第48話 悪魔
獣が咆哮した。
山羊頭の巨人の手のひらには、偽エンバーの身体が載せられていた。その身体はあちこちが折れ曲がり、頭部が半分潰れて脳漿がこぼれていた。もう片手には、やはり壊れた人形のようになっている
「よくも……よくも……我が
山羊の口が開いた。赤黒い口腔には無数の臼歯が螺旋を描いてびっしりと生えており、薔薇の花びらを連想させた。
「この身は
「あらら、ジジイの身体を捨てたら途端に元気じゃねーの」
「なおも愚弄するか! 儂の肉体には無数の魔導印を刻んでおったのだ! 魔術の深奥を知らぬ愚昧な虫けらどもにその価値は永遠に知れまい!」
「なんつー馬鹿力だ」
「でも、遅いです!」
振り下ろされた拳をサイラスが小剣で斬りつける。アイラは懐に飛び込み、三節棍で脛を打って離脱する。
「虫けらども無駄な足掻きを!」
「こいつ、体術はまるきり素人だな」
「不死者を顎で使って、自分はろくに動かなかったんでしょうね」
しかし、サイラスたちの攻撃も効いている気配がない。小剣は切り傷ひとつ、三節棍も痣ひとつ残せない。こうなると不利なのはサイラスたちの方だ。不死者に疲労はない。持久戦となればやがてジリ貧となるのは目に見えている。
「ふざけおって……! ならば分けた魂をさらに戻す!」
分けた魂は自身を含めて十三。道化師、月、戦車、隠者の四つは失われた。残る七つを呼び寄せるために魔術を発動する。
「まだ隠し玉があったのかよ」
「いくらなんでもしぶとすぎます……」
「不死者ってのはしぶといもんだ。勉強になったな、新人」
二人は
だが、二人の警戒とは異なる意味で予想外の事態が起きた。
「……来ない!? なぜだ、なぜ魂が戻らない!?」
どういうわけか
「なんだ? 魔術が失敗したのか?」
「魔法陣はちゃんと発動しているように見えますが……」
原因は魔術自体は正常に発動しているにも関わらず、分けた魂が戻って来ないことなのだが、そんな事情はサイラスもアイラも知る由もない。発動中の魔術を警戒し、攻勢に転じることも躊躇われた。
わずかの間、奇妙な沈黙が場を支配し――すぐに破られた。
サイラスたちの背後で轟音が響いだのだ。
反射的に振り返ると、
ずず……ずずず……と石臼を挽く音が聞こえた。
否、それは重い棺桶を引きずる音だ。
そしてそれを背負うのは黒い外套を頭から被った長身の女。
「エンバー!?」
「こ、今度こそ本物ですよね!?」
ぶち破られた扉から現れたのは、棺桶を背負うエンバーの姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます