそうですね。あ、そういえば」
アレクさんはなにかひらめいたように手を叩く。
「エミリーはこの前、私の屋敷を力で包みましたよね」
「は、はい。それがどうかしたんですか?」
もしかして窓が割れていたとか………
そんな心配をするが、どうやら違うみたいだった。
「あの力でこの屋敷を包めませんかね? そうしたら、悪魔の場所も分かると思うのですが」
あッ! その手があったか!
思わず私も手を叩いてしまう。
アレクさんはニコッと笑ったあと、長い廊下に向けて指を突き刺した。
「行きましょうエミリーっ! あなたの力なら、一瞬でこの魔宮を攻略できるッ!」
「はいッ! やってみます!」
なんで今まで気づかなかったんだろう。怖くて動きたくなかったら、力で手当たり次第探しちゃえばいいんだった!(脳筋)
私はウキウキとして、目を瞑って力を全力で放出する。
辺りがキラキラと輝いていき、私の力が広がっていくのが感じられる。
「おお、何度見ても素晴らしいですね」
アレクさんがそう褒めてくれる。
正直私の力っていう自覚がまだないからあれだけど、なんだか嬉しかった。
力で屋敷を包み終える。
その広い屋敷の構造が鮮明に分かった。
「なにかいますか?」
アレクさんがそう聞いてくる。
うーん、なにか……あッ! いたッ!
屋敷の左側になにかいる。
腕を前に突き出して、そこだけを握り潰すようにギュッと手を握る。
バキバキバギィッ!
「ッ!? え、エミリー!?」
アレクさんがなにか言っているけど、今はそれどころじゃない。
くっ、こいつ速いな。
猛スピードで移動しているのが分かる。
こっちに近づいて来てる……? 早く仕留めないと!
えいっ! ふんっ! この!
バキバキバギャッ! バッガアアアン! バキメキギギギッ!
「え、エミリーッ! いったん、いったんストップッ!」
くッ! なんて速いの!? これじゃここまで来ちゃう! こうなったら………
私は目を開いて、悪魔が近づいてきてるであろう屋敷の左側を見る。
そして、両手を前に出した。
「えっい!」
すると、目の前の廊下が全て潰れた。
巨大な音を立てて、まるで巨人に押し潰されたかのようにぺっちゃんこになる。
あの悪魔は……やった! いなくなった!
悪魔の気配は消えており、完全に消滅したのが分かる。
「やったッ! やりましたよアレクさん!」
笑顔でそう言うが、アレクさんはなぜか苦笑いだ。
「え、ええ、そうですね。これで悪魔は滅ぼせました……」
少しだけ引かれている気がする。なんで? アレクさんだって木を折っていたし、これくらいできると思うんだけどな。
そんなことを思っていると、屋敷のドアがバンッと勢いよく開かれた。
「あ、あんた達なにをやってんだいッ!?」
ミリアンヌさんがそう怒鳴りながら入ってくる。
バキッ
「あっ」
ちょうどそのタイミングで、屋敷の天井が落ちてきた。
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