幸薄い少年とデブ猫

@syuimee2

幸薄い少年とデブ猫

住宅街の一角、少し肥満気味の猫と幸薄そうな少年。




ザーザー、と降る雨の中、少年は傘を傾けながら言う。



「うちに来るか?」





これは幸薄そうな少年が、とある出会いをもとに成長していく物語。





都市から程遠い田舎の高校。



幸薄そうな少年が教室の窓辺で肘をつきながら欠伸をする。



少年の名は〇〇。変な名前だが実は由緒正しい家なのだそう。



少年は3人兄弟の長男。



弟達は優秀なのだが、少年は学力・運動どれを取っても平々凡々。



おまけに友達も居ないし、恋人なんて程遠い存在だ。




6時間目の終わりのチャイムが鳴る。



教師の少し気だるげなな締めの挨拶と共に、

クラスメイト達が何箇所かに集まってそれぞれのグループでワイワイガヤガヤしていた。



それを横目に少年は少し羨ましながらも、


何も行動できず鞄を片手に1人教室の後ろから出て帰路につく。




周囲の楽しげな声の中、下駄箱で1人靴を履き替える。



周囲から声がする。



うわー、雨だ。最悪。傘持ってきてないよ。


ね、走って帰るか。




先程まで曇りだったが、いつの間にか雨になっていたらしい。



鞄を探りながら、折り畳み傘があるかを確認する。



あった。



相変わらず楽しげな声。



傘を忘れたらしい、

気になるクラスメイトの女子がいたが、



傘なんて差し出す勇気がなく1人困ってそうな彼女を横目に淡々と帰路につく。




校門を出て10分ほど経った頃だろうか。

猫の鳴き声が聞こえる。



しかもデブ猫で、危うく犬かなんかの鳴き声かと思った。




デブ猫は雨宿りをしていたのか屋根の下ぶっきらぼうな表情でずっと雨を見上げていた。




いつもならスルーしてる帰ってるところ。




だが、先程通り過ぎた同級生の女子の困った顔が頭をよぎり、猫のそばへ寄った。




いっしょに帰るか?




声をかけたが、こちらを見るだけで反応がない。



もう一度声をかける。




聞こえてるか?雨宿りなんてしてないで帰るぞ。




そうしたらデブ猫は驚きの反応をする。





「ここはワシの落ち着く場所だから、邪魔するな小僧」




わっ!




思わず腰を抜かして転んでしまう。




なんだ、こんなことで驚くのか。

近頃の人間は軟弱だな。



思わず言い返してしまう。




そりゃ猫が喋るなんて思うか!!





そう言うと、突然猫はだまり、こちらをじっと見つめた。




なんなんだ、この猫は。


よくよく見てみるとふてぶてしい顔つきには似合わない、


触り心地の良さそうな毛に可愛らしいフォルム...



思わず手を伸ばしてしまった。




なんだ!こやつ!くっ!ふにゃ...




ふっ、ふっ、ふっ




抵抗がおとなしくなったデブ猫の毛ざわりを

しばらく堪能していると、屋根の外の雨はより強くなっている。





なあ、なんでこんなところにいるんだ?




よくよく辺りを見渡してみると、


屋根のあるこの建物は廃屋で、

そこには誰かが不法投棄したであろうゴミの山が。




とてもじゃないが、猫にとって居心地は良くなさそうだが。




小僧には関係ない。




それから少し経って雨が弱くなる。


どうやらここから動かないらしいので自分は帰る。



じゃあな。帰るからな。



そう言っても、

デブ猫は相変わらずのふてぶてしい顔つきでこちらを見つめているだけだった。






それから下校時にここを通り過ぎるたびにデブ猫と出会った。




そして一方的にだが、話しかけるようになった。




今日、クラスの〇〇がうるさくてさぁ、授業に集中できなかったよ。




愚痴を交えつつ世間話をしているが、デブ猫は無視をする。




だが、時折気になりそうな話題やお菓子を出すとピクッと反応するのだ。





とくにスルメイカを食べていたらギョッとした顔でこっちを見てきたので、たまらず言った。




ほら、あげるよ。




デブ猫の前にスルメイカを何本か置いたところ、



綺麗な黒い鼻をすんすんと動かし、気づくと齧り付いていた。





猫なのにスルメイカ好きって、おっさんだな。





そう言うとデブ猫は


1番食べたからな。




と言った。




そこでふと気になった。



そもそもスルメイカをどうやって野良猫がいっぱい食べれるんだ?


それになんでこんな廃屋にずっといるのか。


毛並みがいいのは何故だ?




気になったことを言葉にしてみた。




なぁ、何でスルメを食えたんだ?




そういうと相変わらずのふてぶてしい顔でデブ猫は言う。





わしが世話になったやつがくれた。





ほう。


じゃあその人が飼い主だったのだろうか。


そう思い聞いてみようとするとアクシデントが。




向こう側からやんちゃな格好をした男達が、こちらに向かってくる。




するとデブ猫は毛を逆立たせて、威嚇をし始めた。



どうしたんだ?



そう思い様子を見ていると、男達がこちらに向けて言う。




ここはうちのシマのもんなんや。兄ちゃんどいてくれや。




シマ?おそらくここら一帯の半グレ達なのだろう。


するとそのうちの1人の男がにやにやと笑いながら建物に近づく。




相変わらずボロっちい場所だな。ここは。



すると男は建物の梁を蹴り上げた。




するとデブ猫は男に噛みつき始めた。




なんだ?このブサ猫は。どけや。





男が乱暴に手を振るい、デブ猫が飛ばされる。




その間見ることしかできていな自分の姿に自分で怒りを覚えた。



変わらず何もできないのか。




嫌だ。そんなの嫌だ。




そう思い咄嗟に男に掴み掛かった。




少年は男達を追い払ってくれるのか?



と、デブ猫が期待を込めた瞳で見ていると。






倒すことはなかった。



逆に倒された。





なんだてめぇ。邪魔だ。




少年は飛ばされていき柱にぶつかる。


これには思わずデブ猫も焦る。





お前(少年)まで柱壊すなよ!




少年を慮る発言ではなかったが、

少年は倒れてからも変わらず掴み掛かっていく。





ここはこいつの大事な場所なんだ。


壊すなら別の場所にしてく、ください。




知るかボケェ!



逆に刺激された男達は建物を蹴り始める。




少年は男達の足に掴み掛かり、しがみついた。




やめて、ください。




うるせぇよ!




やめ、てください。



...




ボロボロな格好で男達にしがみつく少年たちに、男達は逆に気圧された。




ちっ!興醒めだ。帰るぞてめぇら。




リーダー格らしき筋骨隆々の男の声に従い、男達は離れていった。





おい、お前。





やった!帰らせられたよ!






少年は思わず喜んだが、


デブ猫は違う発言をした。





お前のせいで、余計ぐちゃぐちゃになったじゃねぇか!





あ。




よくよく見渡せば散らかってたゴミの袋は破けていて、

少年がぶつかった建物の箇所はヒビが入っていた。




も、もうしわけない。





少年が申し訳なさそうに言うと、

デブ猫はツンと上を向きながら言う。





まあ。


お前のやる気は感じた。


ありがと、な。





デブ猫の発言に思わず少年は歓喜した。









こうして、少年は1つ目の善行を積んだ。



少年にとっては、大きな一歩。





少年は晴れ晴れとした空を見上げて、余韻に浸る。





おい、お前が荒れたところ片せ!


はいぃ...






でもその日の空はいつもよりも綺麗で輝いていた。







後にこのデブ猫との出会いが少年の人生を大きく変える。




次の善行は積めるのか?





それはまた別のお話で。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸薄い少年とデブ猫 @syuimee2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る