第10話 狩猟デビュー

試験を終え、アミナ村へ戻った僕は、村の男たちに狩猟の仲間に入れてもらっていた。


この村では、性役割が固定され、男の仕事と女の仕事が明確に分かれていた。


男は狩猟や宗教的な儀式、政治などを担当し、女は農業、家事、子育てを担当する。


僕が元来た世界の価値観からすれば、男女差別と言われても仕方がない文化があった。


僕が分析した限りでは、この性役割の固定は魔法に由来するものであった。


というのも、男性が唱えられる魔法と女性が唱えられる魔法は異なるのである。


魔法の中にもバス、バリトン、テノールからなる男声魔法と、アルト、メゾソプラノ、ソプラノからなる女声魔法の二種類があった。


男であっても声変わり前の少年などは女性に混じり、女声魔法を使いこなして生活していた。


男声魔法には、戦闘魔法、召喚魔法や空間を操る魔法など、強力な社会的ステータスを誇示できるいわゆる花形魔法が多く、女声魔法には、治癒魔法、補助魔法、日常魔法など男性魔法使いを補助する役割の魔法が多い。


そんなわけで、狩猟などは攻撃魔法が役に立つため男の役割だ。


もっとも、負傷することがあるので、治療魔法役の女性が1人ついてくるが。


その日の狩りは、バイラスと呼ばれる、牛の仲間を狩りにいくことになっていた。


草原に僕たちは繰り出す。


しばらく、僕たちは散策をしてうろついていると、仲間の一人が手招きをする。


「バイラスがいたのか」


という声をあげそうになるが、思わず言葉を飲み込む。


仲間に近づき、彼が指さす方向を見つめると、明らかに牛の仲間ではない小動物が跳ねていた。


走っては前足をあげては耳を立てて停止して警戒し、再び跳ねはじめる。


「見たことのない動物だ……」


僕の横にいる狩猟仲間がつぶやく。


「でも、なんかかわいいわね」


彼らが見たことがないと言っている動物。


それは、僕たちがいる世界ではペットとしてよく見かける動物だった。


「野ウサギじゃないか……」


仲間の一人が詠唱をすると、かまいたちの魔法を解き放つ。


すると、ウサギはそれを察知したのか、走り回ってかわす。


驚いたことに、ウサギの口が動きだしたのだ。


明らかに魔法を詠唱している。


ウサギは、氷の塊のようなものを僕たちに投げつける。


「こいつ……魔法を使うぞ」


男たちは、驚きつつも悪戦苦闘を繰り返し、徐々に男たちはウサギを追い詰める。


「てこずらせやがって……」


とどめのかまいたちを放とうとしたそのときだった。


「待って!」


ウサギがしゃべりだしたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る