第11話 勇者パーティの聖騎士


 俺は障壁を張り、瘴気ブレスの威力を完全に遮断した。

 最もダメージを受けていたのはアルネだったので俺は抱き留めつつ、後方に退避する。


「まずはこいつを倒す。話はそれからだ」


 三人のパーティ仲間は、俺の登場に驚きを隠せないようだった。

 まず困惑したのはウェンディだ。


「なんで、帰ってきたんだよ。かはっ」


 ウェンディは血を吐きつつ、俺を心配している。


「国境を超えて戻ってきたのかよ。このままじゃあんたは処刑されて……」


「関係ない」


「でもよぉ」


「皆が命がけで闘ってくれたのは、俺の恩赦のためだろう。そろそろ動けるか?」


「この光は……。あーし、元気になってる?」


 ウェンディの動きが俊敏になっていた。


「ユウハ。装備を」

「あい!」


 ニンジャの迷彩で隠れていたユウハがウェンディに新たな盾を渡す。

 バハルドレイクは待ってくれない。尾の一撃が飛んでくる。


「会話の邪魔すんなや!」


 尾の一撃を、新たな盾を掲げてウェンディが難なく防いだ。

 回復だけではない。身体能力もあがっているようだ。


 次に目覚めたのはミァハだった。


「ヒイロ……。私の結界が破られちゃったよ」

「バハルドレイクのブレスは瘴気が含まれている」


「じゃあ魔法結界だけじゃなくて、体勢付与も必要って事?」

「ああ。あれは暗黒魔素の瘴気だけでなく、自然の毒。酸が粒子となっている」

「そうだったのか。だから。結界が貫通したんだ!」


 ウェンディとミァハは回復したので、アルネの回復に専念したかった。

 アルネは俺の腕の中でぐったりとしている。


「ミァハ。防御を頼めるか?」

「任せて」


 ウェンディがブレスの一撃を盾で受けるも吹き飛ばされる。

 ブレス攻撃は重騎士には荷が重い。


「ぐはぁ! まだまだぁ!」


 ブレスを発したまま、バハルドレイクが俺達に口腔を向け、薙ぎ払うように黒い瘴気が奔る。


 ミァハは結界を張ると、ブレスを遮断。拮抗した。

 

「種がわかると問題はないね」


 俺の分析が当たったようだ。バハルドレイクのブレスはやはり瘴気と酸の混合物。

 ミァハは優秀な僧侶だ。原理がわかれば、聖魔法結界に酸耐性をつけることなど容易い。

 じゅぅぅと酸の煙があがるが、結界は持ちこたえた。


 俺はアルネの治療を開始。

 ニンジャはというと、後ろで恐慌していた。


「うあぁあああ! もぉ、無理っす! ニンジャスキルじゃブレスは避けられないぃっすよ!」

 

 竜と闘ったことがないからか、このニンジャは幾分未熟なようだ。

 ニンジャは無視してアルネにヒールをかけ続ける。


「ぅ、ぅうん……」


 全体回復のヒール(闇の柱)を行ったが、アルネは俺の腕でぐったりしたままだった。


「今、楽にしてやる」


 俺はアルネの胸に直接、魔力を注ぎ込む。

 ぽうんと漆黒の球が灯り、アルネの胸に注がれていった。


「闇が、胸に?! こ、殺すつもりですか?!」

「んなわけないだろ」


 ユウハが煩いが、賑やかし要員としては悪くない。


「ん、ぐ、か、はぁ!」


 アルネが俺の腕の中で、咳き込みつつ目覚めた。


「ひ、ヒイロ……」

「君が一番重症だった。目覚めてくれて良かった」


「み、皆は……。くはっ……」

「自分より仲間の心配か。相変わらずだな」


「だって……。私、ヒイロに死んでほしくなくて。皆にも死んでほしくなくて。だから、だからぁ……」


「全部わかってる。気にするな。今は生き延びよう。立てるか?」


「……闘えるわ」

「強化を掛ける」

「任せて」


 俺は目線でユウハに合図。

 ニンジャがどこからか刀を取り出し、アルネに渡す。


「つ、つまらない武器ですが……」

「十分だわ。壊してしまうかもしれないけど」


「な、なんでもいいれふ。生き延びれるならぁ……」


 情けない声をあげるユウハを尻目に、アルネと俺は前へ。

 瘴気竜に切り込んでいたウェンディと合流。


 結界を張るミァハを守るように陣形を組む。

 俺はいつも皆としていたように連携作戦を告げる。


「竜殺しの陣形タイプDでいく」


 ウェンディが合わせてくれる。


「リーサルとれない場合はAで粘るパターンだな」


 ミァハもまた陣形について一発で理解したようだ。


「じゃあ私は結界のタイプを合わせるね。アルネは」

「問題ないだろう」


 アルネはひとり、俺達の組む陣形の中心で集中していた。

 慣れないニンジャ刀なため、より一層集中が必要なのだろう。


 聖騎士の俺が潤滑剤となり、重騎士のウェンディは前方防御、僧侶は結界を張る。勇者であるアルネはフィニッシャーとして、バハルドレイクへの致命的な一撃を狙う。


『けひゃけひゃひゃひゃひゃぁ!』


 俺の聖剣ニドヴォルグが、素早い動きで翻弄。

 竜の尾、爪と切り結ぶ。二ドヴォルグが戦闘担当しつつ、俺はアルネへある魔術強化をかけている。


「ヒイロ。横だ!」


 ウェンディが俺への致命傷を右側でカバー。大盾で受け止める。


 バハルドレイクの幾度目かのブレスが、充填。吐き出される。


 今度のブレスは渾身。ミァハの結界だけでは難しそうだ。


「俺と二枚だ。ミァハ」

「任せて」


 ミァハが聖結界と酸、俺が漆黒の結界を同時にはる。


 白と黒と酸耐性の、三枚結界がぶぅんと眼前に顕現。


 俺とミァハの防御がパーティー全員を無傷で守った。


 すべて予定通りだ。


 アルネの周囲に俺の漆黒の魔力が柱となり立ち上る。


 俺という歯車の最後のピースが戻ったことで、勇者アルネのパーティは完全復活を遂げた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る