第6話 織田秀孝という男
「
「ご苦労、
「は」
織田信長は、前田利家が作った報告書を黙読し始める。
『【神宮寺亜蓮】
本名 :神宮寺亜蓮
別名・異名:無し
生年 :不明
年齢 :不明(推定20代前半)
性別 :男性
身長 :約6尺(約180㎝)
体重 :約21貫(約80㎏)
足の大きさ:12
出生地 :不明
経歴 :不明
素性 :不明
職業 :浪人?
外見 :・南蛮(現・外国)系
・直毛の短髪
・筋肉質
・額に風穴の
・黒髪で黒い瞳
利き腕 :両腕
住所 :不明
健康状態 :健康
性格 :・
・訓練を好む
・時間厳守
・誰に対しても低姿勢(※本心か
……』
亜蓮を
全ての調査項目の内、
「……ん?」
信長が注目したのは、交友関係の項目。
『交友関係 :・芳春院と幸姫が
・お市が間者(現・
(市め。何をしている?)
浅井長政死去後、
(後追い自殺対策の為に監視させていたが……その心配は無さそうなのが、現時点での
織田氏は時代的なこともあるのか、不幸な最期を遂げた者が多い。
[早逝]
信秀(1511~1552 信長の父) 享年41
[戦死]
信康(? ~1544 犬山城築城主)→
信昌(? ~1574) →第三次長島侵攻
信次(? ~1574 信長の叔父) →同上
信広(1528/1531/1532頃~1574 三河安祥城主 信長の異母兄)→同上
秀成(? ~1574 信長の弟)→同上
[暗殺]
信光(1516~1556 守山城城主 信長の叔父)→犯人は家臣・坂井孫八郎
信行(? /1536~1558 信長の同母弟)→犯人は信長
[刑死]
おつやの方(? ~1575 岩村城城主)→逆磔
[自殺]
[事故死]
そういった事情の為、
そんな中、服喪期間を与えたのは、信長なりの
(そういえば)
と、信長は思い出す。
(亜蓮の
『15~16(※当時は数え年)にして、
と伝えられている。
(奴はもしかして……秀孝の生まれ変わりなのか?)
信長の実弟にあたる秀孝(『信長公記』では信行の実弟と明記)は、弘治元(1555)年に、庄内川付近の松川の渡しで叔父の守山城主・織田信次によって無礼討ちに遭い、死去した。
これは信次が家臣等を連れて川狩りに興じていた所、秀孝が供回りもつけずに単騎で乗馬通行をした為、信次の家臣によって、領主の前で下馬せずに通り過ぎようとする不届き者と誤解され、射殺された為である。
その後、信次は遺体を見て、初めて秀孝に気付き、主家・信長の報復を恐れて逐電した。
信長は単騎で信次の領内を通行していた秀孝自身にも咎はあるとし、その罪を許していた。
一方、同じく秀孝の次兄・信行は
1人の死で織田氏は一時、内紛の
15年前の話だが、信長は強烈に覚えている思い出の一つであった。
(奴は確かに15年前に死んだ……その直後に
ルイス・フロイスは自著で信長は無神論者であり、神仏を否定していた記しているが、実際には、
・寺社に度々戦勝祈願を行っていること
・織田氏と縁が深い神社に熱心な支援
・「南無妙法蓮華経」と書かれた軍旗を使用し、京では法華宗寺院を宿所に選ぶ
→一定の範囲で法華宗も信仰していた形跡
・平手政秀の死を嘆き、菩提を弔う為に寺を建立
と数々の証拠が存在しているから、その信憑性が乏しいことが指摘されている。
実際、無神論者であったかは定かではない。
但し、迷信による弊害を嫌っていたようで、その代表例が無辺という旅僧に
『無辺は
信長は無辺を引見し、出身地等を幾つか質問するが、無辺は
信長が、
「
火で
と脅すと、無辺は止むを得ず今度は事実を正直に答えた。
無辺は不思議な霊験も示すことは出来なかったので、信長は無辺の髪の毛を
更に、無辺が迷信を利用して女性に淫らな行いをしていたことが判明した為、信長は無辺を処刑させた』
この出来事から信長は、少なくとも神仏に関しては一定の配慮を行うが、それを亜悪用する人間には容赦しないという
(迷信に関しては
違う形ではあるものの、可愛がっていた弟が帰って来たのだ。
信長は目尻を緩ませ、報告書を読み進めるのであった。
[参考文献・出典]
谷口克広『天下人の父親・織田信秀 信長は何を学び、受け継いだのか』 祥伝社 2017年
西ヶ谷恭弘『考証 織田信長事典』東京堂出版 2000年
太田牛一 『信長公記』
監修・谷口克広 高木昭作『織田信長家臣人名辞典』吉川弘文館 1995年
西ヶ谷恭弘『織田信長事典』新人物往来社 2001年
『甫庵信長記』
谷口克広『織田信長家臣人名辞典 第2版』吉川弘文館 2010年
『日本史』
谷口克広『信長の政略 信長は中世をどこまで破壊したか』 学研パブリッシング 2013年
神田千里『東洋大学文学部紀要. 史学科篇』41号 東洋大学 2015年
脇田修『織田信長 中世最後の覇者』中央公論社 1987年
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