第1話 3
転送を終えたあたしは、結界魔術を喚起する。
世界が虹色の界面に隔てられ、あたし達と敵性目標を残して消失した。
『――ジャンカー、空間掌握完了。<
アヤ姉が告げる。
騎体を
シミュレーション訓練では可能だとわかっていたけれど、実際にやってみると、戦騎が
あたしが単独で――実家に伝わる
『敵性目標照合――躯体は熊型機獣と一致。
――ただし、波動パターンは『狂化』とインディヴィジュアル・コアが判断しているわ』
ウィンドウの中で、アヤ姉が感情を押さえた声で言ったわ。
『――
途端、ジャンカーが悲鳴をあげた。
『敵は頭おかしいのか!? 星系まるごと滅ぼすようなシロモノを初手で投入するとか、ありえない!
ムリだ!
あんなの僕らなんかじゃ倒しようがないよ!』
ジャンカーはいつもの気持ち悪い口調すら忘れて、素のままに撤退を推奨してきたわ。
「――いまさらなに言ってんのよ!?
それに……」
あたしは数キロを隔ててこちらを睨む機獣を見据える。
熊のような姿をしたそいつは、真っ赤な眼を光らせ、いまにもこちらに飛びかかろうと身を縮めているところだった。
「アイツはやる気満々みたいよ?
いい加減、覚悟を決めなさい、ジャンカー!」
『――ムリムリムリ~!!』
「――ちょっ! ちょっとっ!?」
瞬間、あたしの感覚が一瞬薄れ、直後、合一が解けて、あたしはあたし自身の身体に引き戻された。
鞍と固定器だけの狭い
内壁には外の景色が映し出されていて、ジャンカーが機獣から逃げているのがわかった。
『――や、
そ、そうだ! に、兄さんか姉さんを呼ぼう! 戦斗騎仕様のあの二人なら、きっとなんとかしてくれる!』
「そんな余裕がないから、あたし達が出てるんでしょうが!
良いから、もう一度合一を――」
瞬間、追いついてきた機獣が背後から前脚を振り下ろして。
「きゃああああ――――っ!!」
『うわあああああ――――ッ!!』
凄まじい衝撃に、あたしとジャンカーは悲鳴をあげた。
内壁に映し出された外の景色が凄まじい勢いで流れて、気づけば騎体は虹色の床に投げ出されている。
「くっ……うぅ……言わんこっちゃない。
ジャンカー? もう一度、合一を! 早く!」
そう声をかけるあたしに、けれどジャンカーは応えない。
『――アレは……』
ジャンカーの視線を反映して、内壁に映し出された景色がぼやけ、一点にフォーカスされる。
そこには、驚きに目を見開いてうずくまる女の子が映し出されていて。
『――一般人が取り込まれてる!? なんで!?』
アヤ姉の焦った声が、
女の子は青ざめた顔でこちらを見上げている。
胸の前で握り締めた手からは、蒼い光が溢れていて。
『……見つけた……』
いつになく真剣な声で、ジャンカーが呟く。
「――ジャンカー?」
あたしの呼びかけに応える事なく、ジャンカーは騎体を起こす。
『ガアアアァァァァァァ――――ッ!!』
機獣が咆哮をあげて、こちらに飛びかかって来た。
――直後。
『――うるさいっ!』
ジャンカーが右手を振るって、機獣を殴り飛ばす。
「――はぁっ!?」
思わず驚きの声が漏れた。
『――ガァッ!?』
床を転がって滑っていく機獣。
そんな敵には目もくれず、ジャンカーはうずくまる女の子に歩み寄り、たった今、機獣を殴り飛ばした右手を、ゆっくりと彼女へと差し出す。
『――お嬢さん。僕の魔咆少女になってよ!』
普段のおどおどした声からは想像もできない――はっきりとした声色だったわ!
正直、認めたくないし、絶対に本人には言ってやらないけど……コイツ、真面目に喋ればすごくイケボなのよね……
――って、そうじゃない!
「アンタ、急になに言ってんの!? あんたのリアクターはあたしでしょうがっ!」
『――黙れ、ババア!』
「ちょっ!? BBAじゃなくババア!? ついに言いやがったわね!? 赦さないわよ!?」
あたしが怒鳴りつけても、ジャンカーはいつものように謝ったりせず、むしろ反論してきた。
『見つけたんだよ! 僕の本当の使い手!
――紫堂達に言われて、仕方なく選んだ君じゃなく……』
「――っ!? 仕方なくっ!? アンタ、そんな事思ってたの!?」
『
候補者の中では、一番の特別だと思ってた。
……でもね。でも……』
いつものどもりが無くなって、彼ははっきりと告げる。
『わかったんだ。あの子こそ、僕の使い手だ!』
瞬間、
ジャンカーが女の子を優しく掴み上げ、
同時に、狭苦しい
「――ちょっと! ジャンカー! なにしてんのよ!?」
叫ぶあたしをよそに。
「……ここ、ぺんぎんさんの中?」
どう見ても小学生くらいのツインテールのその女の子は、おどおどしながら拡張された
『そう! 僕はジャンカー!
君の名前は?』
「……か、
か細い声でそう応えた女の子――まなちゃんは、明らかに戸惑っていて。
その背後で、ハッチがゆっくりと閉じられていく。
『じゃあ、まなたん。もう一度言うよ?
僕の魔咆少女になって、一緒に戦って欲しい!』
「……え? え? 魔法少女?」
「ジャンカー! こんな女の子になに言ってるの!?」
あたしは天井に向けて叫ぶ。
「お、お姉さんは?」
震える声で訊ねる、まなちゃん。
あたしは彼女に歩み寄って、目線を合わせる。
「あたしは
巻き込んじゃって、ごめんなさい。
――ジャンカー! この際、この子を
さっさと合一するわよ!」
『いやですぅ~! そもそも合一なんて、僕の使い方として間違ってるんだ!』
「はあっ!?」
『BBAは黙って見てなよ!
まなたんとなら……僕はアイツをやっつけられる!』
瞬間、あたしの足元に転送陣が出現して。
「――ちょっ!? ジャンカー!?」
視界が白に染まり、次の瞬間にはあたしは騎体の外に放り出されていた。
あたしは慌てて腰から
その間にも、無貌のはずのジャンカーの顔に、金の文様が走って
「――あたしを放り出すなんてっ! ジャンカーっ! 覚えてなさいよっ!!」
あたしの怒声が結界内に響き渡る。
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