第24話 天下人の器

「凄いな」

 劇的に治安が改善されていく洛中の様子を見て、織田信長は感心する。

「強硬措置が効いたな?」

「義兄上殿も軍規違反には、厳しいでしょう?」

「……まぁな」

 信長の軍旗違反への厳しい対応の事例としては、竹生島事件が代表される。


『信長御小姓衆5、6人召し列れられ、竹生島ちくぶしま御参詣。

 長浜の羽柴筑前所まで御馬に召され、是より海上5里、御舟にて御社参。

 海陸共に片道15里の所を、日の内に上下30里の道、御帰城なさる。

 稀代の題目(=日蓮宗で唱える「南無妙法蓮華経」の7字(*1)なり。

 併しながら、御機力も余人にはかり、御達者に御座候ところ、諸人感じ奉り候なり。

 遠路に候へば、今日は長浜に御逗留候はんと、何も存知のところ、御帰り候へて御覧候へば、御女房たち、或ひは二丸まで出でられ、或ひは、桑実寺薬師参りもあり。

 御城内は行きあたり、(口偏に長)へ焦れ、仰天限りなし。

 則ちくくり縛り、桑実寺に女房ども出だし候へと、御使を遣わされ候へば、御慈悲に御助け候へと、長老詫言申し上げられ候へば、其の長老をも御成敗候なり』(*2)


※竹生島は神が住む島と言われ、人々の信仰の対象となっていた(*3)。

 近江浅井氏等も、度々参詣したことで知られている(*3)。


 成敗というのは、専門家いわく殺害以外の意味を有する為、厳罰を科した説(*2)もあるのだが。

 兎にも角にも信長は、鬼の居ぬ間に洗濯をしていた侍女達に相当、怒り心頭だったようだ。

 こうした厳しさもある種、亜蓮に通じるものがあるだろう。

 竹生島事件は、天正9(1581)年のことなので、これから11年後の出来事を信長は知る由もない(時間の逆説タイムパラドックスが起きている為、現時点では実際に起きるかは不明だが)。

 信長は、髭を撫で上げつつ尋ねる。

「今後は、如何どうする?」

「は。洛外にも出動する予定です。行く行くは山城国全域に範囲を拡大する考えです」

「うむ、よろしい」

 満足気に頷くと、信長は側近に顎で示す。

「例の物を」

「は」

 側近は下がり、暫くすると木箱を持って来た。

 それを亜蓮の前に置く。

「上様、これは?」

「貴殿のこれまでの働きに応じた臨時のろくだ。受け取れ」

 信長が用意していたのは、大量の永楽通宝。

 日本円で1億円くらいだろうか。

「ありがとうございます。ただ、これよりも」

「なんだ?」

「城が欲しいです」

「「!」」

 信長と側近は、目を剥く。

 それから困った顔をした。

「城か……」

 信長は思案する。

 活躍ぶりから城持ちでも良いのだが、如何いかんせん亜蓮に見合う城はどれか分からない。


 山城国の城は以下の通り。

阿弥陀ヶ峰城あみだがみねじょう

 現在地 :東山区

 築城年 :16世紀?

 廃城年 :?

 主要城主:今村氏or浄土真宗

②嵐山城

 現在地 :西京区(*4)

 築城年 :?

 廃城年 :?

 主要城主:香西元長こうざいもとなが(? ~1507)

宇治田原城うじたわらじょう

 現在地 :綴喜郡宇治田原町

 築城年 :織田信長の命により、山口秀景やまぐちひでかげ(*5)(? ~1583(*5))が築城したといわれる。

 主要城主:土豪・山口甚助の館

鹿背山城かせやまじょう

 現在地 :木津川市鹿背山(*6)

 築城年 :?

 廃城年 :?

 主要城主:木津氏、松永久秀

⑤革嶋城

 現在地 :西京区

 築城年 :室町時代

 廃城年 :永禄9(1566)

 主要城主:革嶋一宣

⑥木津城

 現在地 :木津川市

 築城年 :?

 廃城年 :?

 主要城主:木津氏

⑦ 京都新城

 現在地 :上京区

 築城年 :慶長2(1597)年

 廃城年 :寛永4(1627)年

 主要城主:豊臣秀吉(1537(*7)~1598)

      豊臣秀頼(1593(*8)~1615(*9)

      北政所 (1542/1548/1549~1624)

      木下利房(1573~1637)備中国(現・岡山県西部)足守藩2代藩主

草路城くさじじょう

 現在地 :京田辺市

 築城年 :?

 廃城年 :文明17(1485)年

 主要城主:遊佐長直(? ~1493)

将軍山城しょうぐんやまじょう

 現在地 :左京区

 築城年 :永正17(1520)年

 廃城年 :? (1570年後?)

 主要城主:細川高国(1484~1531)細川京兆家ほそかわけいちょうけ15代当主

      足利義晴(1522~1546(*10)室町幕府12代将軍(在:1522~1546(*10))

      (? 1516/1526/1528年(*11)~1582)

勝竜寺城しょうりゅうじじょう

 現在地 :長岡京市

 築城年 :室町時代or延元4/暦応2(1339)年

 廃城年 :慶安2(1649)年

 主要城主:細川氏、永井氏他

 ⑪寺戸城てらどじょう

 現在地 :向日町

 築城年 :室町時代

 廃城年 :?

 主要城主:竹田氏、野田氏

 ⑫二条城

 現在地 :中京区

 築城年 :慶長6(1601)年

 廃城年 :明治6(1873)年

 主要城主:徳川将軍家(江戸期)、皇室(明治17~昭和14)

 ⑬東山霊山城ひがしやまりょうぜんじょう

 現在地 :東山区

 築城年 :天文21(1552)年

 廃城年 :天文22(1553)年

 主要城主:足利義輝(1536~1565 室町幕府13代将軍 在:1547~1565(*10))

 ⑭伏見城

 現在地 :伏見区

 築城年 :文禄元(1592)年

 廃城年 :元和9(1623)年

 主要城主:豊臣氏、徳川氏

 ⑮船岡山城

 現在地 :北区

 築城年 :応仁元(1467)年

 廃城年 :?

 主要城主:大内政弘(1446~1495 大内氏第14代当主)

      山名教之(? ~1473 伯耆ほうき(鳥取県中部・西部)備前守護) 

      細川政賢ほそかわまさかた(? ~1511 細川典厩家3代当主)

 ⑯

槇島城まきしまじょう

 現在地:宇治市

 築城年 :?

 廃城年 :?

 主要城主:真木島氏

 ⑰向島城むかいじまじょう

 現在地 :京都市伏見区

 築城年 :文禄3(1594)年

 廃城年 :元和6(1620)年)

 主要城主:豊臣秀吉、徳川家康

 ⑱物集女城もずめじょう

 現在地 :向日市

 築城年 :室町時代

 廃城年 :天正3(1575)年

 主要城主:物集女光重、物集女忠重

 ⑲山崎城やまざきじょう

 現在地 :乙訓郡大山崎町

 築城年 :延元3/暦応元(1338)年以前

 廃城年 :天正12(1584)年

 主要城主:林直弘

      薬師寺国長(? ~1533)

      細川晴元(1514~1563 細川京兆家17代当主)

      豊臣秀吉

 ⑳淀古城

 現在地 :伏見区

 築城年 :室町時代中期

 廃城年 :文禄4(1595)年

 主要城主:薬師寺元一やくしじもとかず(1477~1504)

      細川氏綱(1513~1564 細川京兆家18代当主)

      三好義継(1549~1573 三好本家の事実上最後の当主)

      金子某

      木村重茲きむらしげこれ(? ~1595)台子だいす七人衆の1人)

 ㉑淀城

 現在地 :伏見区

 築城年 :元和9(1623)年

 廃城年 :明治4(1871)年

 主要城主:久松松平氏、石川氏、稲葉氏他

 

 元亀元(1570)年時点で廃城しているのは、21城中3城(草路城 1485年、

東山霊山城 1553年、革嶋城 1566年)。

 同時点で築城前なのが、21城中5城(伏見城 1592年、向島 1594年、京都新城 

 1597年 二条城 1601年、淀城 1623年)。

 現存するのが、それ以外の13城だ。

「……検討されてくれ」

「回答は急ぎませんのでよろしくお願いいたします」

「ああ」

 信長は、亜蓮から底知れぬ脅威を感じた。

此奴こいつわし同様、天下人てんかびとの器だ)

 と。


[参考文献・出典]

*1:デジタル大辞泉

*2:『信長公記』天正9(1581)年4月1日条

*3:渡邊大門 株式会社歴史と文化の研究所代表取締役 2023/5/18

*4:『京の城:洛中洛外の城郭』編・京都市文化市民局文化部文化財保護課

  京都市文化市民局文化部文化財保護課発行〈京都市文化財ブックス第20集〉 

  2006年

*5:谷口克広『織田信長家臣人名辞典 第2版』吉川弘文館 2010年10月1日

*6:「角川日本地名大辞典」編・編纂委員会

  『角川日本地名大辞典 26 京都府 上巻』角川書店 1982年

*7:桑田忠親『豊臣秀吉研究』角川書店 1975年

*8:桑田忠親『淀君』    吉川弘文館 1958年

*9:井上安代『豊臣秀頼』  続群書類従完成会 1992年

*10:上田正昭 津田秀夫 永原慶二 藤井松一 藤原彰

   『コンサイス日本人名辞典』(第5版) 三省堂 2009年

*11:著・早島大祐「明智光秀の居所と行動」編・藤井譲治

   『織豊期主要人物居所集成 第2版』思文閣出版 2016年

*12:馬部隆弘

   「細川晴国・氏綱の出自と関係-「長府細川系図」の史料批判を兼ねて-」

   編・天野忠幸 片山正彦 古野貢 他

   『戦国・織豊期の西国社会』

   日本史史料研究会企画部〈日本史史料研究会論文集〉 2012年

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