第27話 殺意と愛情

 混乱期には、時に連続殺人鬼シリアルキラーを生む。

 その例が19世紀末から第二次世界大戦中のドイツだ。


 《デュッセルドルフの吸血鬼》ペーター・キュルテン(1883~1932)(*1)

 犯行期間:1892~1930 有名なのは、1929年1月~11月

 犠牲者数:9人(1929年1月~11月のみ)

 刑罰  :断頭台ギロチン


《「探偵」ハールマン》フリッツ・ハールマン(1879~1925)(*1)

 犯行期間:1919~1924年6月

 犠牲者数:24人(有罪と認定されたもの・実際には27人以上とも言われている)

 刑罰  :断頭台

 

《人食い宿の主人(*2)》カール・デンケ(1860~1924)(*1)

 犯行期間:1921~1924年12月21日

 犠牲者数:30人以上

 刑罰  :受けずに自殺

 

 ブルーノ・ルトケ(1909~1944)(*1)

 犯行期間:1928~1943

 犠牲者数:51人(85人の殺害を自供)

 刑罰  :薬殺やくさつ


 この時代のドイツは、

・第一次世界大戦

・ドイツ帝国崩壊

・混乱期

第三帝国ナチス成立

 と激動の時期だった為、人々の心も荒み、このような連続殺人が相次いだもの、と見られる。

 当然、日本も戦国時代なので、連続殺人鬼が出てくるのも否定出来ない。

「血を……血を……」

 男は口元の血を手でぬぐう。

 その傍には、男性の遺体が。

 鶴嘴つるはしで殺害したのだ。

 その視線は、船岡山城に向けられる。

 狂った男の視線の照準が定まった。


 亜蓮と同時代の16世紀。

 16人を殺害した《ベートブルクの狼男》、ペーター・シュトゥンプ(? ~1589)が死刑となった(*1)。

 その様な連続殺人鬼が、戦国時代にも居た。

「……」

 よだれを垂らしながら、山城を襲う。

 洗濯物を干していた幸姫に目を付けた。

「ぐへへへ」

 下卑げびた笑みを見せた後、近づく。

 あと数mまで来た時、

「うん?」

 頭部に違和感を覚え、米神こめかみを触る。

「!」

 そこには、矢がしっかり刺さっていた。

 見ると、天守から亜蓮が男を狙っていた。

 それから屋根に降りると、M16を取り出し、庭の男を狙う。

 有効射程は500mなので、そのまま撃つ。

 30発全てを。

「!」

 男は意識が遠のく前に喉や胸、太腿ふともも等を次々と撃たれていく。

 30発目は頭だ。

 ズキューン!

 頭を5・56x45mm NATO弾が撃ち抜いた。

 男は膝立ち後に倒れる。

 血の海が広がっていく。

「若殿……」

「礼は良いよ」

 屋根の上から亜蓮は、手を振る。

「流石ですわ」

 お市は天守から褒め称えた。

「ありがとう」

 亜蓮も投げキッスで返す。

「若殿……」

 救われたことに幸姫は、安堵あんどである。


「申し訳御座いませんでした!」

 土下座するのは、井伊直虎。

 警備担当者の癖に、不審者の侵入を許したからだ。

「まぁ失態だわな」

 普段は甘々あまあまな亜蓮でも、流石にこの時ばかりは厳しい。

 お市を傍に侍らせ、幸姫を膝に乗せた状態で苦言をていす。

「被害者が1人も出なかったのは、幸運だったよ。次からは気を付け」

「! ……処罰は無いんですか?」

「猛省しているんだから、態々わざわざ罰を下すことは無いよ」

「あ、ありがとうございます……!」

 只管ひたすら頭を床に擦り付けている。

「もういいから、そろそろ虎松(※直政の幼名)が帰ってくるよ。受け入れの準備し」

「はい!」

 泣きらした顔を拭きつつ、直虎は部屋を出ていく。

「……甘いですね」

 幸姫が振り返った。

他家たけなら打ち首ものですよ?」

「良いんだよ。其処そこまで厳しくしたくないし」

 亜蓮が目指すのは、優しい社会だ。

 幸姫の頭を撫でつつ、お市にしな垂れかかる。

「俺、優し過ぎる?」

「全然よろしいかと。厳し過ぎると人心じんしんは、離れていくので」

 兄・織田信長は、敵対者や家臣に厳しい対応をする場合があるが、義弟の亜蓮は兎に角優しい。

 何でも愛で包み込む、聖母のような優しさだ。

 一方、幸姫の苦言は止まらない。

「優しいのは結構ですが、家臣が怠惰たいだになる可能性があります故、になって頂かないと」

「訓練中は鬼になるつもりだよ。有事の時に動いてくれたら後は問題無い」

 亜蓮は、プロ野球で活躍した仰木彬(1935~2005)氏の指導方法と似ている。

 彼は本人の遊び人性格もあって、監督時代も選手がグラウンドの外で何をしようが、試合で結果を出せば何も言わなかったが、練習そのものはかなり厳しかったことで知られる(*1)。

 亜蓮も家臣の私生活には介入するつもりは毛頭無いし、有事の際、活躍すれば何も言わない姿勢スタンスだ。

「……均衡きんこうですね」

「そうだよ」

 首肯後、亜蓮は、お市と接吻する。

 その膝の上で幸姫は、

「けっ」

 と呆れるのであった。


「そう。神宮寺様には感謝として何か贈り物をしなきゃね」

「そうだな」

 幸姫から話を聴いた芳春院と前田利家は、頷く。

「しかし、4・6ちょう(現・約500m)離れた相手を射抜くとは……素晴らしい腕だな」

 元亀元(1570)年5月19日に信長を火縄銃で狙撃した杉谷善住坊すぎたにぜんじゅうぼう(? ~1573)も狙撃した距離は、12~13間(20数m)だったとされる(*1)。

 なので、4・6町は、その約25倍だ。

 もし、善住坊が亜蓮だったら、信長の命は無かっただろう。

 芳春院が問う。

「神宮寺様には恋してる?」

「勿論。ただ、子供扱いされてるけどね」

裳着もぎを済ませたら大人扱いされるかもね」

 厳しい口調で利家が言う。

「裳着を済ませない限り、嫁には出さんからな」

「えー……父は母に11歳で私を産ませたいのに?」

「当時は若かったんだ。大人になった今、娘の大切さを身に染みているよ」

 現代の価値観で小学生に当たる歳で産ませるのは、流石に性犯罪になる可能性が高いだろう。

 百歩譲って両者や両家が合意しても、社会は倫理的に許してくれない筈だ。

 戦国時代は令和と比べると、ガバガバな価値観である為、11歳で出産しても問題無かったかもしれない。

 が、やはりその歳での出産は母体にも影響が出る可能性があるので、やはり褒められたものではないだろう。

「兎に角、嫁に出すのは、裳着の後だ。異論は認めん」

「えー……」

 すぐにでも嫁に行きたい幸姫は、芳春院に助けを求める。

「母上は?」

「まぁね……やっぱり裳着を済ませるのは大事だと思うの」

「母上も父上の味方するんだ?」

「貴女を大切に想ってこそ、よ」

 芳春院は幸姫を抱き締める。

「貴女を産む時、私は想像を絶する想いをしたのよ。あんな激痛二度と体験したくない。それを貴女にも経験して欲しくないの」

「母上……」

 そう言われたら、幸姫も何も言えない。

「……分かった」

 裳着の前に嫁入りしたかったのだが、父母の説得を受け、幸姫は止む無く計画を諦めるのであった。


[参考文献・出典]

*1:ウィキペディア

*2:ブライアン・レーン ウィルフレッド・グレッグ『連続殺人紳士録』

  訳・橋本恵 中央アート出版社 1994年

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