第22話 通詞になるかな

 亜蓮が警備を担当しているのは、洛中らくちゅう(現・上京区、中京区、下京区、南区の一部)だ。

 現代では、

・京都御所

・京都水族館

・二条城

 等がその範囲内に当たる。

 そして洛外は、更に細分化されると、

洛東らくとう(現・左京区、東山区、山科区)

・洛北(現・北区北部)

・洛西(現・右京区南部、西京区、向日町、長岡京市の一部)

・洛南(現・南区南部、伏見区、山科区の一部、宇治市の一部)

 となっている。

 ※文献等によっては差異がある場合がある。

 洛外に関しては、無政府状態になっている為、いずれ管理する必要があるだろう。

 屋敷の馬小屋には、沢山の馬が並んでいる。

「ヒヒーン」

「よしよし」

 亜蓮が馬の背中を撫でていると、お市がやって来た。

「物凄い馬の数ですね」

「10頭居るよ」

 お市と接吻する。

 何時いつ如何いかなる場所でも、愛情表現スキンシップを欠かせないのが亜蓮スタイルだ。

「この馬に乗って洛中を警護するんですか?」

「そうだね。騎馬隊で哨戒しょうかいするんだよ」

 同様の組織で言えば、平成6(1994)年に京都府警察本部地域部地域課に創設された、平安騎馬隊へいあんきばたいだろう。

 本組織の主な活動は、

・騎馬哨戒パトロール

・雑踏警備

行進パレード

 等だ。

 亜蓮は、平安騎馬隊を模した騎馬警察の部隊を創設しようとしていた。

義父上ちちうえ、今、寺子屋(現・学校)から帰ってきました」

「虎松(※1)、お帰り」

 直政を抱擁し、その頭を撫でる。

 寺子屋から帰ってくる度にこの反応だ。

 熱烈な抱擁に、直政は父の愛を感じる。

「痛いですよ、義父上ちちうえ

「おー、済まん済まん」

 養子相手でこの愛情なのだから、実子となるとそれ以上になるかもしれない。

 お市は考える。

(物凄い子煩悩こぼんのうですわね。いずれ子をなした際、大丈夫なようですわね)

 前夫・浅井長政も子煩悩であった。

 亜蓮もそれなら育児の時は乳母が居るとは言え、助けてくれるだろう。

「義父上、乗馬の練習してもいいですか?」

「ああ、最初は1番小さい馬から乗り」

「はい」

 10頭のポニーから最小のそれに乗り、直政は馬を操作コントロールしだす。

「ゆっくりな?」

「はい」

 亜蓮がそばに居る為、安心して練習が出来る。

 亜蓮とお市は、ハラハラドキドキした状態で我が子を見守るのであった。


 一気に10人も侍女が増えた為、神宮寺家の侍女は交代制がられた。

 午前中に5人、午後に5人という形だ。

「「「「「本日はよろしくお願いいたします」」」」」

・桐(18)

・藤(17)

あおい(16)

・明石(15)

空蝉うつせみ(14)

 の5人が挨拶する。

 平均年齢16歳の侍女軍団だ。

 残りの、

夕顔ゆうがお(13)

おぼろ(12)

大宮おおみや(11)

右近うこん(10)

浮舟うきふね(9)

 の5人は、午後からの勤務体制である。

「よろしく。幸、初任者研修は終えた?」

「はい。後は若殿の指示待ちです」

「ありがとう」

 幸姫の頭を撫でると、彼女は目を細めて、

「失礼します」

 亜蓮の膝の上に座った。

「どった?」

此処ここが特等席なので」

「そうなんだ」

 笑顔で亜蓮は、幸姫の頭を撫でると、次に指示待ちの5人を見た。

 全員、黒髪で長髪ロングの美少女だ。

 もっとも、最年長の桐でさえ、身長が145㎝とこの時代の女性の平均身長(*1)のそれと同じの為、現代人の亜蓮には低身長感が否めない。

 身長だけ言えば、この平均身長は令和元(2019)年現在で11歳の144㎝(*2)と同じくらいだ。

 なので、単純に比較すれば、目の前に居る18歳の女性は、令和で見れば小学校5年生くらいの身長と言える。

「改めてよろしくね。神宮寺亜蓮だ。座ったままで御免ごめんだけど」

 亜蓮が手を出し、5人と握手していく。

 最年長の桐がうた。

御質問ごしつもんしても?」

「何?」

「若殿は異国の方ですか?」

「あー……」

 混血ダブルなので場合によっては、外国人に見えるかもしれない。

 弥助が上洛じょうらくした時には、見物人が殺到(*3)したように。

 令和と比較すると、この時代は外国人がまだまだ見慣れていないのが現状だ。

「父親がね。母親は日本人だよ」

成程なるほど

「外国人は怖い?」

「怖いというか言語が通じない為、近寄りにくいですね。日本語が通じれば如何どうってことでもないですが」

 令和では外国語教育が講座等で簡単に出来る時代の為、身近な存在であるが。

 戦国時代は、標準語も無い時代で令和以上に方言が盛んな時期である。

 そんな時代に外国語は方言話者にとっては、更にハードルが高いだろう。

 亜蓮も日本語教育しか受けていなかったら、外国人との意思疎通コミュニケーションは気が引けて、きりようになっているかもしれない。

「一応、外国語は喋れるから困った時は俺に頼み」

「本当ですか?」

「ああ、ただ、日常会話とか物書きは少しでも良いから出来て欲しいから、波爾杜瓦爾ポルトガル語や西班牙イスパニア(現・スペイン)語は学んでほしいな」

通詞つうじになる為に?」

「いや、そこまでじゃないよ」

 笑顔で亜蓮は、誤解を解く。

「これからは西洋の文化が今以上に沢山入って来るからね。天婦羅てんぷらとかもそうだし」

 亜蓮が重要視しているのは、ポルトガル語だ。

 今では日本語したものの多くは、この時代に流入している。

 

 日本語化したポルトガル語由来の単語(*4)

・オランダ=Holandaホラント

・オルガン=Órgãoオルガン

・カースト=血統カスタ(家系とも)Casta

・カステラ=カスティーリャのパンパン・デ・カステラ

      ボロ・デ・カステラカスティーリャのお菓子

合羽かっぱ袖なしの外套カッパ

オランダ商館長カピタン船長カピタン

南瓜かぼちゃCambojaカンボジア

・カラメル=Carameloカラメロ

歌留多カルタ手紙カルタ地図カルタ、トランプ《カルタ》

切支丹キリシタンCristãoキリスト教徒

・ギリシャ=Grécia

・クルス=Cruz十字架

・コップ=Copo

・金平糖=Kompeitō砂糖菓子

・サラダ=Salada

・シャボン玉=石鹸サボン又は中世スペイン語のxabónシャボン

              (現在のスペイン語で石鹸はjabónハボン

如雨露じょうろRegador噴出

・煙草=Tabaco

天婦羅てんぷらtemplo寺院説、tempero調味料説等

・バッテラ=Bateira小舟

・パン=Pãoパン

・ビロード=Veludoベルード

・ピン=Pinta(印、母斑ぼはん

・フラスコ=Frasco

・ブランコ=Balanço揺れる

・ベランダ=Varanda説

ボタン=botão

弥撒みさ=「行け、汝らは去らしめられるイテ・ミサ・エスト

羅紗らしゃ毛織物ラーシャ

・ロザリオ=rosárioロザリオ


 これだけ多いのならば、ポルトガル語の習得も素早く出来、ポルトガル人と意思疎通コミュニケーションが可能になるだろう。

「あ、これは命令じゃなくて推奨すいしょうだから。やるやらないは、自由だよ」

「「「分かりました」」」

 外国語習得に不安があった3人は、取り敢えず安堵する。

 同時に違和感を覚えた。

(命令じゃないんだ)

(推奨って初めてかも)

(自由なんだ)

 上意下達で命令が当たり前な社会にいて、このような形は非常に珍しいだろう。

 亜蓮は膝の上に直政を撫でつつ、M16を机上に置いた。

「後で撃ってみるから見てみる?」

「勿論です!」

 目をキラキラさせて、直政は首肯しゅこうするのであった。 


[参考文献・出典]

※1:井伊直政の幼名

*1:歴ブロ 2023年12月17日

*2:厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」

*3:ルイス・フロイスがイエズス会本部に送った年報

   天正9(1581)年3月11日(4月14日)付

*4:ごがくねこ 2021年9月21日

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