第16話 愛と嫉妬と寂しさ

 亜蓮がもたらしたM16は、さかいで大量生産されていく。

「おい、銃身じゅうしん曲がってないか?」

「大丈夫だ! 弾の方は万全か?」

「ああ、3回確認した!」

 大量のM16が馬車の荷台に積まれ、其々それぞれの前線に輸送されてく。

 堺は、


根来ねごろ

 紀伊国(現・和歌山県と三重県南西部)北部の根来寺(現・和歌山県岩出市)を中心とする一帯(現・岩出市)に居住した僧兵達の集団(*1)

・国友村(現・滋賀県長浜市国友町)


 と並ぶ、鉄砲の生産地だ。

「よし、行け!」

 鉄砲鍛冶が馬の尻を叩き、走らせる。

 日本で初めてM16の国産化に成功させた織田軍は、一気に日本統一に近づいた感じだ。

 一方、種子島では八板金兵衛の下、鉄砲鍛冶集団が織田にいで国産化に成功する。

 ドドドドドドドドド!

 M16の試射ししゃに島津貴久も大満足だ。

 病床でいながら、笑顔を見せる。

「見事、だ」

 縁側に敷かれた布団で横になっているが、それでも新兵器開発は、九州統一が近付いた為、喜ばしい。

虎寿丸とらじゅまる(※義久の幼名)、又四郎(※義弘の通称)、又六郎(※歳久としひさの通称)、又七郎(※家久の幼名)」

「「「「は」」」」

「我が命、は……残り、少な、い……4人に……我が夢を任す」

「「「「は……」」」」

「……わしは、隠居す」

 そういうと、貴久は短刀を取り出し、剃髪し始めた。

「私がします」

 心配した義弘が短刀を奪うと、貴久の頭を剃り出す。

 正史では、貴久が剃髪し、家督を長子ちょうしの義久に譲ったのは、永禄9(1566)年のこと。

 それがこの世界線では4年もズレたのは、それだけ彼が九州統一を夢見て、ギリギリまで頑張っていたからだ。

 剃髪後、貴久は四兄弟を改めてみた。

「今後の、戦は……鉄砲てっぽう、が……勝利の、分かれ道にな、る」

「「「「は」」」」

 貴久は、日本で初めて実戦で鉄砲を用いた戦国大名とされている(*2)。

 天文18(1549)年、種子島の領主・種子島時尭たねがしまときたか(1528~1579)から贈られた鉄砲を使って、島津の家臣・伊集院忠朗ただあき(? ~?)が大隅国(現・鹿児島県東部)の加治木(現・鹿児島県姶良あいら市)を攻めたのが彼だ(*2)。

 これ以外の説としては、天文23(1554)年の岩剣いわつるぎ城(現・鹿児島県姶良市)攻め説等が挙げられている(*2)。

 火縄銃と言えば、天正3(1575)年の長篠合戦が有名だろうが、前者にのっとればそれよりも26年も早く導入されたことを考えると、貴久の先見の明が分かるだろう。

「粉骨砕身で……製作に、努めよ」

「「「「は」」」」

 貴久の激励に四兄弟は、只管ひたすら聴講の姿勢なのであった。


 元亀元(1570)年6月10日。

 亜蓮は正式に井伊直虎ともせきを入れる。

 転生後、僅か1カ月で正妻と側室が誕生した訳だ。

「……」

 初夜の日の夕方、直虎は前夫・直親なおちか墓前ぼぜん供花きょうかしていた。

(貴方のことは忘れてないよ……でも、1歩進むことにしたんだ)

 心の中で、直虎は会話する。

 勿論、返事は無い。

(応援してくれるかな? 虎松も結構、気に入っている感じだよ)

「……」

(亜蓮様、貴方の為に菩提寺ぼだいじ作りたい、って。凄いよね。見ず知らずの前夫の為にそんなこと言えるだなんて)

 亜蓮は前夫・直親への敬意リスペクトを忘れてないようで、事あるごとに彼の為の言動がある。

 墓に刻まれた『大藤寺殿剣峯宗惠大居士』を指でなぞっていく。

(今後も時々、墓参りに来るよ。今度は虎松も連れてくるから)

「お疲れ」

「!」

 振り返ると、愛息を連れた亜蓮が背後に居た。

「! 亜蓮様?」

「墓参りに来たんだよ」

 そう言うと亜蓮は、虎松と一緒に墓に水を掛け始める。

「……会いたかったな」

「はい?」

「直親殿だよ。一度くらい会って、色んな話をしてみたかったな」

「……は―――」

?」

「……前夫ぜんぷは、亜蓮様と身長が同じくらいでしたね」

「俺と似てた?」

「……体躯たいくは似ていたかもしれませんね」

「嫉妬しちゃうね」

 亜蓮は作り笑顔を浮かべると、

「きゃ―――」

 直虎を抱き締める。

「直親、済まんな。

「!」

 直後、接吻され、直虎は驚愕した。

「おお」

 虎松は感心する。

 初めて養母と継父ままちちの愛を見たのだ。

「……!」

 直虎は抵抗するも、亜蓮の力は強い。

 数十秒、接吻された後、直虎はようやく解放される。

「……亜蓮様?」

「済まんな。俺は嫉妬深い人間なんでね」

 そう言うと、亜蓮は直虎の手を握る。

 強く。

「虎松」

「はい、義父上ちちうえ

「用事が出来た為、1人でお墓参りしてくれ」

「は。義父上ちちうえは?」

出合茶屋であいぢゃや(現・ラブホテル)だよ」

「了解です」

 9歳ながら、流石にそういう雰囲気は分かる為、虎松もついていくことは無い。

養母上ははうえ、頑張って下さい」

「!」

 養子にもバレていることが判り、直虎は顔から火が出そうなほどに真っ赤になっていく。

「……亜蓮様———」

駄目だめ♡ 今は直虎が欲しいんだ♡」

 愛をささやかれ、直虎は益々ますます、顔を赤らめていく。

「可愛いな?」

馬鹿た~けっ!」

 直虎は鼻息を荒くさせつつ、叫ぶのであった。


 現代で言えば道の駅のような大きな日本家屋に、直虎は引きずり込まれた。

 この場所こそ出合茶屋である。

 室町幕府の力が弱まっていた頃は、非合法イリーガルな業者が入り、所謂いわゆる『青線』(=非合法による売春実施区域)の地帯であった。

 が、織田信長が事実上の山城国(現・京都府南部)の責任者になって以降は、『赤線』(=公認された売春実施区域)となっている為、問題は無い。

 そんな場所で直虎は、愛された。

 全身をように愛でられ、されていく。

 1刻(現・2時間)丸々愛された直虎は、

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 全てが終わった後、肩で息をするのに精一杯だ。

「済まんな。急に」

 直虎の傍で亜蓮は、優しく微笑む。

「い……え……」

「直虎が可愛くてな。つい」

「……亜蓮様は……」

「うん?」

「……嫉妬深いんですか?」 

「そうだね」

 肯定した亜蓮は、直虎の前髪を撫でる。

悪癖あくへきだよね。直したいんだけど」

「……大事に、して下さるのであれば……十分かと」

「ありがとう」

 微笑んだ亜蓮は、直虎の額に接吻し、再度その愛を示すのであった。


[参考文献・出典]

*1:Japaaan MAGAZINE. 株式会社ワノコト 2021年11月9日

*2:ウィキペディア

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