第6話 僕が、平凡に生きるのが、難しい訳。

僕は、暗闇が怖い。僕の住んでいる家は、古い造り酒屋の多い街の中にあった。酒屋が多く、城下町でもあるから、観光客が多かった。僕の自宅も、旧家という事もあり、蔵がある。その蔵が怖い。もちろん、小さな時の閉じ込められ事件がトラウマになった事もあるが、誰にも言いたくない僕の秘密があった。僕は、一人っ子だった。僕の母親は、身体が弱かったので、今は、認知症になったばあちゃんに育てられた。母親は、長年の闘病生活の末に、この世を去った。僕は、母親を死なせたくなかった。母親を死なせない為には、どんな事もするつもりでいた。僕の家にある蔵の前で、遊んでいる時に、それは現れた。貧しい身なりをした老人だった。

「お母さんを助けたいのか」

「うん」

僕は、その老人の顔を覗き込んだと思うが、何故か、顔がよく見えない。

「助けたら、お爺さんの欲しい物をくれるかい?」

「僕は、何も、持っていないよ」

「いやいや、そのままで十分だよ。お前さんの持っている時間が欲しい」

「僕の時間?」

僕は、何を言っているのか、わからなかったが、その時、奥で寝ていたはずの母親が、物凄い剣幕で、飛び出してきた。

「現れるでない。お行き!」

母親の形相は、凄かった。剣幕に押されて、その老人は、一瞬たじろぎ

「まだ、生きていたか」

悔しそうに、僕を見下ろすと

「困ったら、いつでも、私を呼ぶがいい」

そういうところは、蔵の中へと消えていった。

「晴や・・・」

母親は、急に力尽きたのか、その場で、膝をつき、崩れ落ちた。

「お前の精を吸い取りにきた。気を付けるがいい。今のお前では、叶わない。何としても、守りたかったけど、母さんには、時間がない」

「母さん、どおいう意味?」

僕には、母親が何を言うのか、その時には、わからなかった。

「大きくなると、わかるよ。声が聞こえてくるから。だけど、母さんは、その日が来ない事を願っているの」

母親は、最後まで、僕の行く末を心配していた。僕は、その時、何も、知らなかった。僕の中で、目覚めた黒い意識が、少しずつ、成長し、形を現していく事を。僕の中には、邪神が住んでいた。

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