第1話 死を司る天使
2024年。
ウクライナの東南に位置する、ドネツク州。
「「「
ロシア軍による万歳突撃を外国人義勇軍が迎え撃つ。
主な顔ぶれは、
カナダ・ウクライナ人旅団
シェイク・マンスール大隊(チェチェン人義勇兵で構成)
ジョハル・ドゥダエフ大隊(同上)
ジョージア軍団
自由ロシア軍団
ポーランド義勇軍団
……
どれもウクライナを救う為に戦っている猛者たちだ。
そんな多国籍部隊には、日本人も居る。
2022年3月16日時点では、3人の軍務経験者がウクライナに入った(*1)。
義勇兵の参加は刑法が定める「私戦予備・陰謀罪」に問われる可能性があり、日本政府もウクライナ全土に退避勧告を出している(*2)のだが、そのリスクを背負ってでも現地に行くのは、相応の覚悟の証拠だろう。
当然、死のリスクもついており、2022年11月9日には日本人義勇兵が戦死している(*2)。
そんな命知らずの軍団の中には、自衛隊を退官してまでウクライナに渡った者が居た。
「……!」
ドドドドドドドドドド……
猛吹雪の中、
その180㎝の男が、機関銃のブローニングM2を撃ちまくる。
アドレナリン全開だ。
ロシア兵の四肢は欠損し、戦場は
「ジャック白井、頑張っているな」
「俺達も負けるものか!」
戦友の外国人義勇兵も士気を上げる。
ジャック白井(1900? ~1937)とは、スペイン内戦(1936~1939)に参加した外国人義勇兵の1人だ。
射撃手の本名ではないが、ここでは歴史に
しかし、終わりは突然やってくる。
ズキューン!
遠くに居たロシア軍の狙撃手が放った弾丸が、日本人の額を貫いた。
「ジャック白井!」
誰かが駆け寄ってくるも、万歳突撃によって妨げられる。
こうして、名も無き日本人義勇兵は、ウクライナの地にて
「ぐふ」
次の瞬間、日本人が目覚めたのは、
「う!」
馬から落ちないように、しっかり
馬術は、イギリス人の戦友に習っていた為、完璧だ。
「……」
日本人は周りを様子見る。
木々が生い茂り、菜の花や
それらは、5月に咲いている(*2)為、季節が5月頃と推定可能だ。
(……死んだ筈なんだけどな)
はっきりと額に弾丸を受け、死を味わった訳だが、見ての通り生きている。
(これが転生か……?)
日本に居た時、アニメでよく観ていたものが、自分の身に起きるとは思わなんだ。
手鏡が無い為、分からないのだが、触ってみる限りでは風穴は無い。
「……」
今度は馬を見る。
現代基準では体高147㎝以下をポニーと定義している(*4)為、この馬もポニーと言える。
馬と言えば現代の日本の競馬場で観るような、あのような大きいものをイメージしやすい。
が、今乗っているのは、競走馬と比べると小さめだ。
次に周囲の人々を探す。
時折見る農民や女性だが、全員それぞれ160㎝、150㎝には満たない。
見た感じ、男性の平均身長は155cm、女性の平均身長は145cmだ(*5)。
現代のそれぞれの平均身長が170㎝、158㎝(*5)なので当然、低い。
そして、現代のような洋服が無いのも注目しなければならない。
皆、和装で現代で見るような洋服は人っ子一人居ない。
居るのは、自分くらいだ。
(そういうことか)
数々の
「居たぞ! 織田の者だ!」
「殺せ!」
三つ盛り亀甲花角と三つ盛り木瓜の家紋を背負った
「!」
ふん、と男は手綱を巧みに操作し、逆に馬を突進させた。
「ぐわぁ!」
「ぐぉ!」
ポニーは小さいがそれでも時速は約40㎞も出る(*6)馬だ。
時速40㎞を出した違法改造キックボードと衝突した女性が、肋骨を折った事例(*7)があるように。
ポニーであってもひとたまりも無いのは確かであろう。
(……低いな)
武者でも160㎝に満たないのだから、
「鬼だ! 鬼だ!」
「逃げろ!」
初めて見た目出し帽の大男に武者たちは、逃げ出し始める。
「ひ、ひぃ」
腰が抜けた武者を大男は、ポニーで
(俺を『織田』という点……そしてあの二つの家紋……)
男は脳をフル回転させて、現在の居場所を特定する。
(
当初、織田方が優勢に合戦を進めていたが、信長の義弟である盟友北近江の浅井長政が裏切ったという情報が入るも、信長は「虚説たるべき」(*8)と
家臣の奮闘もあって何とか京への撤退を成功させた。
織田軍が裏切りに気付いた経緯は諸説ある。
・松永久秀の通報説(*9) ※
近江・若狭方面の外交・諜報を行っていた久秀が浅井方の不審な動きに気づいて通報
・お市の密告説(*10) ※後世の創作との指摘(*11)
お市が信長に袋の両端を縛った「小豆の袋」を、陣中見舞いに送り、挟撃の危機を伝えた
経緯は現在まで断定されていないが、それでもこの気付きが無ければ、信長と家康は討たれて、後の日本史に大きな影響を与えていたかもしれない。
「……!」
血走った大男は、M16を背負ったまま敵兵から槍を奪う。
そして、ポニーで
「クソ!」
「殺せ! 殺せ!」
浅井軍や朝倉軍は混乱しながらも、大男を狙う。
火縄銃を狙撃手が構えた。
「死ね!」
だが、大男は冷静沈着だ。
文字通り、槍を投げ、狙撃手を串刺しにする。
「う!」
「なんて野郎だ!」
槍投げの世界記録は、1996年にチェコ人選手が記録した98m48(*12)。
日本記録は、1989年に出た87m60(*13)。
2023年現在、前者は28年、後者は35年破られていない大記録である。
今回、大男が投げた飛距離は87m。
日本記録ギリギリの大記録だ。
そんな長距離からの攻撃を受けた両軍は、更に大混乱に陥る。
「ば、化け物だ!」
「に、逃げろ!」
実に約28
「なんだあの者は……」
「それにしても変な
「全くだ」
洋服が珍しい時代に迷彩服で目出し帽なのは、
更に男は180㎝と来ている。
織田信長:約170cm(*5)
豊臣秀吉:140~150cm程(*5)
徳川家康:155~158cm程(*5)
本多忠勝:約160cm(*5)
井伊直政:165cm(*5)
武田信玄:153cm(*5)
山形昌景:140cm程(*5)
前田利家:180cm(*5)
豊臣秀頼:190cm以上?(*5)
の時代なのだから、現代人の感覚に直すと2m以上に感じるかもしれない。
「バカ者! 何を
「「「お、応!」」」
形勢逆転の好機を見逃さないのは、流石、史実では信長の後を継ぎ天下統一を果たした侍だろう。
一方、撤退中の信長は、謎の救援者の来訪により、馬を停止させていた。
「黒づくめの侍……か」
明智光秀が尋ねる。
「ご存知で?」
「いや、知らんな。ともかく。これで
史実では、
元綱は信長を殺すつもりでいたのだ(*9)。
しかし、史実では松永久秀が元綱を説得して翻意させた為、帰京できたとされる(*9)。
義弟の裏切りにより、天命が遂に尽きたかと思えば、今度はどんどん風向きが変わっていく。
やはり、信長には天下取りの器たる運も持ち合わせている証拠であろう。
「光秀、その者を調べろ。そして、褒美を取らせるんだ」
「は」
光秀が去った後、信長は考える。
(黒づくめの救世主、か)
[参考文献・出典]
*1:テレビ朝日 2022年3月18日
*2:日本経済新聞 2022年11月11日
*3:GANREF
*4:和楽 2019年10月18日
*5:歴ブロ 2023年12月17日
*6:野生の王国群馬サファリパーク HP
*7:KOREAWAVE 2024年2月7日
*8:『信長公記』
*9:『朝倉記』
*10:『朝倉家記』
*11:著・神田裕理 「お市との婚姻」
編・小和田哲男『浅井長政のすべて』新人物往来社 2008年
*12:TDK HP
*13:ウィキペディア
*14:TAKASUGI HP
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