第4話
プリシラの誕生パーティー当日。
嫌われてるなぁ。侯爵家だからみんな強く言えないのかなぁ。なんか侯爵家ってお貴族様の中では結構偉いみたいだけど、借金あってもそうなのかなぁ。
挨拶を受けながら私は苦笑を頑張って堪えていた。同じくらいの年頃の子も来てはいるものの、プリシラには全く近づいてこない。
婚約者であるグレンは遠くの方でご令嬢に囲まれている。プリシラよりもグレンの方が人気者で彼の誕生日パーティーのようだ。彼は最初だけいてさっさと帰るみたいだから別にいいわよね。さっき贈り物も律儀にくれたもの。明らかに嫌そうなのに本当に真面目な人だ。
彼はパーティー用の服を着ているせいかこの前よりも大人っぽい。私より二歳上なだけなのに、とても冷静で頼りがいがあるように見える。嫌われてなかったら、ああいうお兄ちゃんって理想だよね。
侯爵夫妻の側で挨拶を受け終わると、大人たちの会話があるようで私は年の近い子供たちのところへ行くように暗に促された。
兄であるレイナードは、最初の方だけちらりと姿を見せたがもう会場のどこにも見当たらない。兄妹仲はやはり悪いのだ。
私はご令嬢たちとは初対面だが、彼女たちは明らかにプリシラを嫌うというか怯えて遠巻きにしている。そんな子たちのところにわざわざ行く趣味はない。まだボロが出そうだもん。
あーあ、孤児院の時はみんなのおねーちゃんだったのにな。でも、思い返せばみんなの面倒見過ぎて自分のこと全然できてなかった。プリシラは我儘だし嫌われてるんだから、もうこの際何をしようとどうでもいいのかな。私もみんなのおねーちゃんじゃなくって好きなことしてみてもいいのかな。それが我儘ってことなのかな。
お腹が空いたので、食事が並んでいるテーブルに近付いた。
そういえば、プリシラってどうしておパステルなカラーのドレスばっかりなんだろう。ん? なんか違う。パステルカラーか。もっと濃い色の方が似合いそうなのに今日もグレンの目を意識した水色を着せられた。もっと濃い青の方が似合うのになぁ。
そうそう、リボンは何個か取り外しているけど夫人にはまだバレていない。
わぁ、今日も食べきれないほどのお料理がある!
サンドイッチがない……でも、見たこともない料理がいっぱい。料理人さんこれ全部作るの大変だっただろうなぁ。全然減ってないけど、これってその都度補充されてるの? 余らない? 余ったらどうなるの? ちゃんと見とけば良かった。このパーティー準備で夫人はずっと忙しそうだったのね。
あ、これは海に泳いでいるというお魚ね。海って見たことないけど、しょっぱいお水が飲み切れないくらいたくさんあるところなんでしょう? これってどうやって泳ぐのかしら。足何本? 泳ぐってどうやるの?
そんなことを考えながら手に持った皿に料理を取っていく。
ひたすら食べていると、周囲が少し静かなことに気付いた。どうしたんだろう、さっきまで賑やかだったのに。それに、何? この匂い。
「臭い」
思わず口から声が出ていた。エビというものが美味しくてさっきからひたすらもぐもぐしていたのだが、なんだか臭う。エビの香りじゃない。
ふと隣を見ると、少し離れたところにグレンとご令嬢たちが立っていた。
あら? こっちを見ているけど、何か話しかけられて無視しちゃった? そんなちょっと遠くから話しかけなくてもいいのに。
ん? その前になんでグレンはまだ帰ってないの? いつもならさっさと帰るんでしょ? もう帰ったらいいのに。なんでそんな令嬢たちに囲まれて大して嬉しそうでもない顔をしてこっちを見てるの。
早く帰ってよ、このままだと気になってゆっくりエビを食べられない。私とエビとの出会いを邪魔しないで欲しい。私、今日これが一番美味しいと思うんだから。
あ、そうそう。この臭い、思い出した。自慢じゃないけど孤児院育ちは鼻がいいのだ。グレンはそのうち帰るでしょう。
「そこのあなた。ちょっと一緒に来て」
私はグレンの斜め後ろにいる令嬢に近付いた。
令嬢は少し驚いたようだが、怯えたように首を横に振る。
「いいから。別に取って食ったりしないわよ」
プリシラっぽいわよね、と自画自賛しながら令嬢の腕を掴んで人気の少ない方へ連れて行く。
「この辺でいいかしら」
「あ、あの……一体何を……私、今日は何も……」
令嬢は完全に怯えている。プリシラ、一体以前何をしでかしたのか。
「聞かれたくない話でしょ?」
「わ、私じゃなくてそれはエルンスト様の方では……?」
可哀そうに、この子泣きそう。プリシラ、他の家の子をぶったりしていないでしょうね?
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