第1話 4
落ちてくる瓦礫を目の当たりにしたわたしは、ただ悲鳴をあげて、うずくまる事しかできなかった。
その瞬間――硝子の割れるような音と共に、激しい突風が吹いた。
わたしはその勢いに抗えずに地面を転がされて――直後に、それまでわたしがいた場所に大きな瓦礫が突き刺さって、地面に倒れ込んだわたしの身体に細かい破片が降り注ぐ。
「――ふえっ!? ふえぇぇ……」
悲鳴が勝手に溢れて、視界が涙で滲む。
そうしている間にも、巨大な機械熊の目の前には、熊と同じくらいの大きな虹色の光球が現れて――その中になにか大きな影が像を結んでいく。
光球がゆっくりと萎んでいき、影が実体となって出現する。
それは大きな……とても大きな、つぎはぎだらけのぺんぎんさんだった。
機械熊が警戒したように後に飛び退き、四足で立って唸り声をあげた。
対するぺんぎんさんは右手を胸の高さまで挙げて。
途端、まるで本のページのように――世界がめくれ上がる……そうとしか表現できない光景が目の前で起こった。
ぺんぎんさんを中心にして、地面に突き刺さった瓦礫どころか、校舎も、校庭の向こうに広がっていた燃え盛る街並みも、すべてが消え去って、ほのかに虹色に光る壁のようなものが空高く伸び上がってドームみたいになってる。
まるでぺんぎんさんと機械熊、そしてわたしだけが世界から切り取られたみたい。
「……すごくおっきいけど、これって結界?」
通ってる道場で、先生が見せてくれた事がある。
外界からの干渉を遮断する防性魔術のひとつ。
喚器代わりのスマホだと、自分ひとりを覆うのが精一杯らしいけど、軍の人とかが使う上位喚器――
この結界はきっと、街を守る為にぺんぎんさんが喚起したんだと思う。
「……ぺんぎんさんは味方?」
そうしている間にも、機械熊は赤い目を光らせて、今にもぺんぎんさんに飛びかかろうと身体を低く沈めた。
瞬間、ぺんぎんさんの身体がまるで弾かれたみたいに震えて。
「――えっ!?」
機械熊に背中を向けて、ぺんぎんさんは一目散に逃げ出した。
「ええぇぇっ!?
――ぺんぎんさん、あぶないっ!!」
それを追いかけた機械熊がぺんぎんさんに飛びかかって、激しい激突音が響き渡り、散った火花が周囲をオレンジ色に染め上げる。
駆け抜けた衝撃にわたしは思わずうずくまり、轟音に耳を抑えた。
「わ、うわわあぁぁ――」
背中から体当たりを受けたぺんぎんさんは、一瞬、宙を泳いで地面に叩きつけられ、そのまま滑るようにこっちに倒れ込んで来た。
虹色の地面が地震みたいに揺れる中、ぺんぎんさんの大きな眉だけの顔が目の前で止まる。
――途端。
「ふえっ!?」
首から下げたペンダントが青く輝きだし、まるでそれに応じたみたいに、ぺんぎんさんの顔に歌舞伎の
『……見つけた……』
目の前から聞こえてきたそれは、アニメに出てくる男の人みたいな、すごくカッコいい声で。
まるでわたしを驚かせないように気遣ってくれてるみたいに、ぺんぎんさんはゆっくりとその巨体を起こして。
「ガアアアァァァァァァ――――ッ!!」
まるでそれを見計らっていたように、機械熊がぺんぎんさんに飛びかかった。
――けれど。
『――うるさいっ!!』
ぺんぎんさんはまるで虫でも追い払うみたいに右手を振るって。
「――ガァッ!?」
激しい衝撃音が辺りに響き、まるで雨のように火花が降り注いだけれど、わたしの周囲にはいつの間にか薄い膜のような結界が張られて守られていた。
殴りつけられた機械熊が虹色の地面を転がって滑っていく。
そして、ぺんぎんさんは機械熊を殴った右手を、すごく優しくゆっくりとした動作でわたしの前に差し出して。
『――お嬢さん、僕の魔咆少女になってよ!』
ぺんぎんさんはちょっとだけ上ずった、震える声でそう言うと、指のない手でそっとわたしを掴み上げて、自分の首元へと運んだ。
お父さんがよく見てるロボットアニメのコクピットハッチみたいに、ぺんぎんさんの首の付け根が左右に、そしてその内側が上下に開いて、わたしを誘うように足場がせり出してきた。
「……の、乗れって事?」
足場に両足を下ろすと、ハッチの向こうが見えた。
直径二メートルくらいのドーム状の空間。
そこに巫女さんみたいな衣装のお姉さんがひとり、まるで投げ出されたみたいに尻餅突いたみたいな体勢で座っていて。
「――ちょっと! ジャンカー! なにしてんのよ!?」
お姉さんは慌てたような声で、天井に向かって怒鳴りつけていた。
「……ここ、ぺんぎんさんの中?」
でも、お姉さん以外に誰も見当たらない。
わたしに声をかけてくれた男の人はどこだろう?
そうしてる間にもハッチが閉じられて。
『そう! 僕はジャンカー! 君の名前は?』
と、ドームに響く、あの男の人の声。
ひょっとして誰かが中から声をかけて来たんじゃなく、ぺんぎんさん自身の声だったって事?
「……か、
戸惑いながらもそう応えると、ジャンカーと名乗った男の人は嬉しそうな声で続ける。
『じゃあ、まなたん。もう一度言うよ?
僕の魔咆少女になって、一緒に戦って欲しい!』
「……え? え? 魔法少女?」
それってアニメなんかでよくある感じの?
わたしは戸惑いながら、ジャンカーに訊き返した。
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