第9話 ミラヴェニア魔法学校入学試験
<アキラ視点>
一時間目、古典は筆記試験で行われた。
古語を現代語に置き換えるという単語問題にはじまり、発音記号の問題、文法問題、ヒアリング、長文読解問題に至るまで多岐にわたっており、日本に住んでいれば、英語の試験で同様の設問を解いたであろう出題内容であった。
さすがに、来てたった数か月の世界の古語であるから、僕も悪戦苦闘し、半分も正解する自信はなかった。
二時間目、音楽も筆記試験で出題された。
こちらの世界で著名な作曲家、音楽魔法の発明者などの名前などの問題はさすがにわからなかったが、楽譜の読み方、初歩的な音楽記号の読み方、音階、和音などの音楽理論の基本のようなもれなく正解することができた。
正解率は二科目合わせておそらくは50%程度。
全国からエリートの卵が集まる試験である。
僕は、半ば「不合格だろう」とあきらめかけていた。
三時間目は、魔法実技試験だ。
体育館のような場所に僕ら受験生は案内された。
呪文書を配られ、それを忠実に詠唱する試験だ。
正しく詠唱すれば、霧のようなきれいな小雨が降るらしい。
他の受験者の様子を試験会場の外からちら見させてもらったが、氷雨になったり、豪雨になったり、うまくコントロールができない人が多いようだ。
さて、僕の順番になり、呪文の中身を確認した。
ピアノからフォルテへの強弱記号があり、かつシンコペーションで複雑なリズムをとっている。
メロディもやや高度なコード進行を取っており、一筋縄ではいかない。
なるほど、参考音源があるならまだしも、楽譜だけで、初見で即興で歌い上げるのは多少は難儀するかもしれない。
だが、ジャズ音楽を得意とする僕にとっては、これは得意中の得意であった。
歌詞の古語も、たまたま、偶然なのか、簡単にしてくれているのかナーシャが教えてくれた範囲の知識でなんとか読めるものだった。
僕は魔法を詠唱しはじめると、きれいな小雨が降りだした。
「素晴らしい。あなた、なかなか、魔法実技能力は高いですね」
その言葉に僕は胸をほっとなでおろす。
四時間目は、瞑想試験だ。
暗い部屋に連れられてそこで座禅を組まされる。
すると、普段は思い浮かばないような悪魔が僕を襲い掛かるイメージが脳裏に思い浮かぶ。
だが、これは試験官があえて見せているなと、僕は瞬時に把握した。
きっと、この世界に長年住んでいる人たちにとっては、さも恐ろしい映像に違いなかったが、ここは、異世界からやってきた僕にとっては平気である。
僕がやって来た世界には、クトゥルフ神話というホラー小説群がある。
それはキリスト教を信仰する人々にとってはとても恐ろしい内容とされているものの、一神教を信じない日本人にとっては、欧米人ほど怖くないと言われている。
それと同じことがまさしく僕の身にも起きていた。
この世界に根差して生活し、この世界の信仰を深く信じていれば、冒涜的で恐ろしいく感じたであろう魔物が脳内の世界で襲い掛かってくるのだが、僕にとっては平気も平気。
全く怖くなかったのである。
試験官は平気な顔をしていた僕の顔をみて、唖然とした顔をしていた。
おそらくは、これは勇気を試す試験で、僕は好成績を収めたらしかったのだ。
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